第7話 濃厚なデイープキッス
利信は考えた。夕花を手に入れ幸せになる為にはどうしたらいいのか?
(ふっふっふっふ。俺が一番欲しいもの。それは金とあの美しい夕花!。それを手に入れるためには、あの鬱陶しい男英明を殺害すれば全て手に入る!うっふっふっふー)
だがそうそう簡単にはいかない。
(俺は警察官になって、嫌と言うほど犯罪を犯して罪を逃れた人物を見て来た。明治初期は、法制度の整備が進む前の「グレーゾーン」が多く、混乱に乗じて犯罪を犯し、処罰を免れた事例は確かに存在した。ましてや俺は警察官だ。そんな警察官が犯罪を犯す訳がないだろうと思わせ犯罪を犯す。そうだ!こんな時代だからこそ犯罪を犯しても分からないだろう?」
確かに明治初期は、制度の未整備や混乱による実質的な見逃しが、背景にあり犯罪が見逃されたケースが多々あった。
🌃
利信は英明の行動を調べ上げた。英明は仕事が終わった後の唯一の楽しみは銭湯に行く事だと知った。仕事で疲れた体を銭湯に浸かる事で一日の疲れを治していた。また銭湯の最大の楽しみは混浴だった。
(銭湯に行くと女の裸が見れるわい。最近は都市部では取り締りが強化され、混浴禁止令を出す温泉や銭湯が増えてすっかり楽しみも減ったが、完全になくなった訳ではない。混浴の温泉や銭湯もまだまだあるわい。うっふっふっふ)
英明は、女の裸を見た快楽と風呂上がりのポカポカ温まった無防備状態のままで、まさかこれから恐ろしい事件が起きようなど思いもつかない。その隙を襲ったのは誰あろう警察官の経験を持つ利信だった。ピストルを持っていたので撃ち殺し馬に乗せ連れ去った。
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こうして…英明を亡き者にして夕花に近づいた。
「夕花さん。俺は英明氏とは江戸城内で一緒に仕事をしておりました。なんともお気の毒に御主人様が行方不明と当時の仲間から伺いまして……僕に出来ることがあったら何でもおっしゃって下さい」
「ゥウウウウッ( ノД`)シクシク…本当に(´;ω;`)ウッ…一体夫英明はどこに消えたのか、皆目見当が付きません……ゥウウウウッ😪不安で不安で夜もろくに眠ることが出来ません……わあ~~~ん😭わあ~~~ん😭わあ~~~ん😭」
「それで警察はどういっているのですか?」
「警察も年号が変わり少し経ちますが、それでも……制度の未整備や混乱により、全てには手が回らないようで難航しております。……ゥウウウッ( ノД`)シクシク…」
利信は妻にも逃げられ寂しい思いをしていた。そんな時に美しい夕花と出会い忘れられなくなってしまった。それでも…夕花はあの優秀な男英明の妻。どうにも出来ない。思い余った利信は考えた。
「そうだ。アイツを殺害すれば全てが手に入る!」
警察官だったので犯罪の事は分かる。川に捨てれば浮いてくるし、明治初期はまだ火葬と言っても薪が一般的だったので完全燃焼には至らない。そこで以前呉服屋を営んでいたので、大きな倉庫を持っていたので、遺体を倉庫に隠し倉庫の土間を掘り起し遺体を埋めた。
「僕も同じ武士として城内で働いていた英明君の事は気にかけておりました。それは奥さんも同様、僕の部下の妻ですからね。お可哀想に……気晴らしに歌舞伎見物にでもまいりましょう。今は中村座で九代目市川団十郎、五代目尾上菊五郎、三代目沢村田之助―などが上演していますよ」
「わー私団十郎のファンなの。是非とも行きたいですわ」
「京橋の中村座に観に行きましょう《昼の部 11:00開演》ですからね。僕が迎えに上がります。2人だけでは夕花さんも、こんなオオカミのような男と2人では不安でしょうから、お供のものを1人用意します。僕も呉服屋ですから大切な部下の奥さんの為に手配します」
「そうですか?ありがとうございます!『日光繊維』は夫が居なくなってからと言うものてんやわんやで、お供を付けたかったのですが、人手不足でそれどころではありません。ありがとうございます。そちらで手配して頂けるなんて感謝感激です」
そして…中村座に行く日がやって来た。まだこの時代自動車はなく馬車でやって来た利信だった。
『日光繊維』会社前に到着した利伸だったが、あれだけ悲しみに打ちひしがれていた夕花だったが、団十郎を見に行けると言うので今か今かと利信を会社の前で待っていた。そこにはお付きのキヨが横について言った。
「人手が足りなくて私は奥様のお供が出来ません。ご主人様が行方不明ですっかり気落ちなさっていたのに、こんなにも元気におなり遊ばし、ほっとしております。本当にありがとうございました」
こう言って喜んで夕花を送り出してくれたキヨだった。
「利信さん今日一緒に行くお供のお方はどうしましたか?」
「それが……急に熱を出しまして……」
夕花は少し不安げな顔をのぞかせた。
「本当にすみません。今は冬ですのでどうしても風が流行っておりまして。こんな中年に差し掛かった僕ではイヤでしょう。もしお嫌でしたら今度にでも……」
「いえ折角チケットまで買ってもらったのにキャンセルできません。それから……私はこの日を指折り数えて待っておりました。団十郎に会えるのですもの……」
『梅雨小袖昔八丈』を観劇した2人は満足げな表情で中村座を後にした。
「本当に満足でした。夫の事で滅入っていましたが、少し気持ちが晴れました」
「僕も元警察官ですから、あちこち手を回して英明君を見つけますので心配なさらずに。あっ!そうだ夕花さんそろそろ夕方ですが、美味しい料理を出す店を知っております。少し足を伸ばしてみませんか?」
「一体その食事は何ですか?」
「天皇陛下が数年前に初めて牛肉を口にし、1200年に渡る肉食の禁を破り、西洋料理を宮中に採り入れましたが、現在は庶民も食べれます。 カレーライス・オムライス・コロッケ・ビーフシチュー・スキヤキ・トンカツなどを食べさせてくれる洋食店桜亭ですが、いつも行列が出来ています。是非とも夕花さんをお連れしたくて……」
「本当に?殆ど和食ばかりだから一度西洋料理も食べてみたいわ」
洋食店桜亭に到着した2人はお洒落な門構えのお店に入っていった。
「ワー素敵な西洋風の内装ですね」
「そうでしょう。僕がおすすめのメニューはビーフシチューとコロッケです」
「じゃーそれでお願いします」
夕花は元警察官の利信の事を、夫の行方を親身になって探し出してくれる頼もしい存在。更には団十郎を一等席で観劇させてくれ、超人気店で初の洋食を食べさせてくれ、最近では利信は切っても切れない重要な存在になっていた。
だから…安心して利信と出掛けるようになって行った。それと言うのもお供のものと同行する事も度々あったので、この男は善意で近づいた誠意の塊でしかないと信じ込んでしまった。
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もう利信の誠意に甘えるようになって1年が経過しようとしていた。
この日は利信が江戸城内時代の武士にも協力を仰ぎ結果を伝えに、『日光繊維』社長室に報告にやって来た。現在は妻の夕花が『日光繊維』社長代行として会社を切り盛りしていた。
「ゥウウウッ( ノД`)シクシク…こんなにも夫英明を探しているのに……英明はどこに消えたの。(´;ω;`)ウッ…本当に悲しいわ。ゥウウウッ( ノД`)」
その時利信は(機は熟した)そう思った。それは、これだけ凛とした隙を見せない夕花が、最近は頻繫に利信に夕花の内面をさらけ出すことが増えている。
(という事は、俺が何かしてもきっと抵抗しないだろう)そう勝手に解釈した利信は積極的に出た。
夕花の側に近付きそっと抱きしめた。すると……何と言う事だ。夕花がうなだれて利信に抱き付いて来た。
「心配しなくていいんだよ。僕が付いている」
そう言って尚も強く夕花を抱きしめた。
「本当に利信さんに甘えても良いのですか?」
「当たり前じゃないですか、僕は夕花さんの為だったらどんな苦労だっていとわないですよ」
「本当に?誰にも甘えられなくて会社の重責を背負って女の細腕で、耐えれそうになかったわ」
「任せてください」
そう言うと何と大胆な事に、唇を奪い濃厚なデイープキッスを行なった。すると夕花もそれに応じ濃厚で甘いキスは続いた。
※鎌倉時代の温泉は混浴だったといわれており、太古の昔より日本にはゆるい混浴文化があり、日本の温泉や公衆浴場は江戸時代初期までは基本的に混浴であった。
だが、やがて温泉の宿泊客相手に密かに性的サービスも行う「湯女」や、大都市のインフラとして大衆の衛生観念が高まり入浴が盛んになったが、それとは全く別に入浴ついでに垢すりや髪すきのサービスを湯女(ゆな)に行わせる湯女風呂などが陰で増加しはじめた。
だが、明治新政府は近代国家として大国となるべく欧米への体裁を気にし、混浴禁止令を出す。都市部では取締りが強化されたが、1872年(明治5年)、東京府は軽微な犯罪を取り締まる「違式詿違(いしきかいい)条例(軽犯罪法に相当)」を通達し男女混浴が禁止され、違反者には罰金が科せられた。1900年(明治33年)に内務省令として全国の公衆浴場を対象に混浴が禁止された(12歳未満は混浴可)。しかし、なかなか改まらないため、混浴禁止令はたびたび出されたが、しかし、長い年月の中で根付いた風習を消し去るのはなかなか難しく、実際に混浴が無くなったのは、明治中頃だったと言われている。そして…完全になくなったのは明治末期になってからであった。それでもなお、地方の小規模炭鉱の浴場や、鄙びた温泉地などの多くでは、更衣室は別でも浴室が同じ混浴が残るという時代が、昭和30年代まで続く。
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