幻のプリンアラモード

黒崎ゆみ

幻のプリンアラモード

幻のプリンアラモード


わたしは人からアリサと呼ばれている

本名かどうかなんてそんなのはどうでもいい

わたしはいつもお腹を空かせていた

声をかけてくる男がいれば

「ねえ、わたしプリンアラモードが食べたいな」

と返してた

色々なフルーツがプリンの周囲を取り囲みホイップも添えられているそれはわたしにとって特別なものだった

必ず付いてくるさくらんぼ

まるで女王のような一番の大切な主役

缶詰だろうが関係ないけどわたしはそれで相手を試していた

さくらんぼならメロンソーダにも付いてくるって?

わたし炭酸苦手なの


プリンアラモードを頼めるような喫茶店は都会でもそんなにはない

さっとエスコートしてくれるかが鍵になる

狼狽えていたりいつまでもスマホと睨めっこしているようでは論外だ

「あ、用事思い出したからまたね」

またはあるかどうかは知らない

その時点で第一試験は不合格だから


見事にプリンアラモードを差し出してくれた男にはわたしは満面の笑みでこういう

「ねえ?さくらんぼの茎を舌で結んでみて」

これが第二試験だ

わたしは実を口に咥えてから男に茎を渡す

「出来ないよ」

挑戦してもみない男は失格だ

わたしは口の中のさくらんぼの種をナフキンに出して帰るだけだ


茎をなんとか結ぼうとして結べなかった人には努力賞をあげる

この後、ちょっとぐらい付き合ってあげてもいいかな

喫茶店の中は薄暗く外はあまり見えない

天候さえわからない非日常的な空間だ

わたしはそんなところが好きだった


「アリサ、見ててご覧?」

と父はわたしに言った

口をモゴモゴさせて目玉はあらぬ方に向いてからポイっと自分の掌にそれを出した

さくらんぼの茎が結ばれていた

わたしは目を白黒させて

「わあーっ!?」

と歓声を上げた

父はこのためだけにわざわざ喫茶店に寄りプリンアラモードを頼んだ

「どうやるの!?ねえ!教えてっ!」

父は丁寧に舌を出したり引っ込めたりして教えてくれたがわたしは結局出来なかった

あっちもこっちもに舌を転がしても出来なくて諦めた


友達のみさも難なく出来た

そしてわたしに言った

「これが出来る人はキスが上手いんだよ」

「えー!?悔しいっ!」

とわたしはみさと笑った

どこまでもキスに憧れていた

上手いってどういうことなんだろう?


第二試験を見事にパスしたものはあれから現れなかった

でも、わたしが結婚したのはプリンアラモードのさくらんぼを丸々あげちゃえる男、だった

もちろん、茎を結べなくてもいいわ

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幻のプリンアラモード 黒崎ゆみ @yumi_kurosaki

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