第13話

 明日は富吉が江戸へ立つという日。


 おりんはおみよ婆のいる谷に向かった。

 富吉に渡すための南天の実を摘むためである。


 婆の小屋のまわりには、紅い実をつけた南天が群生している。

 実なら、花のようにすぐにしおれることなく、富吉といっしょに旅をしてくれるだろう。


 谷に着くと、婆の小屋からは、いつものように煙が立ち上っていた。

 行けば必ず声をかけるが、今日はそれももどかしく、すぐさま小屋の裏にまわり、持ってきた鋏で実のついた枝をいくつも切った。  

 

 形のいいものをより分ける。


「うん、これがええ」


 特に気に入った二束を、足元にまとわりつく蔓を引き千切って束ねる。


 そのまま小屋を後にしようとしたが、ふと、小屋の中が静かすぎると思った。

 婆は谷におりんがやって来ると、足音がするはずもないのに気づくのだが。

 

 板戸の隙間から、小屋の中を覗いた。


 婆はいた。

 

 囲炉裏の前に坐っている。

 怖いような、思いつめた顔をしている。

 

 小屋の前へ回って中に入り、婆に声をかけた。

「どうかしたか?」


「また、死人が出た。村の若い衆や」

 おりんは目を瞠った。


「庄屋に知らせねば、な」

 ところが婆はその必要はないと言う。


「とっくに庄屋は知っておるわ。仏は庄屋のうまやにある」

 

 おりんは立ちすくんだ。


「――庄屋の厩にあるって、誰が死んだんや?」

「おめえも知った男や。富――」


「いややあ―!嘘や、嘘や」

 

 婆の小屋を飛び出して、おりんは闇雲に走った。


 谷を抜け、藪を走って村に駆け込む。


 途中、村の道で、母親が頼りにしているきこりの新造が前を急いでいるのに追いついた。

 新造は仲間たちと血相を変えて走っている。

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