インスタントエイリアン

シロニ

インスタントエイリアン

お湯を入れて3分、それだけでエイリアンとの出会いを楽しめる、そんなCMを見て、私は今日の夕方、高校からの帰りにコンビニでついこの「インスタントエイリアン」なる商品を買ってしまった。

だって気になったのだ、ネットのクチコミでも評価が高いし、動画サイトでも面白そうな動画が投稿されてたし、クラスでもちょくちょく周りで話してるのが聞こえてきてしまった。


「おっ、買ったの?」

「うん、買ってみた」


チャットアプリを使って、親友のゆうこに写真を送る。


「それ最近流行ってるよね、でも危なくない?」

「1時間も経たない内に消えるし、危険な現象は起きないようになってるってさ」


「えぇー?信じられない。一人でやんないでよ?」

「バカ!楽しみが減るでしょーが!こういうのは深夜に一人でやるから雰囲気が出るの!」


と言ったものの、私はそういったものには詳しくない、サブカルもスポーツも、広く浅くしか知らない普通の人間だ。


「はぁー?雰囲気とかそういうのは別として、私はあんたが心配だから言ってんの!それ動画サイトとかでも見たけど、いまいち信用出来ないし...」

「ゆうこは心配しすぎ!ちゃんと安全性は確証されてるってネットでも書いてあったよ」


「ネットの情報を鵜呑みすんな」

「分かってるってば!」


「全く...」


ところで、今の時期は秋、そして私が住んでいるのは東京で、今日は10月の29日だ。


「ところで話変わるけどさ、ゆうこは仮装決まった?」

「私はいい」


「えぇー!?なんでー!?」

「渋谷ハロウィンとかバカが迷惑かけながら騒ぐだけのやつじゃん。ちさとが行くなら行くけどさ、私は仮装とかしないよ、正直用意が面倒くさい」


「なぁーんーでぇー!!」


結局私だけが吸血鬼の女王の仮装をすることになって、その深夜、お母さんたちにお願いをして少しの夜更かしを許してもらい、私は自分の部屋でインスタントエイリアンにお湯を注いだ。


「何が起こるのかな、結構高かったんだから楽しませてくれないと許さないからね」


全員緑色のあの黒目的なエイリアンが缶の中から出てくるのか?それとも窓の外にUFOが現れて来るのか?それとも部屋のパソコンが勝手についてエイリアンがなにかのメッセージを...

なんてことを考えながら、私は部屋の電気を消して、明かりはスマホと懐中電灯の光だけになる。


その時、缶が突然カタカタと揺れ出して、私は部屋が暗かったのもあって大きな声を出して飛び退いてしまった。


「ギャァァー!?な、なに!?ちょっと驚かさないでよ!」


次に頭によぎったのは深夜に大きな声を出したから親に怒られるかもということ、正直インスタントエイリアンよりもそっちの方が怖い。

そして数秒経つと缶の揺れはおさまり、代わりに缶が勝手に開いて中には入れたはずのお湯はなく、代わりに虹色の光が飛び出してその中から光り輝く人型のなにかが飛び出してきた!


「いやぁぁー!!なになに!?」


慌てて部屋の電気をつける私、しかし私はすぐにインスタントエイリアンが出来上がったのだと察した、現に今飛び出してきた生き物は無邪気な瞳で私のことを見つめている。


「えっと...あんた、インスタントエイリアンでいいんだよね?」

「Ksm3&gmj5d7v55jk!!」


「なんて?」


その後は、私はこの未知の生き物と意思疎通を図った、そして数分後にこいつ...いや...「彼」は訳の分からない言語を喋っているんじゃなくて、声に強いノイズがかかっているということに気がついた。

どうやら彼の星には魔力的な何かがあって、彼も体内から発するその魔力が私の聴覚に影響してノイズがかかってしまうのだと言うのだ、それに合わせて普段は異星人との会話用にノイズ遮断機を持っているというのだが、どうやら宇宙船に忘れてきてしまったらしい。


「へ、へぇ...そういう設定なんだ...」

「そうなんjsm4k!だからわたしは船にかygl5kんだけど、不運なことに悪人に船をvabgjst&5v5てしまl2vjね!」


「えっと...よく分からないけど、船を盗まれて困ってるんだね?」

「そうNanだ!サラミ不運なGo toに、目が覚めたlkt5服が亡くなっててね!この星の人類Wow身体を布で角酢のが習性で、そうしNight死んでしまうって聞いた&jbsだ!」


ノイズが酷くてよく聞き取れなかったけど、今地球の人類について変な誤解があったような気がする。


◇ ◇ ◇


そして、私はこの困ったエイリアンを助けるために色々と話をしていた、ただ、そうしているうちに段々と楽しくなってきたっていうか、感情移入してきてしまった、だって私は今まさに漫画やアニメの中で見るようなことを、作り物とはいえ体験しているのだ、それに、困っている誰かを助けるのは当たり前だ。

最初はあんなに驚かされたけど、こんなに完成度が高いなら許してもいいし、ネットであんなに高評価を受けていたのも納得だ、こんな当たり前じゃないことを気軽に楽しめるなんて最高すぎる!


そして私は消費期限の45分が近づいていることに気がついていなかった、エイリアンの彼の船を探す手助けをしようと親を起こしに部屋を出ようとすると、彼が突然ノイズの少ない声で話しだしたのだ。


「あぁ...来てしまったんだね」

「えっ...どうしたの?ほら、探しに行こうよ、私も手伝うし、そうじゃないと貴方帰れないじゃん」


「ゆうこちゃん、時間が来てしまったんだ、消費期限の45分さ」

「あっ...」


彼はとても悲しそうな顔をしていた。


「そっか...来ちゃったんだ...これからだったんだけどな...」

「うん、僕も残念さ、せっかく君が親切に助けてくれようとしたのに、がっかりさせてしまったね」


「...ねぇ、また貴方に会うにはどうしたらいい?お湯を入れる前に入ってた粉をその缶に入れ替えてお湯を入れたらいいの?それとも...」

「ゆうこちゃん、それは無駄だよ」


「えっ?」

「僕は作り物さ、君たち購入者に一時の非日常を送るために作られた、ただの幻だよ。だから記憶は残らないし、引き継げもしない、全部綺麗さっぱり無くなる仕様だからね」


「...」

「また僕に会えたとしても、それは別の僕だし、その僕もきっと記憶は残らない、だから君は深く考えず『気軽に』楽しめばいいのさ」


彼の言うとおり、これは娯楽だ、金で買える45分の当たり前じゃない非日常、そういうものに入れ込みすぎるのはダメなことだ。


「...でも」


でも、私は何故かこれに憤りのようなものを感じていた、だって、彼の表情も、感情も心も、その全てが1時間足らずで消えゆく幻だとは感じられないほどに精巧なものだ、これが作り物だなんて信じられない、いや...信じたくなくなっていた。


「でも...じゃあなんで貴方はそんな悲しそうな顔するの、なんでそんな握手出来るくらいに身体がしっかりしてるの、それが全部作り物の偽物って言うんなら...もう私この世の全部が本物か信じられなくなっちゃうよ」

「あっはは、褒め言葉として受け取っておくよ、本社にメッセージで送れでも出来たら良かったんだけど。あいにく消えゆく僕にはそんなものはなくてね、だから君がレビューを書いてくれると嬉しいな、出来れば高評価で!」


「...ねぇ」

「ダメだよ」


彼は私の言葉を遮るように言った。


「言った通り、僕は作り物だ、姿形も、感情も、君たちに素晴らしい体験をしていただく為に精巧作られたもの、つまり本物じゃない。だから君は僕を消費物として扱っていいんだ」

「...」


「いや、扱ってもらわないと非常に困る。君に素晴らしい体験をしてもらう為に、君が何か悲しい思いをしてもらうのは好ましくない、だからそんなに難しく考えないでおくれ?ほら、今の時期はハロウィンが近いだろう?」


彼はカレンダーを指さして言った。


「ハロウィンは仮装をして、友達と街を練り歩いて楽しく遊ぶイベントなんだろう?」

「...違う、本当はそんなんじゃないって友達が言ってた」


「ありゃ?そうなのかい?それは...困ったね、僕には地球にお忍び旅行に来た宇宙人の設定通り、地球の催事については半端な知識しかないから...良ければ君がおし...おっと...あっはは...今のは...良くなかったね」

「ねぇ、本当に?本当に消えちゃうの?私は...楽しければどうでもいいなんてもう思えないよ...」


「...君は、きっと優しい人なんだね」


その時、彼が足元から徐々に光の粒になって消え始める。


「...っ!?」

「あぁ...とうとうか。ゆうこちゃん、いいかい?そんなに深く考えこまなくてもいいんだよ!深く考えずにいることで救われることもきっとあるんだ!」


「でも...!でも...!こんなことになるなんて思ってなかった!ただ安っぽいかちょっとすごいぐらいの何かが起こる程度って思ってた!それなのに...!こんな目の前で誰かが死ぬみたいな気分になるなんて!思わなかった!」

「ゆうこちゃん!何も考えるな!僕は死ぬんじゃない!だって元々存在しないんだから!」


「そんなこと言わないで!もっと混乱するじゃない!じゃあどうすればいいのよ!貴方がそんな現実っぽいせいで!貴方がそんなに本当に生きてるみたいに見えるせいで!本当に生きてて欲しかったって!ちょっと思っちゃったんだもん!」


こんな目の前で大切な誰かが死ぬみたいな気分になるなら...インスタントエイリアンなんてもの買わなきゃよかった...貴方なんかに出会うんじゃなかった...こんな...こんな...ただの娯楽品ごときに!


「じゃあのめり込みすぎるな!これから長い人生を生きていく君にはきっとたくさんの別れが訪れる、それなのに僕みたいな作り物ごときにいちいち泣いてたらきっと持たないとも。だからその悲しみは君の大切な人に、僕みたいな作り物を大切に想ってくれる優しい人のために残してくれ!死を悲しんでくれる誰かがいるなんてとっても素敵なことじゃないか!」


そして彼の身体はもう首の半分ぐらいまで消えかかっていて。


「それに...そんなに悲しまれたら消えずらいじゃないか、せめて笑っておく...」


彼は一瞬言い淀んだが、すぐさま優しく笑って、言った。


「僕の死には笑って送り出しておくれ!そういう設定お願いなんだ!!」


そして1粒の涙を流しながら、私は窓の外に消えていく光の粒子をなんとも間抜けな様子で見届けていた、そして私は少々盲目的になっていた自分の頭を横に振って正気を取り戻す。

もしかしら、これもこのインスタントエイリアンによる効果なのかもしれない、だけど、お湯を入れて三分程で出来上がる程度の別れについ感情移入してしまうほど私がただおバカなだけなのかもしれない。


どっちであるのか、それともどちらとも違う何かなのか、今となってはもう私には何も分からず、勉強机から椅子を窓辺に動かして、晴れた日の暗い星空の向こうにもしかしたら彼みたいな種族がいるかもしれないと、まるで小さな子供が絵本を読んだ後に目を輝かせてするのと同じようにその想いを馳せることしか出来なかった。


◇ ◇ ◇


そして、それから私はインスタントエイリアンに熱中した、いや、取り憑かれていたと言ってもいい、私は彼との再会を、もしくは面影を感じたくてインスタントエイリアンをたまに買っていた。

しかしお湯を入れて出てくるのは違う宇宙人、空を通り過ぎていくどうでもいいUFO、私はどれだけインスタントエイリアンを買ってもあの彼に会うことは出来ず、公式に問い合わせてみてもランダム性が強く狙ったものを狙うのは難しいという回答しか帰ってこなかった。


だから私は焦った、彼を忘れたくなかったから、だから私は見えていなかった、私を心配する家族も、インスタントエイリアンにのめり込む私に対するクラスメイトたちの目も、そして...そんな私が気に入らないゆうこのことも...


「ちょっと!返してよゆうこ!」

「だめ!最近ちさと変だよ!?クラスメイトから盗んでまでインスタントエイリアンを欲しがるなんて!やっぱりろくでもないものだった!こんなもの!」


ゆうこは私からクラスメイトから盗んだインスタントエイリアンの缶をクラスメイトに返すと、何故そんなことをしたのかと問いただす、それは至極当然のことだ。


「なんでこんなことを?あんたそんな子じゃなかったじゃん!教えてよ、それとも親友にも言えないことなの?」

「うぅ...」


私はあのことをゆうことクラスメイトに全部話した、クラスメイトは部活があったから校舎に戻った後、ゆうこは私の隣に座った頭を撫でてくれた。


「はぁ〜ほんっとにあんたは...バカ、ほんとにバカ!私よりあんたの方がよっぽどおバカじゃん!」

「うっ...何も言い返せない」


「あのねぇ...その『彼』の言うとおり、たかが娯楽の為の作り物にそんなに入れ込んでどうすんの???」

「あぅ...」


「...娯楽ってのは、あくまでも楽しむためのものなんだから、消えていくことを悲しんだり、続いて欲しいってのは分かるよ。でもさ、だからこそ価値があるんだよ、人生だって、命だって、きっとこの星だって、終わりはある、当たり前じゃないんだ」

「ゆうこ...」


「だからこそ人は、笑って、足掻いて、苦しんで、その先にある納得出来る終わりを目指して進んでいくんだ、数々の終わっていったものたちを思い出にしてね、思い出ってのはそういうものだよ辛い時に思い出して尻を叩いてくれるものなんだよ、きっと」


ゆうこはゆっくりと伝えたいことを出来る限り言語化しようとしながら、なおかつ分かりやすくあるようにと言った、その言葉に私は正気に戻っていたと思い込んでいた頭をようやく元に戻し、執着していたものを諦める。

だけど捨てたりはしない、旅の途中でいつでも思い返せるように、思い出のアルバムの中に写真として名前も知らない彼のことをしまっておこう、気のせいか、頭の中のその写真はどこか笑っているような気がした、それか私がそうであってくれと思ったからだろうか。


「私たちが当たり前だと思い込んでる...いや、思い込みたいそれは、決して当たり前じゃないんだ、もちろん私もゆうこと私の関係のこともね。ジェンガは1度崩れたら積み上げるのは面倒くさいんだよ?」

「うん...うん」


私は強く、2度目はさらに強く、ゆうこの目を見ながら返事をした、当たり前ではないゆうことの関係、私のことを想ってくれるその優しさ、1度壊れてしまえば修復は難しいその当たり前ではないものの愛おしさに気がつきつつ、それを失うかもしれなかったことを理解して私は恐怖した。

そして、私が彼に執着していた理由はもしかしたらこれかもしれない、私は失うことの恐怖を初めて経験して、分からないながら迷走していたのか、それとも他になにかあるのか、私はゆうこのように哲学的な思考をすることはあまり得意じゃない、だから彼が言った通り、深く考えないことにした。


「ゆうこ...」

「んっ?なに?」


「その...ありがとう」

「礼はいい、それより缶を盗んだあいつにちゃんと謝んなよ?」


「うん、分かった、私しっかり謝ってくる。それと...いつもありがとう」

「ん?うん」


「私、勉強とかそんなに出来るほうじゃないのにいつも家に来て勉強会開いてくれたり、私が満員電車で痴漢されないようにさりげなく警戒してくれてたりとか...」

「んっ...?待って?」


「他にも色々...」

「ねぇちょっと待って!?このタイミングで!?やめてよ恥ずい!」


「このタイミングじゃないともっと恥ずかしいと思って...」

「あぁ〜!もういい!分かったから!帰るよ!」


ゆうこは少し赤くなった耳を長い黒髪でさりげなく隠すようにしながらバッ!と立ち上がった。


「うんっ!」

「...その、ちさと」


「どうしたの?」

「簡単なものでいいからさ...今からでも...間に合う仮装とか...ある...?」


「...っ!うん!」


そして私とちさとはハロウィン当日、渋谷には行かずにちさとの両親と缶を盗んだクラスメイトを家に誘って、私の家族とのみんなでワイワイ過ごした。


◇ ◇ ◇


11月某日、コンビニで良い香りのするお線香を買って、帰宅後家の庭の日陰になるところ、しかし朝日も拝める場所に私は木の枝を使って十字架の墓標を建てようとした。


「あれっ?これだとなんか違うかな?墓標ってどうすれば...枝を刺すだけでも良いのかな?」


私は悩んだ末に。


「まぁいいか、こういうのか気持ちが大事だよね」


そして私は地面に木の枝を2本刺して墓標を作り、両手を当てて死人でもない彼に祈る。


「...」


そして私は家に戻り、ソファーに寝転がりながらスマホからインスタントエイリアンについての低評価レビューを書いた。






「後書き」

ピノキオPさんの「初めまして宇宙人さん」はいいゾ。

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