ペア解消の危機!?
次の日の朝礼で学園の文化祭の話が出た。
星城学園の文化祭は有名で、私もSNSで見たことがあった。
各クラス出し物を行い、学年優勝や全校優勝を目指すビックイベント。
しかし、私達にとって文化祭は少し違うものになるようだ。
「文化祭当日はハードなんだよー」
大きなため息を漏らしながらクラスメイトがそう言った。
『何で?』と聞き返すと周りにいた数人もこっちに来た。
「このクラスの事を詮索しに来てたり、スパイだったり、誘拐未遂とか…色々起こるのよ。名門ってだけで変質者も来るし」
明らかに文化祭モードではないうちのクラスの原因はこれだったらしい。
学園の裏の部分として文化祭までも任務を遂行しなくてはいけないらしい。
「フォトブースとか適当に作って終わりかなー」
せっかくの高校生活ではあるが、致し方無い。
「そう言えば、影井とまだペア組んでんのか?」
音楽室への移動中、クラスメイトにそう聞かれた。
「うん」
そう答えると周りにいた子は驚いていた。
「今までもペアいたんだよ?けど一回目の任務終了後解消。それが普通だったんだ」
何となく想像が出来てしまいつい笑ってしまった。
「零さんは案外優しい人だと思う」
そう言うとみんなが口をそろえて『は?』と言った。
「まだ分からないことばっかりだけど、いつか仲良くなりたいって思うの。ちゃんと信頼してもらって横に並びたい。何かあったら助けてあげたい」
みんなは目を丸くしていたが、いつかは二人で背中を預けたいと思っていた。
「零さん、次の任務は零さんがやりたいの選んで?」
私に選ぶように渡してくれたファイルを返した。
「知りたいの。零さんのこと。好きなこととか、どんな任務が得意とか」
無言で違うファイルの中から任務を一つ選び、資料を私に渡した。
「これでお前とおさらばだ」
さっさと歩く零さんの背中を次の任務では追いたいと思った。
資料に目を通すと、Xからデータを引き抜けと書かれていた。
政治家の起こした不祥事がまとめられているデータが一人の男、Xによって流失したらしい。
そのデータが世間に出回れば社会の秩序が乱れる。
その前にXからデータを盗み、消すことが今回の任務内容だった。
『今夜決行する』という付箋が筆箱に入っていた。
この字は零さんのものだ。
資料を読み、私が出来ることを最大限考えた。
放課後、私の手は震えていた。
緊張や焦りから何も考えられなくなっていた。
しかしこれを失敗したら次は無いと確証している。
Xの所有する会員制のクラブに着くと、音が異常なほど大きくて顔をしかめた。
「…大丈夫なのか?」
無線越しに聞こえる零さんの声に少しだけ安心した。
好みの女をVIP席に連れて行っている間、その奥にあるアジトには誰もいない。
私がXの相手をしている間に零さんがデータを持ち出せば任務成功。
「大丈夫って言いたいとこだけど…怖い」
前回は隣に零さんがいた。
たったそれだけの違いが、私には大きかった。
一人で壁にもたれかかってXを探していた。
すると数分後、Xがクラブに入って来た。
「来た」
Xの女性好みは事前情報を貰っていたので見た目は完璧に仕上げた。
少しだけXに近い壁に移動して、みんなから離れた場所で立っていた。
「こういうとこは初めてなの?」
Xは一人でいる清楚系の女の子に声をかけるという情報は正解だった。
みんなの輪から外れたところにいる物静かな子を気に入ることが多いらしい。
「あ、はい。友達の付き添いで…。けど慣れてなくてすみません」
声が震えるのは演技からだろうか。
それとも私の本音なのだろうか。
「…なら僕と来る?友達が帰るまでの暇つぶしくらいなら出来るよ」
「いや、でも迷惑ですよ。せっかくなのであっちで盛り上がった方が…」
「僕は君のことが知りたいんだ。いいだろう?」
零さんからデータをゲットしたと言われれば、行く必要がない。
そのため、もう少しだけ時間稼ぎをしてみることにした。
「えっと…その…」
迷っているふりをして、時間を稼ぐ。
「終わりだ」
無線から聞こえた声に私は安心した。
「だ、大丈夫です。友達に先帰るって伝えます」
「いや、君は帰さないよ」
そう言って口を塞がれ、奥の部屋へと引きずり込まれた。
「君、何者?」
怖いと思った。
さっきまでは笑顔だったXの顔は鋭く冷たいものになっていた。
冷や汗が止まらない。
「何が目的かよく分からないけど、ごめんね。可愛くて俺好みだけど…俺好みすぎるんだよなぁ」
そう言って私の耳についていたイヤリングを奪った。
「上手いこと作ってある!けどさっき誰かから安心するような言葉を貰ったね」
Xは私のイヤリングを踏み潰した。
「途中まで良かったのに。先輩からのアドバイスとしては感情を捨てろ、だね。あ、けどもう活かすとき無いから忘れていいよ」
演技は諸刃の剣だ。
バレてしまえば私の負け。
格闘戦に持ち込まれてしまえば勝率は0%。
笑顔で私の首を絞めるXに何も対抗できない自分に腹が立った。
ドンっと大きな音がすると、一気に空気が入って来た。
「まさかナンバーワンの君とペアの子だったなんて驚きだな。単独行動しかしないんだろ?」
咳き込みながら顔を上げると息を切らした零さんがいた。
「関係ないだろ」
Xを警戒しながら私に近寄って来る零さん。
「へぇ。噂とは違うんだ」
零さんが鋭く睨む先はXだが、彼はとても楽しそうだった。
「あれ…僕になんかした?」
「さぁな」
フラフラと揺れるXは自分の意志で立つことが出来ないように見えた。
「馬鹿野郎」
そう言って私を持ち上げてクラブを後にした。
「ごめんなさい」
大きな失態を犯してしまった。
震える体は大きな腕の中でも治まらなかった。
「落ち着け」
そう言って近くの公園のベンチに降ろしてくれた。
「あれはお前のミスじゃない」
横に零さんも座り、前を向いていた。
「零さん。血が出てる」
「掠っただけだ」
零さんの頬にはわずかに血が付いていた。
「私のせいじゃん」
もっと私も零さんのように強ければこんなことにはならなかったかもしれない。
零さんが私に向いていないと言っていたのも共感はしていた。
「俺の事は気にするな。それより怖かったんだろ。…大丈夫なのか?」
こんな時に優しくされたら涙が止まらなくなってしまう。
「俺ら…ペアなんだろ」
まさか零さんからそんな言葉を聞けるとは思ってもいなかった。
余計に涙が溢れてくる。
「怖かった。死ぬと思った」
演技でも何でもない、本音だった。
「命を懸けるってのはそういうことだ。もう…怖い思いはさせない」
「え?…辞めさせられるんじゃなかったの?」
この任務で私が問題を起こせば私達はバラバラになると思っていた。
「俺には人の気持ちとか分かんないからな。お前が必要だ」
はっきりと必要だと言ってくれたことが嬉しくてたまらなかった。
「俺はただ…大切なもんを作りたくないんだ」
丁度、大型トラックが前の道を通過したことで零さんの声が聞こえなかった。
聞き返しても教えてくれなかった。
「ん」
イチゴ味の飴を渡された私はこれからも零さんに甘やかされながら任務をしていくのかもしれないと感じた。
「私もいつか零さんを守れるようになるから」
驚いた顔をする零さんが初めて笑顔を見せた。
「わ、笑った」
思わず声に出すとすぐに表情を戻したが、事実は変わらない。
「朝比奈花音。守ってやるよ。だから俺を守れ」
その言葉はペアとして対等な関係を築けたという証として受け取って良いのだろうか。
「零!…ヒールで足痛くておんぶしてくれない?」
舌打ちしながらもベンチの前にしゃがんでくれた。
大きな背中に乗り、私は安心した。
「調子乗るなよ」
この人とならやっていけるかもしれない、そう思った。
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