第35話 新田 利香視点(完)

「うん! それで、今度の日曜日、予定とかある? よかったら、一緒に行かない?」


「……いつものことだけど、話の展開が急すぎないか? あのー、行き先は、どこに……?」


「……コスプレイベント」


「だよな。話の流れ的に、そうだと思った。……んー、新田にったさんって、写真はいつもスマホで撮ってる?」


「うん、だいたいスマホかな。もしかして遙人はると君、デジタル一眼レフカメラとか持ってるの?」


「まあ、最新のデジイチと、単焦点レンズくらいは。インスタもやってるし。最近、全然更新してないけど」


遙人はると君、しゅごい! ……それでね、お願いがあるんだけど。私が当日、衣装を用意するから、コスイベで遙人はると君にもコスプレしてほしいの。作務衣さむえ姿に、なってください! ね、お願い!」


「……ていうか、新田にった。急にキャラ、変えてきたな」


「あ、バレた? うちの『セクシー積極路線』は、ウブで童貞どうてい丸出しな遙人はるとには、正直、効果ないかなって。前のエロ野郎には、有効だったんだけどね」


「ん? 今、さり気なく俺のことディスったよな? 気のせいか? ……まあ、新キャラがもう崩壊しかけてるのは、ウケるけど。ははっ」


「じゃあ、日曜日、暇ってことで、OKだよね?」


「……コスイベとか、行ったことないしな……。俺が作務衣さむえ姿ってのも、意味が分からん。先に言っとくが、俺はお前のために、そのアニメの衣装とか作る気ないからな」


「ふふふっ、バレたか! 勘のいい奴め! ……まあ、セクシーな衣装を期待してたらごめんね。当日、うちは、可愛いゴスロリ衣装だから」


「は? 別に期待してねえし。ていうか、もう行く前提になってるし。……うん、確定。新田にったの新キャラは、完全に失敗だな。ははっ」


「ふふふっ」


 そして、イベント前日の土曜日。

 うちは、緊張しながらも、遙人はるとにメールを送った。


新田にった:『こんにちは。ドキドキ』


高橋たかはし:『どうした?』


新田にった:『メール自体が久しぶりだから、なんて書けばいいか分かんなくて』


高橋たかはし:『普通でいいだろ。自然体が一番じゃないか?』


新田にった:『あのね、明日の衣装のことなんだけど…………(以下、キャラクターへの愛を語る超長文)』


(どうしよう……。つい、熱くなって、めちゃくちゃ長い文章を送っちゃった。引かれたかも。もう、返信、来ないかも……)


高橋たかはし:『そのアニメ、ちらっと観たことあるけど、詳しい内容は、新田にったの解説でよく分かった。そういう理由で、そのキャラクターのことが好きになったんだな。教えてくれて、ありがとう』


(……何これ。無理、無理、無理。うちに対する理解度が高すぎる。しゅきぴすぎる……! 顔が、熱い……どうしよう……)


新田にった:『明日、公園でのコスプレイベント、よろしくお願いします』

(……うち、真面目か!)


高橋たかはし:『おう。じゃあ、デジイチとレフ板、持って行く。こちらこそ、よろしくな』


(はぁ……。ドキドキが、止まらないんだけど……。マジで、明日が楽しみしゅぎる……!)


 イベント当日、とある公園。


「一応、着替えたけど……やっぱ、青い作務衣さむえかよ。キャラに似てなさすぎて、恥ずかしいんだけど。もっと寄せるなら、短髪のウィッグとかも必要だろ、これ」


「でしょ? もっと、憧れのキャラに似せたいって、思うでしょ?」


「別に憧れてはないけどな。……でも、確かに、自分とは正反対の性格のキャラクターでも、外見を似せることで、そのキャラへの憧れとか、リスペクトが生まれる感覚は、なんとなく分かるかも」


「そうそう! ……で、うちのこの衣装、どう思う?」


 遙人はるとは、ゴスロリ姿の私を見て、一瞬、息を呑んだ。


「……か、……え、……すごく、可愛い……」


「んー、声が小さくて聞こえなかったなー。もう一回、言って?」


「……それより、後ろの景色がいい感じだ。ポーズ、取ってくれ」


「もう、照れてる? しょうがないなあ。……こんな感じ?」


「いいね。次は、レフ板使って、逆光を抑え気味に撮ってみる」


「お、なんかプロっぽいじゃん。じゃあ、次はこのポーズで!」


 遙人はるとは、うちのわがままなリクエストにも一つも文句を言わず、一枚一枚、丁寧に写真を撮ってくれた。


 そのうち、他のカメラマンさんたちが「写真を撮らせていただいてもよろしいですか?」と、丁寧に声をかけてくれるようになり、いつの間にか、うちの周りには、撮影待ちの行列ができていた。


(待たせちゃって、遙人はるとに悪いよ……)


 ふと、うちが遙人はるとの姿を探すと――。


(あいつ! 他のレイヤーさんの写真、撮ってやがる! ……んー、でも、まあ、そういう場所だし……。ていうか、なんであたし、こんなに嫉妬してんのよ。もう!)


 その後、同じ作品のキャラクターたちと集まって撮影する「併せ」も終わり、私は遙人はるとと合流した。


「今日は、初めてだったけど、楽しめた?」


「うん! めちゃくちゃ楽しかった! ほら、こんなにたくさん撮ったぞ」


 遙人はるとは、iPad miniに転送した画像を見せてくれる。


新田にったさんの写真は、後でメールにリンクを貼っておく。そうだ、軽く画像加工もしておくから、ダウンロードしてくれ」


「ありがとう! ……ねえ、次は、コミケとか行かない?」


「お互いのスケジュールが合えばな」


「うん! ……ねえ、この後……」


「あ、ごめん! 俺、6時から大江おおえと野球観戦の約束してるんだ。じゃあ、今日は本当に楽しかったよ。誘ってくれて、ありがとうな」


「……そっか。うん……」


 ああ、もう、なんであたしは、ここで引き止められないのよ!


「……うちは、簡単に『好き』なんて言わないんだからね!」


「お、おう! またな!」


「またね! ……(小声で)好きだよ、この鈍感野郎……。ふふっ」


「ん? 全然聞こえなかったけど、『鈍感野郎』だけは聞こえたぞ! はははっ!」


 走り去っていく遙人はるとの背中に、私は、もう一度だけ、小さく呟いた。

「……ありがとうね。しゅきぴだよ」




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