えんどろーるを響かせたい!~勇者パーティーから追放されたので全力で妨害したいと思います~

マチョあまちょ

プロローグ

ブラッドウルフ襲来

 雄大な自然と魔法技術の最先端が融合したゼーレ大陸には禍々しい全長十メートルも超える四つの楔が打たれていた。

 百年前、ゼーレ大陸を支配しようとするために魔王が埋めこんだ兵器である。絶え間なく異形なモンスターを生み出すその兵器は『四災源泉』と呼称され現在まで人類は楔を一つも破壊することは出来なかった。




 草木も眠る深夜、エドワール王国の都市ピレーネでは至る所で叫び声が絶えず聞こえている。この都市の生誕祭だとかこの都市の領主の誕生日などのめでたい話ではない。

 つい数時間前、ピレーネに駐在する騎士団からモンスターの大群がピレーネへ襲来しているという報告が伝えられたのだ。

 死を悟り発狂するもの、急いで身支度を済ませてモンスターが迫りくる反対側へ逃げ延びようとするもの、祭壇に向かって必死に祈りを捧げるものと、一般市民のみならず、上位階級の貴族ですらどんどんと都市へと近づいてくるモンスターに絶望していた。

 襲来するモンスターの名前はブラッドウルフ。ピレーネ北西の郊外のオーヴェロン森林を縄張りとしており、黒い毛と真紅の瞳が特徴的で、獰猛な性格で繰り出される鋭い牙は目の前にいる動物を容赦なく食らい尽くす。食べた後に血飛沫を撒き散らすその恐ろしい姿が名前の由来であった。

 そして、ブラッドウルフを語る上で特筆すべきなのは異様な魔法耐性である。並大抵の魔法使いはおろか上級魔法扱える魔法使いですらブラッドウルフの毛皮を燃やすことですら容易ではない。

 数々の冒険者のパーティーが勇猛果敢にブラッドウルフに挑んだが、いとも容易く返り討ちに合わされた。

 そんな恐怖の権化とも呼べるモンスターの大群がピレーネに攻めてきたら都市が壊滅するのは時間の問題だろう。

 ピレーネの領主であるコキュートも討伐案が思い浮かばず手を焼いていたが、幸いにもブラッドウルフがオーヴェロン森林から自ら出ることはなかった。そのためコキュートはオーヴェロン森林の資源が得られない犠牲を甘んじて受け入れて森林への出入りの禁止令を敷いて対処していた。

 ピレーネ北西のある屋敷。そこには依然として椅子に凛と座り込む女性がいた。


 「お嬢様!ブラッドウルフの群れがもうすぐそこまで迫っています。ピレーネから逃げる準備がすぐに整いますので急いで避難を!!」


 メイド長であるヒラリーの慌ただしい様子を遮り、領主コキュートス公爵の娘であるサテラは静かに首を振って否定する。


 「私はこの都市を支える領主の娘です。そんな私がいち早くピレーネを見捨ててしまえば一族の名が恥じます」


 サテラは先月十二歳を迎えたばかりのまだ世間を知らない可憐な少女だ。しかしサテラの目には恐怖が残りながらも覚悟の決まった一族の誇りが宿っていた。

 生まれた頃から我が子のように育ててきたヒラリーのとってその成長はどこか寂しくも頼もしかった。


 「お嬢様……。分かりました。メイド長このヒラリー最後までお嬢様とお供します」

 「ヒラリー私のわがままに付き合ってくれてありがとね」

 「し、失礼します。サテラ様緊急事態でございます」


 屋敷の近衛兵の報告に最悪の事態が遂に訪れたのだとサテラとヒラリーは人生の終わりを悟る。

 しかし、近衛兵の語る報告は予想裏切るものだった。


 「ブラッドウルフの大群が次々と討伐されていきます」


 サテラとヒラリーは突然の報告に驚き固まるがすぐにある仮説が思いつく。


 「騎士団やお父様が進軍したのですか?」

 「いいえまだ準備中だったのですが、偵察している騎士の情報によると、とある冒険者パーティーの一行が独断で先行しており討伐しているそうです」

 「たった一つのパーティーで……」

 サテラが驚きを隠せずに表情を強張らせていると、グォン!という轟音がブラッドウルフの中心から鳴り響く。轟音の主は凄まじい砂埃を上げ、数体のブラッドウルフが空中に打ち上げられていた。

 サテラはただ呆然と絶句する。

 サテラは生まれつき魔素を感知する能力が人一倍高い。濃度が高ければ 目視で確認できるレベルだった。

 そんなサテラの目に写るのはブラッドウルフを覆うように空に広がる巨大な魔法陣だった。その魔法陣は幾何学的に書かれた術式というより丁寧に描かれた絵画のようであった。

 魔法使いの先生から基礎的な魔法は教わったが、どの魔導書に載っている魔法陣にも似つかず、魔法陣というよりもと表現する方が適切だった。

 空に現れた刻印は真っ白な半透明の帷を降ろし、強大な魔素がブラッドウルフを包み込む。包みこまれたブラッドウルフは瞬く間に弱り子犬のようになっていた。

 サテラはこの奇跡とも呼べる魔法を脅威が近づいてくるのも忘れて見惚れていた。




 銀色の鎧を纏った男は荒々しくブラッドウルフの群れの真ん中を縦横無尽に暴れ回る。彼は獲物である両手剣を携えており草を毟り取るようにブラッドウルフを切り刻んでいた。


 「あと、何体だ?」

 「大将ーこんな数が多いんじゃ分からないっすよ」


 銀色の鎧の男を大将と呼ぶ男は巨大な盾を構えて敵の猛攻をいなして二人の魔法使いを守っていた。

 魔法使いの男は詠唱を唱えると、周囲の味方に魔素を流し込んで強化する。

 

 「でも明らかにさっきよりも数は少なくなってます。もう少しですよ」

 「だったら私たちも頑張らないとね」

 「ここが正念場ですよ」


 魔法使いの男が励ますと、横にいた女性二人も斬りかかる。

 獰猛に進んでいたブラッドウルフの大群は、彼らに気圧されて見るからに侵攻速度が下がっていた。

 盾を持つ男の後ろにいる魔法使いの更に後ろにフードを深々と被った少女がいた。少女はもじもじしながらも指をなぞり必死に行動しているように見受けられる。

 

  「詠唱の邪魔です。せめて気の散る行動はしないでください」


 魔法使いの男は少女にぶつかっても謝りもせず挙句の果てには悪態をつく。

 盾を持つ男も同意見だった。昔は健気な姿を愛らしく思えたが最近では守る意義が見いだせなくなったのである。

 必死に斬りかかる女性二人も同じ気持ちでいた。死が隣り合わせで戦っている二人とは違って、いつも守られている少女を妬ましく感じていた。


 「ったく、邪魔くせえな」


 両手剣で暴れる男はブラッドウルフを斬りかかる途中によく現れる少女の愛犬に困っていた。ブラッドウルフを斬る勢いでそのまま斬りかけたことが何度もあった。犬ですら躾けられない少女に男はうんざりしていたのである。

 しかし、五人は知らない。

 少女こそが空中の魔法陣を組み上げている張本人であることを。


 

 


 「なんだ…これは?」


 ピレーネ領主コキュートが騎士団と数グループの冒険者パーティーを連れて進軍する頃には全てのブラッドウルフが殲滅されていた。

 ブラッドウルフの死体がそこら中に転がる凄惨な光景には六人の男女が立ち尽くしている。

 誰がこの大群を倒したかは一目瞭然だったが、コキュートは聞かざるを得なかった。


 「きみたちが…やったのか?」

 「ん、まーそうっすね。やべえモンスターが都市に来てるっつーからぶっ飛ばしに来たんですけど、あっという間でしたね」

 「まさかここまで強いパーティーがピレーネに滞在していたとは…」


 コキュートはこの時、彼らのメンバーをに推薦すると静かに決意した。





・作者のあとがき

あらすじなので分からない用語たくさんあると思いますが、暖かい目で見てくださると幸いです。必ず後で説明が話の中に入ります。

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