第16話

「雨音さん、ちょっといいかな?」 

 帰りのホームルームが終わり帰ろうとしているところを、担任から呼び止められた。村上むらかみ 純子じゅんこ先生。品のある国語の先生だ。

「はい」

 私の机の前に、村上先生は椅子を持ってきた。

「前、座るね」

 村上先生はにこりと笑い、腰を下ろす。

「今日、美空さんたちとなにかあった?」

「どうしてそう思うんですか?」

 私が聞くと、村上先生は優しく答えた。

「今日、一緒に居なかったから。仲良かったでしょ?」

 私は、村上先生に笑顔を返す。今日私ができる、精いっぱいの笑顔を。

「仲良くないです」

「え?」

 村上先生は、あからさまに表情を歪ませた。

「でも、昨日まで一緒に居たじゃない。先生、安心したんだよ?」

 それは、なんの安心ですか? うちのクラスはみんな仲が良いんだっていう安心ですか?

「私、一人の方が楽なんです」

 一人だと裏切られるなんてことないから。

「昨日までのは、気まぐれです」

 二人は、麗華ちゃんが休んでいたから声をかけてくれていたんです。

「だから、心配しないでください」

 自分の安心のために、生徒を心配しないでください。

 私は、先生を見る。

「そう。いつでも相談に乗るからね」

 先生は優しい顔に戻り、席を離れた。 

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