第2話 もっと運命に悩む
「それならば、私がいます」
今度は、笑顔を浮かべているものの、目が笑っていないイケメンが現れた。
「私はメリーバッドエンド。沙良は病気で死に、それを知った紅も自ら命を絶ちます。その後、二人は死後の世界で永遠に結ばれます」
「メリバってやつかぁ……」
芽吹は悩んだ。決して安易な幸せではない、でも一応紅と結ばれて沙良は幸せ、というなら、展開としては良いのだろうか。
しかしこの展開では、沙良だけでなく紅まで死んでいる。紅の家族はもちろん、学校一のイケメンという設定なのだから、学校中の女子が嘆き悲しむだろう。それでもバッドエンドよりは幸せと言えるのだろうか。
さらに、死後の世界というのも問題だ。この際死後の世界は存在することとしても、そこにいるのは二人だけではないはずだ。
今まで死んだ者全てがいるというのは多すぎるので、「日本人のみ滞在し、一定期間が経ったら転生して去っていく世界」と仮定する。
それでも数万人はいるのではないか。その中で、同時に死んだわけでもない二人が出会うのはなかなか大変だ。
愛の力か何かで二人が出会えたとしても、周囲には死者の集団がいるというのに、そんな場所で二人の世界なんて作っていられるものなのか。ただの非常識なカップルじゃないのか。和をもって貴しとなせ。
「そこまで書くわけではないのですから、悩む必要はありませんよ」
メリーバッドエンドが甘い誘惑をささやく。しかし、それは見通しが甘すぎるというものだ。
詳しく書かずに読者の想像に任せる、ということは、作者の想像を遥かに超えたことを考えられかねないのだ。
紅というイケメン高校生の突然の自殺は、ワイドショーなどで大いに騒がれるだろう。それを見た事情を知らない人達は、「家庭内に問題があったに違いない」「学校がいじめを隠蔽しているのだろう」などという勝手な憶測で、紅の家族や学校を一方的に非難する。
ももは、親友とその彼氏に死なれるというショックから立ち直る間もなく、マスコミに狙われる日々を送ることになり、ノイローゼになってしまう。最悪、ももまで自殺しかねない。
さらに、沙良と紅は死後の世界で空気を読まずに過ごしていたせいで、死後の世界の平穏妨害の罪(公然イチャイチャ)を問われ、地獄にでも送られるかもしれない。
読者の想像に任せたら、こんなことになりかねないのである。
なんだこれは。関係者が全員不幸になっているではないか。メリーバッドエンドではなかったのか。メリーさんがいなくなってバッドさんだけ、というかもはやワーストだ。最悪だ。絶対こんな作品で人気は出ない。
「それなら、わしがおるぞ」
また増えた。老人のように喋るが、見た目は若いイケメンが現れた。
「わしは異世界転生エンド。沙良は死ぬが、異世界のパレット王国に転生し、ゴールドマン伯爵の屋敷で働くメイドになる。沙良は前世の記憶を駆使してゴールドマン伯爵に重宝され、溺愛されることになる」
「いっ……異世界転生ねえ……」
芽吹はまたまた悩んだ。異世界転生ものがよみかきで人気のジャンルであることはよくよくわかっている。リアリティこそ無いが、こっちの方がウケがいいのかもしれない。
いや待て、異世界転生ものというのは、基本的に物語の「序盤で」主人公が異世界転生するものだろう。ここまで話を進めておいて異世界転生って、これでは単に作者が
というか、「前世の記憶を駆使して重宝される」って何だ。ごく普通の女子高生の記憶ごときが、伯爵様の何の役に立つというのだ。貴族なめるな女子高生。
だいたい、沙良はメイドになったというなら、掃除とか洗濯とかを必死になってやらなくてはいけないはずだ。しかも、異世界なんだから掃除機や洗濯機もたぶん無い。ちゃんとできるのか女子高生。
「転生する時にもらえる能力で、面倒なところは簡単にできるようにすればよかろう」
異世界転生エンドがなんかズルいことを言う。出たー、ご都合主義。
しかし、それこそ問題だ。謎のチート能力を使って仕事をパッと済ませるメイドなんて、他のメイド達からしたら嫌な奴、もしくは正体不明の怪しい奴だろう。そんな奴がご主人様から溺愛されるなんて、裏でどれだけ恨まれるかわかったものじゃない。ひょっとしたら「あいつ危険ですよ」と密告され、投獄だの処刑だのといった可能性まである。
そもそもゴールドマン伯爵って何だ。転生前の世界ではきっと、紅が沙良を失って悲しみに暮れているだろうに、あっさり紅への未練を断ち切って、証券会社みたいな名前の伯爵とイチャイチャするんじゃない。五話にわたって書いてきた紅との日々が、最後に突然出てきた男に奪われるのは、紅だけでなく芽吹にしたってとてつもなく嫌だ。
他に無いのか。沙良がなんか嫌な奴にならなくて、人気の出る展開は。
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