第2話 危険と遭遇

どうしてこうなった?

ここはどこだ?

家に帰る道は?

人に戻れるのか?

僕に何が起こってる?


次から次へと疑問がわいてくる。

けれどその答えを知っている存在は何もいない。


考えれば考えるほど頭がぐちゃぐちゃになる。

不安が喉の奥に詰まって、息が苦しくなる。


うん。あきらめよう。今考えても無駄だ。

とりあえず人がいそうな場所を探してみよう。

どの方向に進もうかな~。


おっ!棒がある。え、なんか樹液が光ってるんだけど。

まあいいや。これが倒れた方向に進もう。

あっちだな。じゃあ、レッツゴー‼


太陽の位置もよくわからないし、空の色も微妙に違う気がする。

体感では1時間くらい歩いたと思うけど...。


これほど時計がないことを不便に感じたことがない。

しばらく歩いてみたが、道らしいものもない。

踏みならされた草も、切り株も、焚き火の跡も見当たらない。

人が住んでいそうな痕跡はなさそうだ。

このままここで生活しないといけないのかな...。


ガサッ。


「⁉」


心臓が跳ねた。耳を澄ます。風の音じゃない。何かが動いた。


──バキッ。


今度は枝が折れる音。確実に何かが近づいている。


「やばい……!」


反射的に走り出す。四足の体は驚くほど軽く、地面を蹴るたびに風を切る。

けれど、背後から聞こえる足音も速い。追われている。確実に。


木々の間を縫うように走る。目の前の枝をくぐり、岩を飛び越え、息を切らしながら進む。

だが、気づけば森の奥へ奥へと入り込んでいた。


優太は知らず知らずのうちに、森の最も深い領域へと足を踏み入れていた。

そこは、魔獣すら縄張りを主張する危険な場所だった。


「……っ!」


目の前に現れたのは、先ほどとは比べ物にならないほど巨大な魔獣。

黒い毛並みに赤い瞳。牙が光り、唸り声が空気を震わせる。


逃げられない。そう悟った瞬間、優太は地面を蹴った。


「うおおおおおっ!」


本能だけで飛びかかる。牙を剥き、爪を振るう。

だが相手は強い。一撃で吹き飛ばされ、木に激突する。


「ぐっ……!」


痛みが走る。だが、体の奥から何かが湧き上がる。


──魔法。


頭の中に、言葉が浮かぶ。


《氷牙》


口元に冷気が集まり、白い光が迸る。


「……これが、魔法?」


次の瞬間、氷の牙が魔獣に突き刺さる。

咆哮。地響き。そして、沈黙。


──討伐完了。


その瞬間、頭の中に声が響く。


《レベルアップしました。レベル:1→12》

《スキル獲得:氷牙、野生感知、魔力操作……》

《ステータス更新中……》


「うわっ、ちょ、待って、情報多すぎ……!」


視界がぐるぐると回り、意識が遠のいていく。


──気絶。


静かな森に、白い狼の姿だけが残された。

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