第8話 大喧嘩



「どうして俺が32歳になっているんだよ?俺は確か……大学生で東京にいたはずだ。何故精神病院に入院しているんだよ?」


「悠馬君は統合失調症です。自分の叶わない望みを幻覚によって創り出しています」


「そうなんですよね。優衣という妻などはいません。まだ大学生ですから……そして時々おじいちゃんとおばあちゃんの姿が消えるというのです?更には地縛霊となって亡くなった家族が夜な夜な現れるというのです。異常ですよね?」


「早急に精神病院に入院させましょう」


「それが……東京で下宿しているのですが、携帯に電話しても出ないですし。いつ訪ねてもいないのです」


「それは危険です。統合失調症は心神耗弱状態だったら何を仕出かすか分かりません」


 🌃✨ ✨ ✨ ✨ ✨🌃


 悠馬は愛知県の祖父母の家に法事のために帰省してから、予期せぬ悪夢が起こるようになった。悠馬の家族が愛知県岡崎市の祖父母の家に着いたその夜に、何者かによって殺害されて悠馬はそれが1番の要因となり統合失調症になってしまった。


 更には恐ろしいことに岡崎市の「鳥川ホタルの里 」付近の橋の欄干から田村陽子さん75歳が、何者かによって橋の下に突き落とされた事件といい、更には小5男児生首置き去り事件といい一体何が起こっているというのだ。


 それも……悠馬の絶望をあざ笑うかのように、悠馬の最も身近で事件が発生している。岡崎市の「鳥川ホタルの里 」田村陽子さん突き落とし事件は、丁度その時間「鳥川ホタルの里 」に祖父母と悠馬はいた。もう1つの事件、頭部が愛知県岡崎市✕✕町の空民家の庭で発見された小5男児生首置き去り事件は、実は祖父母の家から徒歩10分弱と、近い距離だった事が分かった。


 可笑しいと思わないだろうか?岡崎に移住して10日余りの間に悠馬の周りで頻発する猟奇的殺人事件の数々。


 実は…恐ろしい事に、この事件の数々を辿ってた行くと、どうも……過去の埋蔵金事件が関与している事が分かって来た。


 一体どういう事


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 今から約150年前、利信と夕花はとうとう恋仲になってしまった。


「私って本当に恐ろしい女、利伸様と恋仲になり夫の事などどうでもよくなるなんて……」


「俺は夕花に夢中だ。俺が夕花に夢中になったから、こんな関係になっただけのことで夕花は何も悪くない」


「私利伸様とこのような関係嫌です。もうかれこれ1年以上も家族の事を忘れて放浪の旅に出てしまった英明なんか待っていられません。そんなことをしたら私は干からびたおばあちゃんになってしまうわ」


「それは一体どういう事だね?夕花」


「だから…だから…もう意地悪なんだから😩💢鈍いわね!」


「どういう事?」


「……んもう💢鈍いわね!結婚。結婚よ!」


「僕だって夕花と結婚したいさ」


「本当に?じゃあ婿養子に入って下さい」


「でも……ひょっとして英明が帰ってきたらどうするんだい?」


「もう私にとっては過去の人。もし……夫英明が帰ってきたら私と一緒に会社を捨てることできる?」

「僕は……僕は……『日光繊維』に目がくらんで夕花とこんな関係になった訳じゃない。夕花だけでいい!」


 実は…利信は自分で英明を殺害したので、英明が絶対に帰らない事は分かっていた。何も知らない夕花はこの誠意に感激してしまった。こうして、反対する家族を説き伏せ内輪だけの簡素な結婚式を挙げた。



 ※夫が生死不明の状態で他の男性と交際したら不倫(不貞行為)になってしまうか?


 配偶者の生死不明により長期間夫婦間において交流がないのであれば、婚姻関係は破綻しているとみなされる。すでに婚姻関係が破綻した状態においては、他の人と交際関係になっても不貞行為にならない。


 1つの例として、配偶者の最後の消息があった時から生死不明の状態が3年未満の場合でも、配偶者が家庭を捨てて出て行ったような場合は「配偶者から悪意で置き去りにされた」に該当するため、裁判で離婚を成立させることができる。


 いつまで捜索しても見つからないし、行方不明になる1ヶ月ほど前から実に怪しい行動が見受けられた英明だったが、ある日を境にパタリと妻と一緒に銭湯に行かなくなった。


 それでは……英明は自慢の妻をどこにでも連れていく愛妻家だったのに、何故急に一人で銭湯に行くようになってしまったのか?



 以前は銭湯に行くときは妻も一緒だったが、消息不明になる1ヶ月ほど前からは妻に内緒で銭湯に出掛けるようになった。


 妻の夕花はどこに行くにも一緒だった夫英明の行動に女でも出来たのではと、疑心暗鬼になった。


 この様な行動の数々に裁判で離婚を成立させることができた。そして…離婚を認める判決後に離婚届を提出したので、晴れて利信と再婚したので重婚にあたらない。


 それでは……夫英明は何故愛する妻を置き去りにして、1人だけで銭湯に行くようになってしまったのか?やはり女がいたのだろうか?


 それは妻夕花の思い込みだった。実はあの時代混浴が普通だったので、英明は妻夕花の裸体を銭湯のお客が見ているとの、会社の若い衆に忠告を受け、改めて見直すと老若男女問わず、美しい夕花が裸で銭湯の中を通り過ぎると、見上げて見ているではないか。これに怒りを覚えた英明は家に風呂場を作った。


 大きな家は昔から風呂場を備えていたし、室町から江戸初期の豪商の旧家には今風な浴室があった。ましてや大企業「日光繊維」には風呂場があって当然のこと。


 それでも……英明は大浴場で汗を流したかったので1人で銭湯に通っていた。何の前触れもなく1人だけで銭湯通いを続ける夫英明に、妻夕花も最初のうちは不満だったが、主婦の仕事は多岐に渡り色々ある。だから家のお風呂で十分になって行った。


 🌃✨ ✨ ✨ ✨ ✨🌃


 英明が戻ってこないので、こうして晴れて夫婦になった2人だったが、あれだけ英明との子供を望んだ夕花だったが子供は誕生しなかった。実は…夕花は夫英明と結婚して7年も経つのに子供が誕生していない。


「姑からは産まず女は要らないから出て行っておくれ」と矢の催促。

 そこで…離婚されたくないので従業員と関係を持った。するとすぐさま妊娠した。そのゆうみは現在6歳に成長していた。夫が種なしだったのだ。


 だが、あれだけ子供が出来ずに苦しんだというのに、何という事だ。利信と夕花の間には玉のような男の子が誕生した。


 2人は幸せな結婚生活を送っていたが、いくら美しい女でも年には勝てずに、40を数える年になっていた夕花の美しさも今は昔となっていた。


 社長として手腕を振るい益々の発展ぶりを見せている「日光繊維」。利信は経営の才に恵まれたのか、以前にも増しての盛況ぶりである。


 今までは入り婿状態でやっと結婚できたので、夕花に頭が上がらなかったが、最近は自分の才知で「日光繊維」がここまで急成長できたという自負があり、何かにつけて夕花を粗末に扱う場面が増えている。


 それと言うのも会社の帳簿を一気に引き受ける女学校卒の、良家のご息女にして若干20歳の美貌の才女に心を奪われていた利信。今日も仕事が終わると、その従業員美智子といそいそと出掛けて行った。


 今日も遅く帰って来た利信に怒り心頭で玄関で待ち構える夕花。


「あなた今何時だと思っているのですか?まさか……あんな若いお嬢さんに手を出したんじゃないでしょうね?あのお方は洋品店を愛知県に数十店舗お持ちの『ハナシマ』のお嬢様ですよ。繊維会社で修行を積んでいらっしゃるお嬢様を傷者にしては、『ハナシマ』社長に合わす顔がありません。男女関係があるのですか?どうなんですか?おっしゃって下さい💢💢💢」


「俺がいくら手を出さなくても……向こうから甘えられたらどうしようもないさ」


「あなた……なんていう事言うんんですか?あのお嬢様は取引先のお嬢様でお預かりしているお嬢様。そんな大切なお嬢様に手を出すなんて……私が断じて許せません!💢」


「お前のような年増の何の魅力もない婆さんはこりごり。余計なことに口をはさむな!💢💢💢」


「ゥウウウッ( ノД`)シクシク…わあ~~~ん😭わあ~~~ん😭わあ~~~ん😭……もう出て行って……出て行ってください」


「何を小癪な!誰のお陰でここまで会社を大きくしてやったと思っているのだ。全部俺の力じゃないか。ハン!💢💢💢」


「会社の実権は私が全て握っています。社債に株券。あなたは社長の座に就いている只の裸の王様。それが分からないのですか?」


「この野郎!俺をアゴでこき使いやがって、実権は全てお前が握りやがって!💢💢💢」


「お嫌だったら出て行ってください。息子も時期に大きくなりますので……あしからず。ふっふっふっふ」


「何を――――――――ッ!この野郎💢💢💢」

 そう言うと頬っぺたを思いきり強く叩いた。余りの勢いに倒れ込んでしまった妻夕花は机の角に頭を打ち付けた。


”ペッシーン”

”グシャン”


 動かなくなった夕花。






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