第39話 もしかして告白イベント発動?

 翌日の放課後。


 愛美めぐみさんから、「遙人はると君に、お話したいことがあるの。二人きりになりたいから、静かな公園で待ってるね」と、メッセージが届いた。


 彼女は、どこか神妙な様子だった。


(……二人きり、静かな公園。これは、もしかして……告白、か!? いや、だとしたら、男の俺から、改めて愛美めぐみさんに告白すべきじゃないか? 大江おおえは、もう諦めたと言っていたが、具体的なことは何も……。いや待て、そもそも、ただの俺の勘違いという可能性も……)


「ごめんね。少し、遅くなっちゃった」


 公園に着くと、愛美めぐみさんは深々と頭を下げた。


「ううん、全然。俺も今、来たとこだから」


「あのね……」


 愛美めぐみさんが、何かを戸惑うように、声を振り絞ろうとする。


 ごくり、と俺は唾を飲み込んだ。


「……遙人はると君に、いつ言おうか、ずっと悩んでたの。わたし……」


「ちょ、ちょっと待って! その話、本当に、愛美めぐみさんからでいいんですか!?」


「えっ? ど、どういうこと? ……あの、文芸部のことなんだけど」


「えっ……。あ、文芸部。そう、文芸部、ね……」


 想定していた展開と全く違い、俺は盛大に動揺していた。


「同じ部員の、伊藤萌夏いとうもかちゃんが、最近、不登校になってるの。萌夏もかちゃんの家にも何度か行ってみたんだけど、『誰とも会いたくない』って、一点張りで……。もしかしたら、学校で、いじめられてるんじゃないかって。萌夏もかちゃんは三組でクラスが違うから、まだ推測だけなんだけど……」


「……それは、十中八九、いじめだよ」

 俺は、きっぱりと言った。


「私一人じゃ、どうすればいいか分からなくて……。もし、よかったら……原因を、一緒に調べてほしいんです」


「もちろん! リリカとリリオにも協力してもらって、絶対に解決しよう!」


「……遙人はると君なら、そう言ってくれるって、信じてた。ありがとう……!」


「明日、早速、三組に偵察に行ってくる」


「一人で、大丈夫? 私も、一緒に行くよ」


「いや、密偵みっていは、目立ったらおしまいなんだ。最初は、さり気なく探りを入れてみる」


「リリカを使えば、リアルタイムでの情報共有とかも、できる?」


「なるほど! その手があったか。愛美めぐみさんは、やっぱり賢いな」


「い、いえいえ、私なんか……。じゃあ、私は、三組の近くの廊下で、本を読んでるフリをしてるね」


「うん。愛美めぐみさんが近くにいてくれると思うと、心強いよ」


 真面目な話が一段落すると、愛美めぐみさんが、少し恥ずかしそうに、もじもじと切り出した。


「……あの、さ。もう、そろそろ……〝愛美めぐみさん〟じゃなくて……ニックネームで、呼んでほしい、な……なんて」


「ニックネーム……。えーと、でも、俺の中では〝愛美めぐみさん〟なんだよな。初めて会った時、絆創膏ばんそうこうを持ってきてくれた、優しい人だから。……んー、でも、どんなのがいいかな」


「……私のこと、『メグ』って、呼んでほしい」


「い、いやいやいや! 呼び捨てなんて、とんでもない! ……じゃあ、『めぐちゃん』、とかは、どうですか?」


「うん、うん! いいかも! ……呼んでみて?」


「……め、めぐちゃん」


 俺の顔が、熱い。


「……まだ、慣れないから、少し恥ずかしい、かも。……私は、『はるくん』って、呼んでもいいかな?」


(微妙な変化だけど、これは大きな一歩だ! 本当は〝はるるん〟って呼ばれたかったけど、今は真面目な話の流れだし、ウケを狙うのはやめておこう)


「……ねえ、もう一回、呼んでくれるかな」


「……はるくん。……うぅ、自分から言い出したのに、すごく恥ずかしい……」


 顔を真っ赤にしている、めぐちゃんが、可愛すぎる!


 俺、今、青春してる! ラブコメの主人公だ! マジかよ! ぼっちだった俺が、好きな子から、ニックネームで呼ばれてる! この、刹那の幸せを、噛みしめろ、俺!


「はるくん、どうしたの? 顔が、すごくニヤニヤしてるけど」


「うおっ、マジか! すぐに顔に出るな、俺! これじゃ、ポーカーとか、絶対に勝てる気がしない」


「ふふふっ。『絶対に負ける』じゃなくて、『勝てる気がしない』なんだね」


「……相変わらず、俺って、バカっぽいだろ」


「そんなことないよ」


「今、気を遣ってくれたかな」


「……だね」


「うぐぐ……。はははっ、うん! でも、任せてくれ! 今回の依頼、必ず、解決してみせるから!」


「(……大好きだよ)……うん。ありがとう」


「……じゃあ、公園を出るまで、て、手を……。い、いえ、何でもないです」


 俺が照れながら言うと、めぐちゃんは、『こくっ』と、小さく、可愛らしく頷いた。


 そして、にこやかな笑顔で、俺の手を、そっと繋いでくれた。

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