第2話:国王演説 未来への誓いと喜びの報告

その日、王都シアルドュンは、国王による特別演説のため、いつも以上の熱気に包まれていました。

白く輝く大理石の王宮広場は、早朝から押し寄せた無数の国民で埋め尽くされ、人々は皆、興奮と期待に満ちた表情で広場の中央に立つ演台を見上げていました。

正午を告げる鐘の音が鳴り響くと、静かに、しかし確かな足取りで、長谷川・歩国王が演台に姿を現しました。

彼の背後には、スクプタ―王妃が穏やかな微笑みを浮かべて立ち、その隣には、中川黄身斗に抱き上げられたジョニ―が、国民を見つめていました。

王妃の腕の中には、ジョニ―が日頃から愛してやまない、木彫りの鳥のおもちゃが揺れていました。

ジョニ―は、広場を埋め尽くす人々のざわめきと熱気に、目を大きく見開いていました。

広場全体が静まり返る中、歩国王がゆっくりと話し始めました。

彼の声は、力強く、そして穏やかで、まるで王都の隅々まで響き渡るようでした。


「国民の皆よ!」


一瞬の静寂の後、広場に大きな歓声が湧き上がりました。

歩国王は国民一人ひとりの顔を見つめ、深々と頭を下げました。


「本日、私は皆に、このスティ・ロンハ―ト王国が享受する平和と繁栄を改めて伝えたい。我々の王国は、知と勇気、そして何よりも互いを慈しむ心によって築き上げられてきた。この豊かな大地、澄んだ水、そして空を舞う飛空艇、全ては皆の努力と、先人たちの叡智の結晶である! 我がスティ・ロンハ―ト王国は、特定の血筋ではなく、村人全員の合意によって国王を選出し、初代国王が大図書館アズティルを建てることで、知の探求を国の礎とした。国民の代表として『生命の信仰』と『知の探求』を体現する、それが我々王室の務めである!」


国王の言葉に、国民は力強く頷き、再び歓声が沸き起こりました。


「我々は、この平和を決して当然のものとはせず、未来永劫、守り続けていくことを誓う!そして、本日、皆に伝えたい、もう一つの、大きな喜びがある!」


歩国王は、言葉を区切ると、隣に立つスクプタ―王妃とジョニ―に視線を向けました。

彼はジョニ―を優しく抱きかかえ、国民の方へとその小さな体を向けました。

ジョニ―は、多くの人々の視線に、少しだけ照れたように、しかし好奇心いっぱいの目で、彼らを見つめ返しました。


「本日、この私の愛息子、長谷川・ジョニ―が、つつがなく5歳の誕生日を迎えることができた!皆と共に、この喜びを分かち合いたい!」


国王の言葉が広場に響き渡ると、一瞬の静寂の後、地鳴りのような大歓声が湧き上がりました。

人々は喜びを爆発させ、手を叩き、帽子を高く投げ上げ、中には涙を流す者さえいました。彼らにとって、ジョニ―王子の誕生日は、王国の平和と未来が約束された、何よりも喜ばしい出来事だったのです。


「ジョニ―王子! おめでとうございます!」


「陛下の御子息に!神の加護を!」


「未来の国王陛下!万歳!」


無数の祝福の声が、シアルドュンの空にこだましました。

人々は笑顔で互いを抱きしめ合い、家族や友と喜びを分かち合いました。広場には、色とりどりの紙吹雪が舞い、王宮の楽団が祝賀の調べを奏で始めました。

その音楽は、人々の心をさらに高揚させ、広場はまるで巨大な祝福の渦と化しました。

ジョニ―は、黄身斗に抱き上げられながら、この光景を眺めていました。彼の小さな瞳には、国民の喜びと祝福の光が満ち溢れていました。

彼は、まだ幼く、この歓声の意味を全て理解することはできませんでしたが、その中に込められた、途方もない愛情と期待の大きさを、肌で感じ取ることができました。

父の演説と、国民からの祝福の熱気が、ジョニ―の幼い心に、王国の未来を担う者としての、漠然とした、しかし確かな使命感を植え付けていくかのようでした。

歩国王は、ジョニ―を抱きながら、広場を埋め尽くす国民の顔を、一人ひとりじっと見つめていました。

その瞳には、国民への深い感謝と、この平和を何としてでも守り抜くという、揺るぎない決意が宿っていました。

彼は、未来への希望を胸に、静かに、しかし力強く、自らの誓いを新たにしたのでした。

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