アウェイキング・ザ・ファイティング・パワー

アウェイキング・ザ・ファイティング・パワー その1

【マジカル・パワー・プリンセス・セイコ あらすじ】


 バトル・オブ・シーズンパレス開戦。戦場となったサンゼン王国最高学術宮殿“四季の館”からサンゼン王国第三王女セイコは命からがら逃げ出すことに成功する。だが、まだ安全ではない。王族の血を求める荒くれもの達は執拗にセイコを追い続ける。



「「「「ジュウナンジー! ジュウナナジ―!」」」」


 天蓋暗黒物質下に浮かぶ無数のデミ・太陽達の時報は、荒野を疾走する荒くれもの達によってかき消される。


 ブァンブァンブァンブブンブンブン。


 荒くれものたちは科学木馬バイク魔導式内燃機関エンジンを吹かし荒野を走る。


 リズミカルな重低音の音量増加に伴って迷惑走行科学木馬軍団が巻き上げる砂埃も積乱雲じみて膨張。暴走集団は接近している。

 マフラーから漏れるマジカル・パワー・1677万色光がまぶしい。魔導式内燃機関を動かす燃料“シネクシル”の炎色反応だ。


 ピー! ガッガッ! ピー!


 魔導式内燃機関の重低音とはまた別の不愉快な音が暴走集団から発せられる。拡声器をチューニングする際に発せられたハウリング音だ。次に拡声器から発せられたのは男の声。先頭のタンデム走行科学木馬の後方に座るモヒカンピエロがマイク右手に立ち上がる。


「逃げなくてもいいよぉ!」


 モヒカンピエロは嗤う。


「女ァ! こっちにこい!」「いいや俺のところだ!」「嬢ちゃん俺と遊ぼうや!」「痛ェことはしねぇ!」「ちょっとネンゴロするだけだから!」


 荒くれもの達の俗な叫びも拡声器は拾いあげる。だが、モヒカンピエロは気にしない。


「怖くないよォ! 優しく紳士的に扱うよォ!」


 暴走化学木馬集団は速度を上げた。


 じりじりと追い詰められるのは、使い魔空飛ぶ箒にまたがった集団。


「ひぃ!」「怖い!」「あっちいけ!」


 声を発するのは箒に乗った人間ではない。箒そのものが声を上げているのだ。箒たちはマジカル・パワーを宿している。使い魔だ。


 連中には自我があるため、機械めいて使用者に忠実な挙動をするとは限らない。だが、現在編隊飛行中の集団の調教は見事。使い魔は泣き言を漏らすが、編隊を崩すことはない。


 空飛ぶ箒集団は二人を囲むようにして編隊を組み飛行する。守られるように囲まれているのは二人とも女性であった。


 そのうちの一人が地上後方の粗暴集団に目を向けた。ウェーブショートのブロンド髪少女だ。彼女の名前はセイコ。四季の館の学生だ。いや、は学生だったと言う方が正確か。四季の館は戦場となったのだから。


「お話しようよォ! 俺とさァ! 無視されると傷ついちゃうぞォ! 傷付けられると俺は怒る! 今のうちに投降しないと怒りに任せて乱暴しちゃうかもしれないよォ!」


 拡声器越しにモヒカンピエロはふざける。


「姫、無視で問題ありません」


 セイコの隣で飛行する女性が言う。


 セイコは隣を見た。ターコイズブルーの瞳と目が合う。彼女の瞳は凛々しかった。彼女の名はソフィー。


「貴方を絶対に傷つけさせたりはしません。姫様」


 セイコが荒くれものに追われている理由。それは、それは彼女がサンゼン王国の第三王女であるからだ。


 その高貴な身分故に彼女は四季の館に所属していたほかの生徒に比べて狙われやすい。だが、高貴であるが故に、彼女を護り助けてくれる騎士団が付いているともいえる。

 ソフィーはセイコを護衛する騎士団の副団長である。胸に付けた漆黒のダガーペンダントがその地位の証左だ。


「あれらの粗暴で品性のない言葉は、駄犬の遠吠えと同じでございます」


 ソフィーはターコイズブルーの瞳をちらりと後方に向けてから再度セイコに向き直った。さらさらとなびく栗毛の長髪が美しい。


「姫様は怖がる必要も傷つく必要もございません」

「怖くなんてありません」

「立派でございます」

「こんな大勢に守られて何が立派なことですか」


 セイコは友人たちの笑顔を思い出す。四季の館で共に学び、苦楽を共にした仲間たちだ。皆高潔で礼儀正しく、紳士で頭の良いいい人たちだった。たまに、内緒で厨房に忍びこみお菓子を盗むなどの規則違反もしたけれど。


 皆それぞれ欠点はあったけど、皆いい人だった。セイコは彼らの笑顔が好きだった。


 だが、今セイコの友人は笑っていられるか? 答えは当然否。友人たちには護衛はつかない。四季の館で学ぶ友人達の身分は貴族や豪商が多かった。だが、王族の彼女とは違う。学友たちは自力で逃げなければならない。


 本来であれば、最も高貴な身分であるセイコこそが矢面に立たち悪漢共を引き受けねばならない。彼らを逃がすために。それこそが高貴なる血筋を持つ者に課せられた義務である。

 だが、実際に暴徒たちの矢面に立ったのは騎士団団長ファーガソン。セイコは副団長ソフィーに連れられ逃げることとなってしまったのだ。義務を果たさずに。


「母様や、姉上たち、ファーガソン様がうらやましいです。当然ソフィー、貴女も」

「魔人として戦いたいのですか」

「私も魔人であれば、私は義務を……」

「……仮にそうであっても、我々護衛騎士団はセイコ様をお守りいたします。立派な心掛けですが、今は不要にございます。は今は胸にお仕舞いになってください」

「ひひ! 無視は良くないなァ! 俺も話に混ぜてくれよォ! もうすぐキレるぞォ!」


 暴走化学木馬軍団のリーダー、モヒカンピエロの叫び声。彼らはすでに、箒で空飛ぶ護衛騎士団の眼下に迫っている。だが、護衛騎士団団長ソフィーに焦りは見られない。彼女は品のない掛け声を無視し、周囲の騎士団員に伝言。


「高度を上げて東へ! 東のデミ・六キロ先、森がある。森の中では荒野と違って科学木馬は取り回しが効かない。輝きの丘への最短経路から外れるが追っ手を撒くのが優先だ! 我々は木々の上を飛行して逃げ切れる!」

「オォイ! そんなことさせるとおもうかァ!」


 モヒカンピエロは跳んだ!


 モヒカンピエロは護衛隊員が操る箒に着地。位置関係的にはセイコの後方。セイコの耳には箒とその乗り手の狼狽した叫び声が否応なしに入ってくる。


「うわぁ! やばいマジカル・パワー!」

「ば、馬鹿な! 地上からデミ・二十メートルはあるはず!」


「俺は魔人†エダシク†」


 魔人。それは超常の力マジカル・パワーを操る超人。魔人が走れば風を追い抜く。魔人が殴れば獰猛なデミ・エレファントですらも一撃でノックアウト。ライフル弾も難なくかわし、多少の毒も体内のマジカル・パワー・マクロファージとマジカル・パワー・アドレナリンが跳ね返し無効。

 人智を超えた力を持つ彼らを一人戦場に放っただけで敵の軍隊は壊滅する。


 モヒカンピエロ、もとい、エダシクが見せた軽い一跳びでデミ・二十メートル上空の空飛ぶ箒の柄に着地し、バランスを崩すことなく柄の上に立ち続けるという精密技巧及びバランス感覚こそが実際にエダシク魔人であることの証左なのだ!


「ひひ。か弱い人間スカムの貴様ならこの高さから落ちれば命はないだろうな」


 魔人エダシクは箒から護衛隊員を落とそうとする。


「やらせはせんぞ!」


 セイコの隣、ソフィーは自身の箒を蹴って後方に向かって跳躍! 向かう先は騎士団を箒から蹴り落そうとする魔人エダシク!


「マジカル・チェンジ†カノープス†」


 空中にてソフィーが叫ぶと瞬間的に彼女の身体はマジカル・パワーの光る鎧に包まれた! ソフィーは魔人カノープスに変身したのだ。


 セイコは必死に目を凝らした。何が今から起きるのか、見届けなければならない。なぜなら、眼前の戦いはいずれ彼女自身が行うべき模範なのだから。


 跳躍中のソフィーが腰に添えた金の手斧及び、銀の手斧の柄を握ったのをセイコは見た。


 だが、セイコが目で追えたのはそこまでだった。


 ガキィン!


 ソフィーが斧を振るい、敵がガードした音だろうか? 何が起きたかの推測はできる。だが、実際にその推測が当たっているのかわからない。


 すでにモヒカンピエロもカノープスもセイコの視界から消えている。瞬きなどセイコはしていない。定命の者には魔人の戦いについていけない。


 ブルルン! ギャリギャリギャリ!


 ドガ―ン!


 編隊箒飛行で空飛ぶセイコたちの眼下で暴走する科学木馬の内三台がクラッシュ。爆発音を放つ。


 セイコは原因を即座に考察。その破壊を引き起こしたのは二人の魔人だ。魔人の戦場はセイコ後方の飛行箒上から暴走科学木馬集団の科学木馬上に移ったと考えられる。

 実際、セイコの考察は正しかった。暴走科学木馬集団は統制を失いバラバラに走り出した。それも各々が叫びながら。逃亡を始めたのだ。


 最後までしぶとく残った暴走科学木馬もついに横転。砂煙といやな金属音を立てて荒野の上をスリップした。セイコたちは先に進むのをやめて、空から砂埃を見下ろし固唾をのむ。砂埃はすぐに消えた。視界が戻る。カノープスが立っていた。


 彼女はエダシクの頭を踏みつけている。壊れた科学木馬にモヒカンを押し付けるようにして。


 セイコはエダシクをじっと見た。いかにも品がなく野蛮な見た目。話は通じないだろう。当然。エダシクは四季の館の生徒であるセイコを追いかけてきた荒くれものでしかない。


 だが、それ故に、ほかの生徒の安否を知っている可能性がわずかながらにある。それに、四季の館を襲った目的も。

 セイコが前傾姿勢をとり、エダシクに接近しようと試みたその時、カノープスは声を発した。ただし、エダシクからは目を離さない。


「ジミー。なぜ姫を連れてさっさと逃げない」


 セイコは降下しようとするのをやめて前方を見る。箒編隊飛行の先頭に立っていた騎士が返事をした。ジミーだ。彼は緊張した面持ち。


「三下魔人の処刑を騎士団総出で見物することによって何になる? セイコ様護衛の任務に何か肯定的側面があるというのか?」

「いえ! ありません!」


 ジミーが声を張り上げた。その言葉に合わせて、箒たちが早く逃げようと騒ぐ。


「なら、行け。追っ手はまだまだ来る」

「はっ!」


 セイコはジミーと目が合う。彼の目は険しい。額に汗も浮かんでいた。ジミーだけではない。騎士団全員が緊張状態にある。セイコは一度ぐっと奥歯をかみしめた。


 セイコが進行方向を向くと、最後に地上からカノープスの声。


「ジミー。この際だ。姫様に手を出しても良い。許す。だが、絶対に姫様を死なせるな。攻撃から姫様を護り抜け」

「副隊長あなたは?」

「私はお前達とはべつの魔人と戦わねばならない。二人来る」


 ジミーは険しい顔で敬礼した後、東に向かって飛び立った。セイコもそれについていく。


 東へと向かう途中、セイコは背後から野太い声を聞いた。エダシクの叫び声だった。

「うえー」「叫び声だ」「苦しそう」

 箒たちの感想にセイコはおおよそ同意。


 セイコはちらりと背後を見る。エダシクは絶命し、体は塵と化していた。魔人は死ぬと灰塵に帰す。だが、それで危機が去ったわけではない。


 カノープスの後方に砂煙が立ち込めている。次の追っ手がやってきたのだ。暴走科学木馬第二陣とカノープスがかち合うまでの猶予は短い。だが、カノープスは振り向いた。セイコはカノープスのギラりと輝くターコイズブルーの威圧的な光をとらえたのだ。彼女は目でセイコに語った。何もするなと。


 その後、カノープスは大群に向き直った。


 セイコは思い知った。彼女が抱える悶々とした思いはお見通しなのだ。どこまで行ってもセイコは周りの人間から庇護される立場から抜け出せない。しかも自分は何もできない。それが悔しくて先ほどセイコは奥歯をかみしめた。


 セイコは周りの箒を見渡す。自分を守るようにして飛ぶ箒たち。それにまたがる騎士団たちの表情は暗く、張りつめていた。


 カノープスは言った。『私はお前達とはべつの魔人と戦わねばならない』と。その上、ジミー命令した。何があっても姫を守り抜くことをを。その二点から騎士団員達は察した。


 カノープスはマジカル・パワー・第六感で近い未来を見ることが出来る。対処せねばその未来の的中率は九割を超える。


 つまり、これより先の近い未来、セイコは極めて危険な攻撃にさらされる。


 ブンブンブン!


 左から不穏な重低音の接近。一同は音の方を見た。科学木馬に一人の男がまたがっている。カノープスは後方で科学木馬集団と交戦中だ。騎士団員達を覆う雰囲気がより一層緊迫したものになる。

 本隊で急接近してきた不気味な一台の科学木馬に対応しなければならない。


 一方で科学木馬にまたがる男は呑気そのもの。まるで、ちょいと簡単なお使いを頼まれたかのような態度だ。いや、それよりも呑気かもしれない。

 男はハンドルに足を投げ出し、科学木馬上でくつろぎながら接近。その上、鼻歌まで歌っている。ふざけている。だが、それ故に危険だ。


「怖い!」「逃げなきゃ!」「すごいマジカル・パワー!」


 箒たちと騎士団の見解が一致。箒はフルパワーでマジカル・パワーを放出し飛行!  

 箒の上の騎士たちも前傾姿勢を取って使い魔のサポートをする。徐々に暴走科学木馬から距離が離れていく。


「行けるか?」「これならにげられるカモ!」


 箒たちの声が、騎士団の中で伝播し、緊張感がほんの少し緩んだ。だが、それは楽観的願望に過ぎなかった。次の瞬間セイコ及び騎士団たちは暴走科学木馬上の男が発する声を聞く。


 最悪な掛け声だった。


「マジカル・チェンジ†シャム†」


 追跡者は、邪悪な魔人だ。




 アウェイキング・ザ・ファイティング・パワー その2へ続く

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