となりにいるよ

髙咲 天

第1話 雨の音で君は笑った



雨の音で、目が覚めた。


パラパラという軽い音じゃない。もっと深く、窓を叩きつけるような強い雨。

ぼんやりと天井を見上げていると、視線の端に何かが映る。


、、、誰かが、見ていた。


隣のベッド。仕切りもない、すぐそこ。ミツキが、布団の中からこちらを見ていた。


「起きた?」


いつものように、柔らかく笑っていた。


「おはよう」


声を出すのに少し時間がかかった。喉が乾いていたのか、あるいは、見られていたということに気づくのが遅れたせいか。ミツキはベッドから起き上がって、濡れた髪を手でかき上げた。

「シャワー、借りてた。君より早く起きちゃってさ」


「うん。」


曖昧にうなずいて、カーテンを開ける。空は鉛色に沈んでいて、窓の向こうには雨粒がびっしり貼りついていた。


転校してきて三週間。見慣れたはずの寮の一室が、どこか湿って冷たく見える。

天気のせいだろうか。あるいは、昨日の夢のせいだろうか。いや、夢じゃない。


昨日の夜、ミツキが隣のベッドに腰かけて、こんなことを言った。


「ナオくんって、ほんと静かだよね。何考えてるか、ぜんぜんわかんない」


その言い方が、少しだけ刺さった。

でもミツキの口調に、怒りや呆れのような感情はなかった。ただ、観察するような目だけが、妙に強く印象に残った。


ナオ──俺は、自分のことを誰かに説明するのが苦手だった。

この寮に来た理由も、誰にも話していない。教師には言えと言われたけど、必要だと思えなかった。前の学校で“何かがあった”のは事実だが、それをここで言えば、また「普通の関係」は築けないと思ったから。


「今日も雨っぽいね」

ミツキの声で我に返る。

「傘、ひとつしかないけど、また一緒に入ってくれる?」


冗談のように言うその口ぶりに、何も言えなくてただ頷いた。

そう、ミツキはいつも優しい。やりすぎるほどに。


食堂でも、教室でも、いつも一歩だけ近くにいる。

同じ寮に住む生徒は十数人いて、教室では別のクラスなのに、なぜか一緒にいる時間が長い。ミツキの隣にいると、たしかに安心する。けれど、同時に時々、息苦しさのようなものを感じるのも事実だった。


俺はきっと、怖がっているんだ。


何を──彼を? それとも、自分の過去を?

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