毒龍討伐
レナの持つ杖は特殊だった。
一般的な杖は大きく分けて二つ。ケレンが愛用しているような片手で持つ杖と、木の根のように大きい杖。魔素の精密動作性を重視するのなら小さい杖で魔法の威力を重視するなら大きい杖というのが一般常識と知られている。
レナの杖は大きい方に該当するのだが、特徴的なのはその歪な形である。銀色の杖とも呼べるか怪しいそれは持ち手の革製のグリップが取り付けられた場所以外はビスマス結晶のように不規則に伸びており神秘さと不気味さが交わっている。
この杖の名は『
この銀色の杖の素材は送り込んだ魔素によって形が変化する特殊な金属であり、ここまで不規則に伸びたのはレナの計算能力の具現化とも呼べる代物だった。
「毒龍さん、ここまで事がスムースに運んでくれたお礼に本気で挑んであげますぼで文字通り死ぬ気でかかってきてください」
毒龍はレナの表情から挑発してきたことを悟り、怒りに身を震わせて突進する。
あと一歩でレナの体に傷をつけれるという瞬間、突然毒龍の巨体がピクリとも動かなくなる。
毒龍の紫色の瞳が辛うじて動きレナを睨みつける。
すでにレナの右目には刻印が浮き出ていた。
「毒龍とも呼ばれる貴方がまるで神経毒を喰らったかのように動けなくなるのはどんな気分ですか?ですが正解は毒じゃないです。なんだと思います?答えるまで…そうですね、私が地面に刻印を書き終えるまでにしましょう。あ、その前に毒龍さんを討伐した証拠が欲しいので牙の一ついただきますね」
螺旋で得意げに糸切り歯を抜き取ると、レナは右手に持った螺旋で毒龍を中心に刻印を書き始める。あらかじめ毒龍を滅ぼすための刻印を紙に簡易的に書いてきたため地面に書き上げるのはスムーズに進んだ。
その間、毒龍は何とか暴れようと健闘するがそれも虚しく目がきょろきょろ動くだけである。
「さて時間です。毒龍さんは答えが分からないようなので教えてあげましょう。答えは私の操る魔素を貴方の体内に侵入させて貴方を構築するありとあらゆる組織に魔素を張り巡らせていただきました。風魔法とバフ魔法の応用なのですが、まあこの魔法を説明するとなれば小一時間かかりますので省略しますね」
レナは可愛さアピールも兼ねて左目でウィンクをする。その姿に愛らしさは存在せずあるのは静かにだが着実に毒龍を侵食する魔素と恐怖であった。
毒龍は興奮するように多くの分泌液を垂れ流す。
しかし、毒龍の瞳には諦めと許しを請う潤んだ優しい目しか残っていなかった。
「そんな可哀想な顔してももう遅いですよ。私が毒龍を殺すことで勇者パーティーの面目を潰すのが私の復讐の最終段階なんですから」
レナは螺旋を地面に突きつけると再び右目の刻印を輝かす。先ほど地面に書いていた刻印も木霊して淡く輝き始める。
「私もドラゴンを倒すのは初めてなんです。なのでドラゴンという存在を徹底的に滅ぼす魔法を組み上げてきました。急遽作った魔法なので久しぶりに詠唱を使いますよ。
code:神聖魔法の応用:新規の魔法の刻印及び詠唱の補佐:execution
The ground was filled with happiness(地は幸せに満たされた)
My body is the blessed iron maiden(我が肉体は祝福された鉄の処女)
My soul is a joyous guillotine(我が魂は喜びに包まれたギロチン)
It was never allowed(ただの一度も許されず)
To you who have walked the path of a fool(愚者としての道を進んだあなたへ)
I teach eternal suffering(永遠の苦しみを教えます)」
地面に書かれた刻印は光の十字架となり毒龍の体は次第に溶け始める。毒龍はけたたましい叫び声を上げているようだったが、レナの耳には一つも聞こえなかった。
レナが新たに作り上げた魔法に名は無い。この毒龍を滅ぼすためだけに作り上げた不完全な魔法であったからだ。光の十字架に中は外界と完璧に遮断され魔素は一粒も存在しない。そのため魔素が体の根源でもあるモンスターには耐えがたい苦痛が全身に走るのだった。ましてやドラゴンのように強大なモンスターほど魔素の含有量と密度が濃い。毒龍が正気を保っていられるのが奇跡だった。
しばらくすると、光の十字架が消えるのと同時に毒龍は跡形も無く消滅する。
「やはり改良が必要ですね。魔法の威力は申し分ないのですが、使用後魔法範囲内の魔素ごと消滅してますね。今回は比較的魔素の濃度が濃い洞窟で幸いでしたが、普通のところで安易に使っては災害が起きかねませんね」
ひと段落ついたレナはこれでもかってほど大きく背伸びする。ここ数日の疲れが一気に抜けたようだった。
「あ、最後のお楽しみを忘れていた」
毒龍が消滅したことで帳としての効果が無くなった分泌液は地面に流れ落ち、レナは器用に瓶に拾い上げる。毒龍の毒といっても多種多彩な毒の複合体であり毒龍特有ではない。レナの予想通り毒耐性のある瓶で容易に採取できた。
毒龍の毒を研究するのも楽しそうだが、レナが採取した目的は研究のためじゃない。
レナはグエルたちが愛犬バードを食わされた記憶が片時たりとも忘れたことはなかった。
「まずはグエルから…」
レナは毒瓶を慎重にグエルの口元へ流し込む。瞬く間に顔が青くなり口元が血が流れてくる。生死をさまよう瀬戸際にレナは神聖魔法で少しだけ治す。完治はさせない。生きた状態で出来るだけ長く苦しんで欲しかったからだ。それで死んでしまったらそれまでの存在だったいう訳である。
グエルに続いて、ウェルナー、アシュリー、クレア、ケビンと猛毒を流し込んだが漏れなく全員が同じ反応を示してレナは非常に愉快であった。
アマリには猛毒を飲ませなかった。彼女もある意味、グエルの思惑に利用された被害者である。クレアだけにはレナも良心が痛んだのだ。
「そろそろ帰るとしますか」
この時、洞窟を背後に去るレナは知らなかった。アマリがレナの予想以上に早く目覚めることを。
えんどろーるを響かせたい!~勇者パーティーから追放されたので全力で妨害したいと思います~ マチョあまちょ @chihiro_xyiyu
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。えんどろーるを響かせたい!~勇者パーティーから追放されたので全力で妨害したいと思います~の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます