第6話 西園寺 勇人 ナルシストな奴

「じゃあ! そういうことで、バイバイ!」


 俺が逃げようとすると、セイラが慌てて声をかけてきた。


「い、今だったら、あたしも暇だし、一緒に……」


『警告:ユーザーの思考回路、処理能力の限界を突破。警告:対象、松島まつしまセイラの心拍数、急上昇中!』


(リリカ! こっちの心拍数も上がってんだよ、恥ずかしいから言わせるな!)


「ねえ、遙人はると君! よかったら一緒に帰りましょう? その……アプリのこと、もっと知りたいから」


 絶妙なタイミングで、何も知らない愛美めぐみが天使の笑顔で追い打ちをかけてきた。


「い、いや、あっ、うん。そうだね……」


「は? アプリ……?」


 セイラの顔が、みるみるうちに不機嫌に曇っていく。カオスだ。


『好感度データ更新。対象:愛美めぐみ+10P、対象:セイラ+5P。……リリカの好感度±0P。これは仕様ですか? バグですか?』


(なんでリリカの好感度まで計測してんだよ! てか、この状況どうすればいい!?)


『……提案します』


 リリカの助言を得て、俺はわざとらしく声を張り上げた。


「やっべ! 二日くらいエサをあげるの忘れてた! 音速ダッシュで家に帰らないと!」


「えっ、猫ちゃんでも飼ってるの?」と愛美めぐみ


「犬じゃないでしょ」とセイラ。


「残念、両方ハズレ! 正解は、カナヘビの浦田うらたさんでしたー」


「「…………」」


 二人の間に、完璧な沈黙が流れる。


(一瞬、心の中で「キモッ」て思っただろ。だがしかし、この写真を見ても同じことが言えるかな!)


 俺がスマホの画面を見せると、二人の反応は一変した。


「えっ、なにこれ! カナヘビって、こんなに可愛いの!?」と愛美めぐみ


「うそでしょ……え、マジで可愛いんだけど!」


 セイラは愛美めぐみの肩をポンと叩き、満面の笑みだ。


「ただし注意事項があります! これは一時預かりという形で、現在、小学生の超美少女の姪が両親と長期海外旅行中のため、仕方なく! 預かっている所存であります! 皆の衆、誤解なきよう!」


「超美少女ってのと、浦田うらたさんって名付けてるのが普通にキモい」


 セイラがじと目でこちらを見る。


「姪っ子はスーパー美少女戦士だぞ! 親衛隊のおいらが、キモいなんて言わせない!」


「姪っ子のことじゃなくて、あんたのことだって言ってんの」


「ふふっ、二人とも面白い。まるで漫才みたい」


「ねえ、めぐっち、やめてよ。夫婦漫才とか言われたらどうすんの」


「え? 夫婦なんて一言も言ってないけど……」


「ははは! というわけで、俺は急いで帰ります!」


「うん、また明日ね!」と、笑顔の愛美めぐみ


「……どーも」と、なんだか腑に落ちていない表情のセイラ。


「じゃあな、バイバイ!」


『GOOD JOB!』


(いや、リリカの指示通りにしたけど、これで本当に解決したのか……?)


『YES!』


(一週間プログラミングしてた時より疲れたぞ……)


『自業自得です』


(うっさいわ)


 遙人が慌ただしく帰宅した後、セイラの席に、他クラスの男子が声をかけてきた。美容系雑誌でカットモデルなどをしている、西園寺さいおんじ勇人はやとだ。


「よぉ、セイラ。今日、一緒に帰る約束だったろ?」


「そうだっけ? 一週間も前のことだから、すっかり忘れてたかも」


「ひでーな。俺だって放課後はモデルの仕事で忙しいんだぜ? 今日の予約、結構楽しみにしてたのに」


「ごめんごめん。でも、ちょうど予定がなくなったからいいよ」


「マジ? じゃあ、カフェ寄ってから、この前言ってた映えスポット行こうぜ」


「そういえば、前に勇人はやとがあげてたカラフルなオムライスの写真、微妙にブレてなかった?」


「あれはワザと。奥の背景にピントを合わせるための高等テクニック」


「へぇー、そうなんだ。知らなかった。あとでもう一回見てみよ」


 二人の会話を聞いていた愛美めぐみは、まるで違う世界の出来事のように感じていた。

(セイラさんは有名なインフルエンサーで、フォロワーもすごく多い。私と違って、モテるし、可愛いし……)

 落ち込みかけたその時、ポケットのスマホが小さく震えた。


 ――ピコンッ。


 遙人はると君のアプリからの通知だ。


件名:今日はありがとうございました!


メグミさんへ


今日は本当にありがとう。俺が作った素人アプリをあんなに褒めてもらえて、めちゃくちゃ嬉しかったです。すごく励みになりました。


今度、もし時間があったら、ゆっくり話しながら一緒に帰りましょう!


P.S. アプリの使い方が分からなかったら、いつでもヘルプのお問い合わせ欄に書き込んでくださいね。


 愛美めぐみは、スマホの画面をそっと胸元に引き寄せ、優しく抱きしめた。

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