彼女の運命は私が決める
志草ねな
第1話 運命に悩む
「どうしよう、どうしたらいいの……」
一人の女性が、頭を抱えていた。
◆◆◆
毎日が楽しかった。夏休みには二人で映画を観たり、遊園地に行ったり、キャンプしたり……本当に幸せだった。
だが、幸せは突如として終わりを告げた。
夏休み明け、沙良の体は、治療が困難な難病に侵され、余命三ヶ月との宣告を受けた。
悲劇は、それだけではなかった。
病気のことを紅には言い出せない沙良。「何か悩んでいるなら、話してくれよ」と紅に言われても、黙って首を横に振るばかり。
そんな沙良に愛想が尽きたのか、最近の紅は、沙良の親友である
いったい、どうなってしまうのか。嘆く沙良。と、その時。
「結局、紅は沙良と別れてももと付き合う。沙良は失意の中で、病気で死ぬ」
恐ろしいことを言いながら、目つきが鋭くとげとげしい雰囲気のイケメンが現れた。
「あ、あなたは誰?」
「俺はバッドエンド」
「そんなことはないさ。沙良の病気は奇跡的に治って、紅とも仲直りできる」
夢のようなことを言いながら、春風のように爽やかなイケメンが現れた。
「あなたは……?」
「僕はハッピーエンド」
◆◆◆
「どうしよう、どうしたらいいの……」
彼女は小説投稿サイト「よみかき」に投稿する小説のことで悩んでいた。
芽吹は元々ミステリー小説ばかり書いていたのだが、あまりにも読んでもらえないので、違うジャンルの作品を書いて、まず自分のことを多くの人に知ってもらおうと考えた。
こうして書いたのが、沙良を主人公とする恋愛小説『酷薄な告白』だった。
当初、芽吹はこの物語をバッドエンドにするつもりだった。よみかきには「追放されたけど、素敵な王侯貴族に溺愛されて幸せ」みたいな、不幸な主人公が幸せになる作品がたくさんあるが、逆に幸せから不幸になる話だってあっていいじゃないか! 新鮮じゃないか! と思っていた。今までは。
最終話である第六話を公開しようとした時、突如として芽吹は不安に襲われた。
「バッドエンドって、人気出ないんじゃない?」
そうして、バッドエンドとハッピーエンド、二人の運命のイケメン(芽吹の脳内イメージ)のいずれを取るか、悩む羽目になったのである。
おそらく、多くの人に支持されるのはハッピーエンドだろう。よっぽど嫌なやつでもない限り、主人公が幸せな方が読者も嬉しい。
だが、一つ前の第五話で、すでに沙良は余命三ヶ月の難病だ、と書いてしまった。まさかいきなり訂正するわけにもいかない。
現実でも、奇跡的に難病から回復することはある。それはとても喜ばしいことだ。
だが、フィクションとなると話は別だ。病気の話をした直後に急遽治ったというのは、あまりにも都合がよすぎる。おそらくは、作者が何も考えていなかったのだと思われるだろう。
ご都合主義のハッピーエンドより、筋の通ったバッドエンド。それが、芽吹の考えだ。
ハッピーエンドにするというのなら、きちんとリアリティのある展開にしなければならない。
その時、芽吹にいい案が浮かんだ。実績のある海外の病院で手術をする、というのはどうだろう。これなら突然治るよりはリアリティがある。
それに、沙良の家族が手術の費用を得るために募金活動をする、という展開にすれば、それを見た紅が沙良の病気のことを知って、沙良を助けたいと思う流れにできる。最終的に二人を再びくっつけることができそうだ。いいんじゃないか。
しかし、新たな問題が出てくる。
海外で手術するのだから、手術費に入院費、渡航費、付き添いの家族の費用も必要だ……と考えると、余命三ヶ月で募金を始めて間に合うのかが疑問だ。三ヶ月じゃなくて、せめて三年くらいにすべきだったと芽吹は後悔した。
「だから言っただろ。バッドエンドが一番リアルなんだよ」
やっぱり、バッドエンドにすべきだろうか。でも、読者を増やそうとして書いている作品なのに、人気が出そうにない展開にしたって意味がないのではないか。
「大丈夫。紅の父親が資産百兆円の大富豪ってことにすればいいよ」
ハッピーエンドが、爽やかな笑顔でとんでもないことを言い出した。
まあ百兆円もあれば、息子の彼女のために高額の募金をしてくれるかもしれない。
だが、そんな国を動かすレベルの大富豪の息子が、ごく普通の高校なんかに通うものだろうか。たぶん、ハイレベルでハイソサエティなハイスクールにハイ登校するんじゃないか。
というか、なんだか沙良が金目当てで紅と付き合っているみたいで、ものすごく嫌だ。
ダメだ、やっぱりハッピーエンドは無理がある。というかこのハッピーエンドで人気が出るのかどうかも怪しい。
そうなると、バッドエンドにするしかないのか。
どちらでもない、もっとこの物語にふさわしくて人気が出る展開は無いのか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます