デイリー・オカレンス・イン・ザ・ダーク・ワールド 後編

†デイリー・オカレンス・イン・ザ・ダーク・ワールド あらすじ†


 通りすがりの魔人アステリズムは男を拷問していた魔人ニューを殺害。拷問されていた男を助け出そうとするも、その男は別の魔人の攻撃を受けていた。


 ニューの肉体消失を見届けたアステリズムは次にやるべき事を思い浮かべる。


それはもちろん、ニューにより縛られた男の解放。まずは猿轡と目隠しを外してやらねばならない。だが、もう、それらは外されていた。彼女は背後より、声を聞いた。猿轡をはめられ、喋れぬはずの男の声を。


「た、助け……」


 アステリズムは驚き振り返る。そして、目を見開いた。縛られた男の肉体半分が椅子ごと、冒涜的肉塊に飲み込まれていた。


††††††††††††††††††††††††††††††††††††



「今助けます!」


 アステリズムは駆けつけようとするが、できない。彼女の足元には紐めいた肉塊が絡みついている。


 しかも、それに気を取られている間に、両手にも冒涜的肉塊が絡みつく。彼女は動きを取れない!


 その様子を見た男は絶望のあまり泣き叫ぶ。


「うわぁぁぁぁ! おしまいだァ! 今度こそ、おしまいだァ!」


 実際男の言う通り状況は絶望的。アステリズムはピンチに陥っている。未知なる邪悪な魔人のマジカル・パワーの前に。


 だが、魔人の少女は男に笑みを浮かべる。


「大丈夫ですよ。今、解放しますからね」


 すると小屋の天井から笑い声。


「ヒッヒッヒ。自分も拘束されたこの状態で何をぬかすと思えば……所詮は、王宮や四季の館で甘やかされたガキ。危機感の欠如が甚だしいことよ」


 アステリズムは頭上を見上げる。そこには、四肢が冒涜的肉塊と一体化した魔人が! 彼の名は魔人タナトス! 彼のマジカル・パワーは死肉を操る! 故に、アステリズムは死肉で拘束されたのだ。


 しかし、彼女が王宮で甘やかされたとは一体?


「殺人姫と恐れられた女の実力もこの程度か。なぁ、サンゼン王国第三王女セイコ様よォ。貴様の身柄で俺はどれだけの金を手に入れることができるだろうなぁ!?」


 セイコ、その言葉に拘束された男が狼狽。


「そ、そんな! プリンセス、セイコ? 嘘だ!」


 だが、アステリズムはそれを否定しない。


 そう、タナトスの言う通り、アステリズムの正体はなんとサンゼン王国第三王女セイコその人なのだ。このままでは姫は人質になってしまう! 国が傾く程の身代金を要求されるやも! だが、アステリズムはまだ、焦りを見せない。


 彼女は拘束された男を優しい眼差しで見る。その柔らかな笑顔は彼女がピンチに陥っていることなど、まったく感じさせない。


「今、解放しますからね」


「自分も拘束されているというのに、何が解放するだ! バカめ! 自分の状況がわかっていないようだな!」


 タナトスはアステリズムの目の前に降りて肉の触手をさらに彼女の四肢に絡ませる。彼女は四肢を動かそうともがいてみる。だが、肉の触手はびくともしない。


「先ほどのニューの間抜けとの戦いを見ていたからな。お前の実力は大体わかっているぞ! 殺人姫、お前はこの拘束から脱出出来やしない。

 セイコ様、お前をこのまま魔人傭兵組合アッシュライスターズ・ギルド本部に連れていく。そして、インセンティブを俺がいただく。いいだろう」


 タナトスはニヤニヤしながらアステリズムの腰を撫でた。


「ああ、ニュー。

 奴は弱いくせに俺より先に魔人傭兵組合アッシュライスターズ・ギルドに入った先輩だからって調子こいてくるうざいやつだった。だけど、今は感謝しなくちゃな。自ら犠牲となり俺に役得を与えてくれたんだからな。フフ。王族とねんごろか」


 勝ち誇るタナトスは自らのズボンのベルトに手をやった。だが、アステリズムの余裕は崩れない。


「馬鹿はこんな拘束でいい気になっているアナタです」


 タナトスはバックルを緩める手を止めてアステリズムを侮蔑的な目で見やった。


「何を馬鹿な。お前の実力はわかっていると、言っているだろう」


「いいえ。わかっていません。その証拠にあなたは今から私に殺されるのですから。――セイヤッ!」


 アステリズムのシャウトと同時に彼女の肉体からキラキラと輝く粒子が放出される!


 シャイニング・マジカル・パワー・パーティクル! それらは薄暗かった小屋の中を明るく照らしだす! 先ほどの戦いでは見せなかったアステリズムのマジカル・パワーだ!


 その未知のマジカル・パワーに危機感を覚えたのかタナトスはバックルをいじるのをやめ、バックステップでアステリズムから距離を取りながら、拘束用の肉の触手を増やし、アステリズムを抑え込めようとする。だが、遅かった。


 ピピピヒピピピピピピン!


 甲高い音と共に、光の粒子がさらにアステリズムの肉体から溢れ出る。マジカル・パワーの光の粒子に囲まれた彼女は叫んだ。


「セイヤーッ!」


 四肢を捉えていた肉塊の触手がちぎれ、彼女は解放された!


「ナニィ!?」


 タナトスが驚愕する間に、彼女はもう魔人の目の前! アステリズムは拳を握りながら、一言。


「そう、状況がわかっていなかったのはアナタです!」


 彼女は拳を叩き込む!


 だが、その拳は肉塊の触手バリアで防がれてしまう。汗をかきながらも、タナトスはせせら笑う。


「やはりバカはお前だ! お前の拳は俺には届かない!」


「いいえ!」


 アステリズムはタナトスの挑発に乗ることはなく殴り続ける。しかし、その全ては肉の触手により防がれてしまう。周囲には虚しくシャイニング・マジカル・パワー・パーティクルが舞うばかり。やはり攻撃は通用しないのか? だが、アステリズムの顔には絶望の色は全く浮かんでいない!


「セイヤヤヤヤヤヤヤヤ!」


「無駄だと言っている!」


 だが、本当にそうだろうか? アステリズムが殴る度、マジカル・パワーの光の粒子と共に飛び散るものあり。それはタナトスが操る肉片の欠片だ!


 その小さな飛沫はアステリズムの拳に晒されれば晒されるほど、大きな塊となって、肉の触手から分離される。同時に彼女の拳の速度も、重さも上がっていく。加えて、周囲に浮かぶシャイニング・マジカル・パワー・パーティクルの密度も上昇!


 さらに、光の粒子の量が増えるほど、彼女のパンチのキレも手数も上昇! そう、アステリズムは周囲に展開されたシャイニング・マジカル・パワー・パーティクルにより肉体強度が強化されるというマジカル・パワーを持っているのだ!


 シャイニング・マジカル・パワー・パーティクルにより強化されたアステリズムの拳は遂に、アステリズムは肉の触手を粉砕した!


「ナニィッ!?」


 焦るタナトスは小屋に散らばった肉塊を逐次、防御壁へと変換。その上、何本もの触手を作り、それらを彼女の腕に絡みつかせ、拳を止めようと試みる。


 だが、アステリズムは止まらなかった。マジカル・パワーの光の粒子も留まることを知らない。腕に絡みつく肉の触手をアステリズムは引きちぎり、触手をちぎったそのままの勢いで肉を殴りつけ、破壊する。


 アステリズムは壊して、壊して、壊しまくる。


 タナトスはついに男を拘束していた肉塊さえも己の壁に使用。だが、それはもはやアステリズムのパワーの前には無力と化していた。パンチにより、アステリズムは肉塊を粉砕! 小屋内はマジカル・パワーの光で満ちている。しかし、肉塊はもう残っていない。アステリズムが粉砕した。


「う、嘘だろ?俺のマジカル・パワーが……」


「無駄だったのはアナタの方です」


 アステリズムは改めてファイティング・ポーズを構える。


「アナタを殺します」


 それを聞いたタナトスは玄関に向かい走る。


「ヤメロ! 死にたくない!」


 アステリズムはそれを許すはずもない!


「セイヤーッ!」


 彼女の拳がタナトスの背中を貫いた!


「ギャアアアアアアアアアアア!」


 断末魔と共に、タナトスの魂は天へと登っていく。そして、魂を失った肉体は塵となって消えていった。


 その散り様をアステリズムは見守った後、振り返る。


「大丈夫ですか!?」


 彼女の視線の先には椅子に縛られた男。もう、彼はマジカル・パワーの攻撃をうけてはいなかった。うなだれているが、異変はない。アステリズムはほっと息をつく。その吐息を聞いたためか、うなだれていた彼は震えながらも姿勢を正し、弱弱しい笑顔を作り、答えた。


「え、ええ、何とか、大丈夫です」


「ああ、良かったです」


 アステリズムはにっこりと笑い、彼を縛るロープを解く。ロープを解く彼女。男はそれを見ながら言う。


「お礼になるかは、分かりませんが……私の持つ情報を差し上げます。夢の世界への道についてです」


 それは、魔人ニューが彼に求めていた情報であった。アステリズムは縄を外す手を止めて、男を見上げる。その目は驚愕に見開いていた。


「そんな、いいんですか!?」


 夢の世界への道。その情報をアステリズムは追いかけ続けていた。最終目的地は夢の世界に漂う四季の館。夢の世界へと至る道の情報はそこににたどり着くために必要一歩なのだ。


「いいもなにも当然です。アナタが一番必要としている情報なのですから」


「ありがとうございます! ありがとうございます!」


「よしてください、セイコ様! 顔をお上げになってください」


 だがアステリズムはもといその言葉に応じず、頭を下げ続けた。


「ありがとうはこちらのセリフなんですよ!」


 椅子から解放された男は叫ぶ。だが、アステリズムは感謝をいつまででも続けた。そうするうちに、暗黒物質天蓋下に浮かぶデミ・太陽達が叫ぶのだった。


「「「「ジュウナナジー!ジュウナナジー!」」」」


 と。




 デイリー・オカレンス・イン・ザ・ダーク・ワールド おしまい

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