第28話 新垣瞳 ちょっとヤバい先生
文芸部の顧問、
彼女にはもう一つの顔がある。主にミステリー系の作品を執筆する小説家、ペンネームは
現在は南浦部第一高等学校の古文担当講師として勤続四年目。その前は大手予備校で二年間の講師経験を持つ、御年28歳。独自の「古文単語・文法速習記憶法」は、古文が苦手な生徒から絶大な人気を誇っている。
「「「よろしくお願いします」」」
「
「「失礼しま~す」」
セイラと
「さて、
(……リリカは起動させてないが、今すぐ起動すべきか? いや、この先生、相当ヤバい匂いがする……)
「
「……犯罪の匂いがするので、丁重にお断りします」
「言ったな、小僧! 僕は空手二段だぞ! 正拳突きをお見舞いされたいか? ……ならば、
「えっ……。もしかして、
「しゅき、しゅき、だ~い、しゅーきー! ♡」
「……あのですね。まず、
俺が心配そうな顔で尋ねると、不意に、別の教師が
「
「はい! この分量でしたら、本日中に対応できます。田中さん、いつもお気遣いいただき、ありがとうございます。本当に助かりますし、心から感謝しています」
同僚の田中先生は、「いえいえ」と軽く会釈して去って行った。
「……えっと、どっちが、先生の本当の姿なんでしょうか?」
「たっくんよ。面接で『この学校、だ~い、しゅきでしゅ! 採用、ちてくだしゃい♡』なんて言って、採用する学校があると思うかね? 同僚への受け答えくらい、一般常識の範囲内だ。なめるなよ。……それから、彼女の件は知っている。その、叶わぬ恋のリビドーと切なさこそが、小説を書く原動力にもなることを、お主にはまだ理解できぬようじゃな」
「別になめてはないですけど……。というか、いつの間にか俺のこと、“たっくん”って呼んでますよね? ……わかりました。じゃあ、
「あっ、そうか! その手があったか! 早速、ボイスレコーダーを起動せねば」
「それは止めてください!」
「お主、何を言うか! 小説家たるもの、人物観察や会話の研究は、創作活動の基本であろうが!」
「いや、他の小説家の方々に怒られますよ。先生の場合、動機が不純すぎます」
「たっくんは生意気だな。……わかった、ボイスレコーダーはここに置いていこう。さあ、行きたまえ。僕のだーい、ちゅきな
「
「よっ!
「文芸部の
「
「そ、そんな、とんでもございません! お、お時間のほうは、よろしいでしょうか?」
「暇してるんで、大丈夫ですよ。そうそう、
「
「だから、やめろって! その萌え系のワードは禁止したはずだぞ! はははっ、しかも、また告白かよ!」
その瞬間、
「あの……監督!
「ははっ、
「い、いえ……は、はは……」
「そうだ、新垣さん! 『戸崎家の狂乱者』、読みました! 誰が犯人なのか、最後の最後まで全く予想できませんでしたし、結末は、とても感動しました」
「も、もしかして、買って読んでいただけたのでしょうか……?」
「もちろんです。こっそり教えてもらったので、誰にも言っていませんが、同じ職場で、有名な作家さんとお仕事ができるなんて、本当に光栄です」
「わ、わざわざ
「新垣さん、ハンカチなかった……すみません、これ、ポケットティッシュですけど」
「な、何から何まで、ありがとうございます……。お褒めの言葉まで……本当に、ありがとうございます……! あ、そうだ、これ! まだまだ暑い日が続きますので、どうぞ!」
「うわ、スポドリ5本に、栄養ドリンクまで! いいんですか、こんなにたくさん!」
「い、いいんです! こんなもの、安すぎます! こんなもので喜んでいただけるなら、もう……!」
「いや、悪いな、もらってばかりじゃ。そうだ、
「うおおお! 三千円! 流石です、
「お前な……今日、何度、俺に告白するんだよ! はははっ!」
「得意技の正拳突きで、瞬殺したろうか、という目つきで、また
「はははっ、
「うわああぁぁぁん! もう駄目です! 涙腺が!
その一部始終を見ていた、他の女性教職員たちは、やれやれといった様子で頬杖をつき、完全にしらけ顔になっていた。
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