(3)




 その後の表彰式で急いでメダルを受け取ると、私はそのまま第2体育館に向かって駆け出た。

 バスケの試合はもう始まっていた。古い体育館は中央で緑色のネットで仕切られ、同時にふたつのゲームがおこなわれている。

 2階の観客席に上がり、肩を弾ませながら映の姿を探した時。


「きゃあっ!」


 反対側のコートで女子の束になった黄色い歓声があがった。

 反射的にはっとしてそちらを見れば、相手チームの陣地を、華麗なドリブルで切り裂いて走る人の姿を見つけた。

 青いギブスをはためかせながら、長い手足で風を切るその姿は、映だ。


 観戦している生徒の間をくぐり抜けながら奥のコートに向かう。もちろん視線は映に向けたままだから、何度も人の足に躓きそうになった。

 

 映は味方チームにパスを出し、その間にシュートに向かって走る。

 そしてチームメイトが映にパスを返した。映がまるで手のひらに吸い寄せるようにしてボールを受け取る。


「……映!」


 思わずその名を呼んでいた。


 直後、映がボールを手にしたまま跳んだ。鮮やかに軽やかに、重力さえ手が届かないほどに。

 そのままボールを放つ。映の手から放たれたオレンジ色のボールは、まるで行くべき場所に帰るようにぶれることない弧を描きゴールに吸い込まれて――。

 ピーッ! 耳をつんざくようなホイッスルの音が鳴った。

 見れば、コートの中心に置かれた電子タイマーが0秒を指していた。


「きゃー!」


 隣の女子が叫び、その途端歓喜の声が爆発する。歓声が肌を走っていくようにぞわぞわっと鳥肌がたつ。

 映のゴールが決勝点になったのだ。


 映はチームメイトの男子たちからの熱烈なハグに、顔を破顔させて喜んでいる。

 と、その視線がなにかを探すようにほんの少しあたりを彷徨い、そして私と目が合った瞬間、笑顔を弾けさせた。右手を掲げて手を振ってくる。


「日依!」


 まわりの声が大きくて声は聞こえないけど、たしかに映の唇は私の名前を刻んだ。

 汗が伝う顎を上げて、私だけを見上げてくる映。


「かっ、こ、よ、かっ、た!」


 私も大きく口を動かし、映にだけわかるようにそう伝える。

 すると映はきりっと研ぎ澄まされて見えていたその顔を、いつものように緩めて笑った。


「日依の声が聞こえたから」


 その時、映の背後からひとりの男子が肩を組んできて、映を連れて行こうとする。

 じゃあ行くねという合図で映が私に手を振ってきたので私も手を振り返すと、映たちは男子と共にクラスメイトたちが集まっている方へ戻って行った。


「映くん、かっこよすぎてやばい……」

「あれはずるいよね。めっちゃきゅんってした~」


 女子たちの声を聞きながら、私はしゅーっと膝から空気が抜けるようにその場にしゃがみ込んだ。

 ほんとだよ、あんなのずるいよ。

 まったく、どこまでかっこよくなるつもりだろう……。






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