第5話 松島セイラ 陽キャVS陰キャの攻防戦

 愛美めぐみの笑顔に、俺の心は晴れ渡っていた。その時だった。


『警告:バッテリー復旧。マスター、好感度シミュレーションを無許可で進めましたね?』


 突然、リリカの声が脳内に響く。その直後、教室のドアがバンッと派手な音を立てて開いた。


「ハルト! めぐっち! 昼休み、イチャついてたでしょ! 決定的瞬間、TikTokに上げちゃうからね!」


 スマホをこちらに向け、乱入してきたのは松島まつしまセイラだ。

 一学期の期末試験が終わり、やっと平穏が訪れるかと思った俺の高校生活、すでにバグだらけの予感しかしない。


「おひさ、セイラ」


「おひさ、じゃないのよ! 一週間も休んで、まさか家族旅行とか言わないでしょうね?」


「まあ、そんな感じかな」


「よく言うよ! さては、めぐっちと……」


「――次は、松島まつしまの番だな」


「は?」


「アプリ名、『絶対バズるTikTok分析ツール』どうだ?」


 俺が食い気味に言うと、セイラはキョトンとした顔になった。


「……あのさ、唐突に何言ってんの?」


「興味ないなら、今の話はなしで」


「ていうか、あんた、何であたしのこと呼び捨てにしてんの?」


「え?」


「だから、苗字! あたしの名前、セイラなんだけど!」


「あ……知ってる。もちろん。松島まつしまさんのことは、いつもすごく可愛いと思ってるし、名前を忘れるなんてこと、絶対にない」


「――っ!? な、何よ急に……! ていうか、本当にそんなアプリ作れんの?」


 セイラの顔が、みるみるうちに赤く染まっていく。


「当然だろ。俺、天才だから」


「いきってんじゃないわよ」


「いきってるけど、何か?」


「……じゃあ、作れるもんなら作ってみなさいよ!」


「了解。明日にはダウンロードできるようにしとく」


「はぁ!? あんた、TikTokなめてるでしょ!」


「なめてない」


「そもそも遙人はるとはSNSやってんの? Xとかインスタとか」


「一応な」


「見せてみなさいよ」


「ほい」


 俺がスマホの画面を見せると、セイラの目が点になった。


「……え、フォロワー数……うそでしょ!? どっちも、あたしの数百倍いるんだけど……」


「たまたま海外のミーム職人として、ちょっとだけバズっただけ。フォロワー数なんて興味ないし」


「ミーム……? はいはい、わかった。前にもいたんだよね、そーやってすぐバレる嘘ついてカッコつける男」


 投げやりなセイラの言葉に、俺の中の何かがカチンと音を立てた。


「そう思いたいなら、思ってろよ。前の男がどんなやつか知らないけど、自分の経験だけで勝手にレッテル貼るやつ、俺は一番嫌いなんだ」


「あっ……ご、ごめん……」


 俺の低い声に、セイラは小さく謝った。まずい、大人げなかったか。


「……いや、俺もごめん。冷静じゃなかった。ただ、約束したアプリは、さすがに明日ってわけにはいかない。これ以上休んだら留年コースだからな。一ヶ月くらい、待ってくれるか?」


「……うん。無理しない程度で、お願い、します」


 急にかしこまったセイラに、どうにも調子が狂う。


「だから、きつく言ってごめんって。いつもみたいに、天真爛漫に笑ってるセイラの方が、よっぽど魅力的だって」


「…………っ」


 セイラは何も言えず、ただ顔を真っ赤にして俯いてしまった。

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