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「ねえ、ぜんぜん良い場所ないじゃん」

 3人は中庭に戻ってきて、同じベンチに腰かけた。もっとも、今度は3人とも疲れ切ったようにベンチにもたれかかり、ため息をついた。

「当然ですわ。そもそも、無断で使おうというのが間違いなのではありませんか」

「こういうのは押さえちまったらこっちの勝ちなんだよ。……だけど、だれもいないところはロクな場所がなかったな」

 クロエは、腕を組んでうなった。

 ロングスカートの裾が地面につくのも気にせず、ベンチにどかりと座る様子は、そこらの男子より迫力がある。遠くで数人の女の子が、クロエをちらりと見てさっと目を逸らした。

 中庭には、傾き始めた午後の日差しが差し込む。風もやんで、空気だけがじっと3人の沈黙を包んでいた。

 そのときだった。

「あ〜リナリィだ。何やってるの、こんなところで」

 3人が顔を上げると、人なつこい顔をした女の子が近付いてきた。

「あ、ジジだ。よっす」

「おっすおっす〜。しかもクロエさんとナタリアさんもいる〜有名人じゃん。なになに、教室を爆破して、次はなにをやろうとしてるわけ?わたしにも教えてよ」

「文屋に用ないから」

 クロエは、そっぽを向いた。

「リナリィ。そちらは、箒レースの実況をされている?」

「そうそう、ジョルジュ・コナー。新聞部の部長もやってんだよ、こいつ」

「どうも〜、ジジって呼んでね」

 ジジは、にこやかに手を振った。

「なんというか、実況をしているときとは、かなり趣が違いますわね」

「普段はこっちなんで〜。あんなに声張ってたら、取材相手にビビられちゃいますからね。あと、のどが死にます」

 リナリィは、あっ、と声を上げた。

「そうだ!ジジ、ちょうどいいところに!お前、新聞部の取材であちこち行ってるから、マギ専だけじゃなくて、アルクスのことも色々くわしいだろ。どっかに良い感じの空き部屋とか知らない?」

「空き部屋?それってさっきの爆発になんか関係あるの?」

 リナリィは、かいつまんで説明してやった。箒が折れたこと、新しい鉄箒を手に入れたこと、クロエが工房を爆発させたこと(クロエが「おい」と言ったが、リナリィは気にせず続けた)、そして、メンテナンスをするのに新しい研究室が必要なこと。

「かつて滅びた古代文明の遺物でできた箒に、だれにも気づかれていなかった“鉄の門”。マギ専でも有名なクロエさん、ナタリアさん、リナリィのトリオ、そして、次の“魔法使いの夜マギ・ナイト”のレース……」

 リナリィの話が終わったあと、ジジはしばらくの間、ぶつぶつと呟いた。

「……うん、これは絶対に面白くなるやつだ……そんな気がする……」

「ジジ?」

 リナリィが聞くと、ジジは、う〜ん、と首を傾げた。

「空き部屋かあ……正直、そんな感じで部屋を使わせてくれそうな話は聞いたことがないかな」

「なんだ、ジジでも知らないのか」

 リナリィは、がっかりしたように肩を落とした。

「あ、でも〜、マギ専を卒業した先輩で、アルクスでお店を開いた人がいるんだけど、その人に頼んだら部屋を貸してくれるかもしれないよ?」

 思わず、リナリィは、がばっとジジの両肩をつかんだ。

「ほんと!?」

「ほんとほんと〜。なんか、最近困ってるらしくて、だれか手伝ってほしい、みたいなこと言っててさ。助けてあげたら、リナリィ達に空き部屋のひとつくらい使わせてくれるんじゃないかな〜」

「マジで!?やるやる、あたしやる!」

 リナリィがジジの肩を勢いよく揺さぶるものだから、ジジの首ががくがくと前後に振り回された。

「あうあうあうあう。……じゃ〜、連絡しておいてあげるから、ちょっと話聞いてあげてくれる?」

 任せろ、とリナリィははしゃいだ声を上げた。

「よっしゃ!行こうぜ、ナタリア、クロエ!とっとと人助けして、あたしたちの拠点にしようぜ!」

 ジジから店のありかを書かれたメモを奪い取るように受け取って、リナリィは、箒をつかんで走り出した。

 残されたナタリアとクロエは、互いの顔を見合わせた。

「見事にしてやられましたわね。リナリィは」

「ったく。あの程度の見え透いた手に引っかかってんじゃないよ」

「……ありゃ、ばれてました?」

「当たり前だろ」

 クロエは、ジジをひとにらみして言った。

「リナリィに恩を着せて、私達が拠点を手に入れられるよう仕向けて、何がねらいだ」

「いやだな〜、ねらいだなんて」

 ジジは、柔らかに笑った。

「ただ、みなさんについて回ってたら、面白い記事が書けそうな気がして〜。箒レースならマギ専で一番のリナリィに、破天荒なクロエさんとドラゴミロフ家のお嬢様が一緒だなんて、なにか起きそうな予感しかしないもの」

 クロエは舌打ちを鳴らした。情報の出し方ひとつで人を動かして、自分は得をしようとする、というのが、クロエは気に入らなかった。

 しかし、そんなことはお構いなしに、ジジは顔いっぱいに笑顔を浮かべた。

「なにかあったら、一番に教えてね〜。一面の記事にしてあげるから」

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