第14話 距離を縮めるのにセクハラは使うな
依頼を無事獲得した俺達はギルドから依頼の詳細を聞いた。
レイルド草5個の納品というのが明確な依頼らしい。
まだ早朝とは言え早速移動を開始する事に決め、ギルドを後にする。
「とりあえず街の外に出ないといけないのか、この街だいぶ広そうだけど歩いたら結構かかりそうだね」
俺の隣ではなく、若干斜め後ろを歩くファマに問いかける。
「あ、ゲ、転移(ゲート)が、あります、よ……」
「え? ゲート? 魔法?」
移動系の魔法かな?
「は、はい。魔法、です。使い、ますか……?」
「それは凄くありがたいな。どこまでいけるのかな?」
「い、一度、行った場所、のみです……城門までは、いけますよ……」
「ファマ、君は女神だ」
「っ! お、大袈裟、です……。でも、嬉しい、です……えへへ……」
頬を赤くして不器用に笑ったファマだが実際女神だ。
俺の脚を見て欲しい、バトル漫画に出てくる重りを付けたキャラみたいになってしまってる。俺の場合は望んでいないから足枷を付けられている囚人の気分だが。
「でも、その魔法を使ったら魔力と言うやつを使うんだよね? 大丈夫?」
「は、はい。1kmで、1、魔力を使います……」
なるほど。じゃあ、俺で計算すると0kmってことか。
ファマの魔力がどれくらいあるのかは分からないが、使ってくれるなら時間の短縮にもなってありがたい。
「無理のない範囲で使ってくれると嬉しいよ。ゲートだったっけ?」
「わ、分かりました……。そ、そ、その……手を……」
「手?」
「て、手を、握る必要が、あるんです……。い、嫌、ですよね……?」
「いやまったく?」
24歳に近づいているにも関わらず、彼女ができた事ない俺ができる精一杯の返答。そしてすまし顔。
「ふぇっ。ほ、本当ですか……?」
変な驚き方をしたファマの方に手を差し伸べる。ファマは恐る恐る手を重ねてきた。その手には一切力が入っていなかった。まさしく置くだけという感じ。なので力を入れてファマの手を離さないように握る。
「ふぇっ!」
驚いたファマ。手汗がものすごい。ちなみに半分は俺の手汗だ、安心して欲しい。
それとこんな道の中で魔法を使う訳にもいかないと思って、ファマの手を連れて路地裏へと移動する。
「わ、はわ、わわわ……」
俺に連れられるファマの手から震えが伝わってきた。
「ここで魔法を使おう」
「そ、そ、そうですね……へ、変な事、されると、思いました……」
せえへん。せえへんよ。
それができたら俺たちの握られた手から手汗は滴らなかったよ。
路地裏の奥の方へ歩き始めたファマの片手にはいつの間にか大きな杖があった。
「あ、あの……そ、その……。せ、せっかく、手を握りましたが……これだと、魔法が、使えないので……」
「ああそうなんだ。ごめんごめん」
手汗でべたべたになった手を離すと、ファマは両手で杖を持ち、前方にかざした。
「転移(ゲート)」
魔法の詠唱が完了するとそこには突然青色の光が集まってきた。
「おお!」
青い光たちは縦に長い長方形を作り出した。
「す、すみません……ここで、手を……」
次はファマが手を差し伸べてくれた。凄く恥ずかしそうにもじもじしているが、ファマから差し伸べてくれたというのは驚きだ。
もちろんそれに手を重ね、また同じように手に力を入れて握る。
「ふぇっ!」
びくっとするのは変わっていないらしい。
ちなみに俺も一緒にびくっとしているので安心して欲しい。
「いこうかファマ」
「は、はい……!」
俺達二人は青い長方形の中へと足を踏み入れた。
景色が強く光り目を一瞬瞑ってしまったが、開いた時には景色が変わっていた。同じような路地裏ではあるが、大きな外壁が顔を覗かせている。
「ほんとうに一瞬だ。凄いね」
「あ、ありがとうございます……」
ファマはそう言いながらもう片方の手に持っていた杖を、突如現れた不思議な黒い円形空間に入れた。杖が姿を消すとその空間も消滅する。
「え? 今のは?」
「イ、 倉庫(インベントリ)です」
インベントリだと? 滅茶苦茶便利じゃないか、俺の右脚についているこのセミもインベントリに入らないだろうか?
冒険者ってみんなこういう魔法を覚えているのかな?
「あれ? 魔法じゃないのかな? 詠唱が聞こえなかったような気がするけど」
「あ、い、いえ。無詠唱、です……」
「へー。なるほどね」
よく分からないや。詠唱って必要ないのか。
「列ができてるからあそこが城門かな? いこうか」
ファマの手を連れて城門前の列に加わろうと歩き出す。だけどファマが動かなかった。
「あ、あの……もう、大丈夫、ですよ……」
「え? なにが……?」
「あ、そ、その……て、手、です……」
「ああ、失礼失礼」
慌ててファマの手を離す。
「い、いえ……。い、嫌じゃなかった、ですか? そ、その手汗、とか……」
「ああ、全然大丈夫だよほら……ぺろぺろ」
繋いでいた右手の平と向き合い、ファマに見せつけるようにぺろぺろと舌を上下させる。
寄り目にして見開き、ガンギマリ状態で舐める。
「ひぃっ!」
ファマの顔が引きつった。とんでもない人間とパーティーになってしまったと絶望的な表情を見せた。こんな路地裏でそんな変態と一緒にいるとなると俺も絶望したくなるものだ。
「うそうそ。舐めてないよ」
本当に舐めるふりだ。流石に舐めるのは辞めておいた。舌だけにね。
「び、びっくり、しました……」
本当に安心したように、ファマの引きつった顔の筋肉が緩んでいく。
「こうやって仲間との距離を縮めていくんだよ。冗談も交えてね」
まあでも、ギリセクハラかな。とは言え、本当にファマとの距離は縮めていきたい所だ。これから命を預け合う仲間となる訳だし。命を預けるというのは信頼が凄く必要だ。その点でコミュニケーションや信頼というのは大事で、逆にそこが全てになると思っている。
つまり、コミュニケーションができないというのは、パーティーの全滅に直結すると言っても過言ではないという事だ。
「そ、そうなんですね。そ、そういう事を、考えてるの、す、凄いと、思います……」
「そうかな?」
「は、はい……! わ、私は、ずっと怖くて、逃げてしまっている、ので……」
俺の脚にしがみついてきた時点で逃げている訳ではないと思うけども。
それにどうやら褒めてくれているようだ。
「えへへ……へへっ!」
照れ笑いを返してみた。大袈裟に。
「ひぃっ」
ステップを踏んだ照れ笑いをしてみたけど引かれてしまった。難しいものだ。
まあ確かに、無理やり口角を上げたせいでちょっと怖くて気持ち悪い笑顔になってしまった。
「俺もずっと人見知りだったからね。ファマの気持ちは分かるよ」
「そ、そんな気が、しました……」
そこは否定して。
「え? そうだったんですか?!」という反応を想定してたから。
「ど、どうしたら、直りますか……?」
上目遣いで問われては真剣に考えるしかない。いや、目見えないけど。そして、こう問われて初めて考える。
確かに人と接するのはずっと避けてきたけど社会人になってあんまり気にしなくなった気がする。そういった意味では自然に解決するという事なのかもしれない。
学生時代の頃は自分の席という狭い環境に閉じこもって、他人と関わらず生きていたから一人でいる事の不安とか怖さというのはあったし、ファマもきっとそうなんだろう。
なんであの時の俺は他人と関わろうとしなかったんだろうな。人といる事が嫌とか苦手とか? じゃあなんで俺がこうしてファマと仲間になろうとしたんだ?
こうやって考えていると、必然的に、直感的に一つの答えに辿り着いた。
それは、学生の頃に俺の周りに面白い人間が誰もいなかったからだ。入学当初やクラス替えをしたら必死に探していたような記憶がある。きっと周りに面白い人がいたら是が非でも関わりに行った気がする。
少し自分が怖く感じるけど、面白くない人なんてどうでも良いって思ってしまってるのかもしれない。だからと言って蔑(ないがし)ろにするつもりは一切ないが。
「ん~。正直人見知りは今でも直ってないかな。そもそも俺って人見知りとは少し違うのかも……?」
「そ、そうなんですね……」
明らかな落胆を見せたファマ。それほど彼女の中では人見知りというのがかなりのコンプレックスになってしまっているようだ。
「でも一緒に冒険するんだ。ファマの人見知りを直せたら良いなって思ってるよ」
「あ、ありがとうございます……!」
「いこうか」
格好つけたものはいいもの解決方法なんて何も分からないなと思いながら、俺とファマは城門を目指し歩き始めた。
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