『旅の休息』

 私、相棒精霊リルの幸せ。それは一言で言ってしまうのならば、我が御主人、ティゼル様です。


 精霊である私との契約者であるところの彼女の魅力は挙げるにしても、枚挙にいとまがありません。御主人様の魅力を全て語り尽くすには、3日あっても足りない程なのです。

  "可愛い"という単語において、御主人様の右に出る者はこの世には存在しないと私は確信しています。日々の旅路で、御主人様の一挙手一投足を1つも見逃すまい というのが私の相棒精霊としての心得。旅は楽しいですが、危険でもあります。世の中には色々な人間が居て、いつどこで襲われるか分かりません。ましてや旅人で女の子のティゼル様はその筆頭でもあるのです。私が何があってもお守りしなければなりません。そう、まさしく今、この瞬間もー!


 「リル、どしたの?1人でボソボソと」

 「はぅ、やっぱりその画は和みますね〜」


 この時の私は、まるで夏の暑い日にすぐ溶けるようなアイスクリームでした。相棒として気を引き締めねばと張り切っていた矢先、御主人様の可愛い姿に空気が弛緩しかん。私は即座に溶けました。


 今現在私とティゼル様は、とある国の喫茶店にて絶賛休息中でした。国を訪れる時は必ずしも滞在と観光だけが目的ではありません。旅での疲れを癒やす為に入国する事もあるのです。


 そんな感じで私とティゼル様は国の景観がよく見えるテラス席に居ました。店員さんが運んできたティーカップに口を付けるティゼル様。彼女が飲んでいるのはコーヒーではありません。抹茶をご堪能されておりました。


 「ん〜っ!癖になる味だよ。やっぱり抹茶以外無いね」


 そう言いながら綺麗な飲み方で抹茶を飲み干していくティゼル様。私はその光景を見ながら"渋いなあ"と思いました。ティゼル様はご年齢で言えば十代後半ですが、まだまだ年頃の少女。もっと、甘い物(パフェとか)を頼んでも問題なさそうですが、本人曰く、『私にとっての甘いの最高到達点なんだよね』との事だったので良く分からんなと思いながらとりあえず"そうなんですねー"とだけ言っておきました。


 「抹茶を好きになった切っ掛けってあるんですか?」

 何気なく気になった私は、ティゼル様にそう聞いてみました。すると彼女は昔を懐かしむような目をして微笑みました。


 「昔ね、身内で好きな人が居たんだ。その人が無類の抹茶好きでね、受け売りみたいなものかな」

 そう、言いました。私は素直に良い話だなあと感じます。私はティゼル様の相棒ですが、彼女と出会ったのは2年前。当時のティゼル様がまだ旅を始めたばかりの頃に奇跡の巡り合わせが起こったのです。


 「ティゼル様が昔話をしたくなったら、また話して下さい」

 「うん、そうしようかな」


 御主人様の昔話は物凄く気になりますが、せがんで話して貰う事ではありません。気長に待ちましょう。今は、旅の休息。和やかな時間を静かに御主人様と過ごす。これも立派な相棒のつとめなのですから。


 それからの時間暫くは、国の景観を眺め、御主人様の癒し可愛い姿をたっぷりと堪能し、他愛の無い雑談に花を咲かせたりしていたのですが。


 ……1つだけ、私は心配していました。


 「あの……ティゼル様」

 「うん?どしたのリル」

 「いえ……抹茶がお好きなのは良い事ですし、素敵だと思うんですが……」

 「うんうん」

 「その……じゃありません?」


 実は私とティゼル様がゆっくりしているこの喫茶店には少し料金は掛かってしまいますが、食べ放題飲み放題サービスというものがあるんですね。

  いや、喫茶店で食べ放題飲み放題とは?といささか疑問に感じましたが、ティゼル様は飲み放題サービスを注文しやがりました。この前、臨時で収入が入ったとはいえ、調子に乗り過ぎかなと思いましたね。で、話を戻しますが、ティゼル様は好物の抹茶飲み放題サービスを堪能しまくって恐らくですが10杯以上は飲み干してました。大丈夫ですか?お腹痛くなりませんか?私は何度も心配し、忠告しました。ですが、ティゼル様の返答は毎度毎度以下の通りでした。


 「大丈夫だよリル!私抹茶は無限に飲めるの!」


 相当怪しかったですが、相棒として私はその言葉を一応信じました。


 そして、その結果。


 「ごめんリル、一旦席を外すね」

 "ガタンッ"! 座っていた椅子からすげえ勢いで立ち上がり、世界の終わりを見ているかのような青ざめた顔でそんな事を御主人様は言いました。


 「あー、はい。分かりました」


 呆れた私は棒読みになっちゃいました。

  ティゼル様、これを機に教訓として学びましょう。好きな物でも、過度は良くないと……。


『旅の休息』END

 

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