最後の足掻き、独身貴族

フシ

善田荘

第1話 管理人室からシャワー室へ

 オサムこと、月町 治が善田塾長の趣向の凝ったアパートに入居したのは、三ヶ月前。


 新築のアパート入居第一号がオサムであった。


 アパートの大家であり、オサムが非常勤講師を勤める、学習塾のオーナーでもある善田翔一朗は、講師陣と生徒たちには自分のことを『塾長』と呼ばせていた。


 塾長は、何かにつけ若い講師をつかまえては、こどもの頃の夢や、これからの夢を熱く語って聞かせる独身の三十九歳である。


 そんな塾長の仲間づくりをかねたアパートは、一階の出入口にあるロビーがやけに広く、そのロビーには部屋ごとに五足まで入る下駄箱が備えつけてあった。

 下駄箱があるということは、当然そこで室内用に履き替えるためであり、アパートというより、まさしく寮といった観であった。


 オサムが三ヶ月前まで住んでいたアパートは、築五十年を経て、隣室のカップルの夜の振動が壁を伝わってくるだけでなく、イキソウでなかなかイカナイ女の喘ぎ声が日増しに大きく聞こえるようになっていた。


 オサムが、そんな寝不足の愚痴を塾長にもらすと、半年待てと言って、五年前に近所にできたコンビニに無償で貸していた駐車場を止め、アパートを造ってしまった。


 そんな感じで、できた寮みたいなアパートの入居者を探すのは、必然的にオサムの役目となった。


 一応、塾の若い講師陣に声がけはしてみたが、新築の内見をするなり、やはりまるで寮みたいだと、家賃を払って、引っ越してまではちょっとと、丁寧なお断りを頂いた。


 短期間で速攻で造られただけあって、足りないものが所々あった。


 部屋数は八室、全部造りは一緒でワンルーム(9畳)のロフト(1.5畳)付き。

 まず、トイレはあるが、浴室がない。

 洗面所はあるが、キッチンスペースがない。

 窓はあるが、ベランダがない。

 なぜか神棚はあるが、クローゼット、収納スペースがない。

 オサムはアパートと言って募集をかけるのには無理があることを、塾長に懇切丁寧に説明した。

 やはり、塾長の発想にはアパート=寮となっていたようだ。


 結果、家賃一年間無料、オサムが保証人となることで連帯保証人不要で、ランドリー室シャワー室を確保してもらうことで、交渉は成立した。



 部屋数は八室、一階が二室と広いロビーとランドリー室にシャワー室(予定では管理人室だった所)、二階が六室。

 オサムは一階の101号、残りは七室。


 オサムが最初に声をかけたのは、幼なじみの中学まで一緒だった、同級生のマックこと虎林正道であった。

 マックとは高校が違ったため、中学を卒業してから暫く会っていなかったが、成人式で会ってから、毎年の正月と気まぐれな飲み会で、近況を報告し会っていた。


 マックは高校を卒業すると映画学校(専門学校)へ進んで、映像制作会社勤務を経て、去年からフリーのカメラマンとして独立していた。

 独立といっても事務所は実家の一室で、何かと不便であることを聴かされていたから、

話しを持ち掛けるとすぐに乗ってきた。

 マックはオサムが話して二日後、愛車のダットサン(日産)の荷台を山盛りにしてやって来た。


 重い機材があるマックは、迷わず一階の102号に決めた。

 マックとオサムはダットサンから荷物を部屋に運ぶ。

「新築みたいに綺麗じゃん、」

「……みたいに……」

「……寮だったんだろ、収納も、キッチンもないなんて……中学の野球部の寮思い出すわ、」

「……そうだなぁ、云われてみれば……」


 そうゆう事にしておこうと、オサムは決めた。塾の独身寮だったけど、続けて結婚が

決まり、オサムひとりになったのをきっかけに一般の人も入れるために、リニューアルしたと説明することにした。

「……うん、これはつかえる!」


「ん、何が……」

「えっ、何でもないよ……」


「大浴場どこ……、」

「……ん、……」

「部屋に浴室ないから……」

「だ・よ・ね……」














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