第27話 気持ちを聞く話
「出ないな……」
家にいるはずのディーノに電話をかけても、電話は繋がらなかった。出掛けてくると言ったきり、今朝は帰っていなかったのだが、まだ戻っていないのだろうか? 外に出たわけではなく、魔方陣を使っていた。もしかしたらコル・イラディアに帰っているのかもしれない。仕方がないので、携帯にメッセージを残すことにする。今日のご飯はいりません。急にディーノが母親か何かのように思えて、笑えてくる。
そうだ。凛音にとってディーノは家族。兄弟のような、母親のような、そばにいて安心できる存在だった。
「まぁ、大丈夫……よね」
凛音は携帯をバッグに入れると、大吾との待ち合わせ場所へと向かう。
「……ここ、だよね?」
携帯に入っていた場所は、居酒屋でも焼鳥屋でもない、お洒落なショットバーだった。階段を下りて、地下へ。扉を開けると、大人びた雰囲気のカウンター。そこで見つけた後ろ姿。
「お待たせしました」
声を掛けると、はにかみながら片手を上げる大吾。
「お疲れ」
ポンポン、と隣の椅子を叩き、促される。大吾の隣に座ると、
「片山さん、よくこんなお洒落なお店知ってましたね」
と、つい口にしてしまう。
「おいおい、俺だってたまにはこういうところで飲むんだぞ?」
「あはは、失礼しました」
見れば、もうすでに大吾は飲み始めているようだ。
「なに飲む?」
「同じのを」
「オッケー。マスター、ギムレットお願い」
カウンターで肩を並べている姿は、年相応のカップルに見えるのだろうか、などと考え、凛音は軽く頭を振った。
「なんか、片山さんとサシ飲みって、久しぶりですね」
「そういや、そうだな」
「福本さんが来てからは、三人が多かったですもんね」
「あいつ、若いのに付き合いいいもんな」
「ですよね~」
「……」
「……」
なんとも言えないぎこちなさに、沈黙が後追いする結果となっている。
「……いや、なんかごめん。俺から誘っておいて」
「そんなっ、私こそ、なんか変な態度取っちゃってすみません」
お互い頭を下げ合い、顔を見て、思わず笑ってしまう。
「ぷっ、意識しすぎだな、お互い」
「ですね。普通に話しましょうか」
改めて杯を交わすと、そこからは他愛もない話に花を咲かせる。気負わず、繕わず、自然体でいられる関係という意味では、ディーノと同じように、片山も凛音にとっては距離の近い関係なのかもしれない。
他愛のないお喋りに明け暮れ、色気のない食事会はお開きとなった。
「ご馳走様でした。すみません、出していただいちゃって」
凛音が言うと、
「下心のためにはいいカッコさせてもらわないと」
と、片山が冗談めかして返す。そして、凛音に手を伸ばし、真剣な顔で訊ねる。
「一瞬だけ、抱き締めてもいいかな?」
「ええっ?」
いくら夜とはいえ、往来の場でそんな大それたことを言われるとは思わず、思わず後ずさる。いつもの片山なら、そんな凛音を見ればすぐに引くところだが、今夜は違った。凛音の腕を掴むと、グッと引き寄せる。
「ひゃっ」
腕を引かれた凛音は、そのまますっぽりと片山の腕の中に納まった。ディーノ以外の男性に抱きしめられたのは、初めてである。凛音は真っ白になった頭で、ただカチコチに固まっていた。
「ごめん、強引すぎた」
あまりにも体を硬くする凛音に気付き、我に返った大吾が体を離す。
「答えは急がないって言ったくせに、俺、余裕なさすぎだな」
深く息を吐き出し、頭を抱えた。
それだけ、真剣に思いを寄せてくれているということだと気付かされ、凛音はなんだか胸が熱くなる。
「……帰ろうか」
言われ、コクコクと首を振り返す。そんな凛音の姿を見、大吾がクスリと笑みをこぼした。
*****
最寄り駅まで送ってもらい、大吾と別れる。携帯を見ると、ディーノからの返信はない。それどころか、既読にもなっていない。
「……ディーノ、どうしたんだろ?」
今までにもフラッと姿を消すことがなかったわけではない。だが、留守にしたとしてもせいぜい一晩。こんなに長く家を空けることなど、今までなかった。向こう(コル・イラディア)で何かあったのだろうか。
悶々とそんなことを考えていると、携帯が鳴った。まさに、ディーノからだ。
「すごいタイミング! まったく、どこに行ってたのよっ。もしもし、ディーノ?」
急いで電話を取ると、ガチャガチャとした雑音が聞こえ、直後に、
『ポニー! なにがあっても絶対に来るなっ!』
切羽詰まった声で、ディーノが叫んでいるのが聞こえた。
「え? ちょっとなにっ? ディーノ、どうしたのっ?」
一気に酔いが醒める。何かあったに違いなかった。
『これは罠だっ! 絶対に従うな、うわっ』
ゴッ、という鈍い音と、ドサッと何かが倒れる音がする。携帯を持つ凛音の手が震えた。
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