第2話 独身貴族

 オサムがマックをシャワー室に案内していると、塾長がやって来た。


「あっ、塾長……彼が102号に入るコバヤシショウドウです……、マックって呼んでます」


「どうも、ヨロシク、管理人の善田です」


「カンリニン?」


「ここでは管理人の方がいいだろう……」


「宜しくお願いします、虎林正道です」


「コ・バ・ヤ・シ・シ・ヨ・ウ・ド・ウ……え~と、……なんでマックなの……」


「あ~それか、名前をマサミチって呼ばれたりして、訂正するのが面倒臭くなって……マックになってました……久しぶり説明しました」


「なるほど、……マッ君、宜しく」

 管理人の善田は、収納やその他諸々不便なことを詫びた。



 マックが入居して三日後、ボストンバックを背負って、シャンパン片手にやって来たのは、ケンこと鷹峰研二であった。

 ケンも同じく中学までの同級生で、朝は新聞配達をして、夜は実家のスナックを手伝っていた。


 マックとは対象的に、ケンは180㎝の100㎏と身体は大きかったが、何をさせても動きが鈍く、活動的で短気なマックをしばしばキレさせ、蹴りやパンチをもらっていた。そんなとき周りの者は少しスッキリしていた、オサムもその一人だ。

 だが、ケンはマックを何かにつけ頼っていたから、マックの一声で入居が決まった。


 ケンは朝の新聞配達を済ませると、午前中は寝て過ごし、昼から夕方まで、自称、将来有望なまだ売れない漫画家のショウゾウこと、宮河内章造の廃墟のようなアパートに入り浸っていたから、ケンからこの件を聞くとショウゾウ自らオサムに連絡してきた。


 ショウゾウは二十七歳にもなって、ひとりアパートに籠って毎日ただ漫画を画く地味な作業は、時折、恐怖にちかい孤独を感じることもあるという。俺はなんて無駄なことに時間を使っているんだと、落ち込むことがあったりするが、週に五日は顔を出してくれるケンは、漫画を読んでコンビニ弁当を食べて帰るだけだが、ケンを見ていると─コイツよりはマシだろ……、なんて思えてくる。

 やっぱり、ひとりは駄目だ、ネガティブ思考で潰れそうになると云って、入居を懇願してきた。

 オサムにとっては勿論OKなのだが、どうもケンに早くしないと満室になるかもと聴かされていたようだった。


 ショウゾウが愛車のミラジーノ(ダイハツ)にダンボールを詰め込んでやって来たのは、オサムに連絡があった翌日だった。


 二階への階段は中央にあり、階段を挟んで左右に三室づつあり、階段に近い左の203号がケン、右の204号にショウゾウが入った。


 それから三日後、ザキの運転で、レガシー(スバル)のアウトバンに、ブンと二人分の荷物を乗せてやって来たのが、 201号を選んだ、郵便局に勤めるブンこと、越川文浩。

 202号に入居したのが、ファーストフードでマネージャーをしているザキこと、崎村弘和だった。


 ブンは父親が高校の教師、母親が中学校の教師、歳のはなれた兄が大学の助教授という家庭環境が禍したのか、劣等感が強く何かにつけ反抗的で、いつも誰かに説得されて行動するタイプだった。所謂、カマッテチャンだ。


 そこで、ブンの説得にあたったのが高校時代野球部で、オサムと一緒だったザキである。

ブンとザキの実家は近く小学校はいつも一緒に登校していたほどだ。


 ザキはオサムがこの件の話しをすると、面白がってすぐに乗ってきたが、ブンがなかなか首を縦に振らないことを知ると、自らブンの家に出向いて説得してくれたのだ。












  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る