第39話

「あなた方が、ケルビンを倒した人間たちですね!! 許しませんよ!!」


 女は非難するような口調でそう言ってきた。

 人間か? いや、耳がとんがっているし、魔物か? そういう人間がいても、不思議ではないとは思うが、状況的に魔物である可能性が高い。


「わたくしたちではありませんわ。人違いですわね」

「先ほど戦闘があったのは確かですね。おそらく戦っていたのはエミルさんかと」


 アリアとシャープがそう言った。

 確かにさっき戦闘があったみたいだが、エミルだったのか。彼女が魔物を倒したのか?


「ケルビンを倒したのはあなたたちではないにしろ、仲間であることは理解しました! でしたら討伐させていただきます!」


 こぶしを打ち付けながら、女の魔物はそういった。


「私は『不屈』ライラ! 覚悟してください!!」


 名乗りを上げた後、アリアに向かって殴りかかる。

 アリアはこぶしを素手で受け止めた。


「なかなか良い拳ですが、わたくしの敵ではありませんわね」

「な……」


 あまりにもあっさり受け止められて、ライラは驚愕する。

 手を外そうとしているようだが、アリアの力が強すぎて外せないようだ。


「ぐぐぐぅう……」


 苦しむライラ。

 アリアは足を振りかぶり、思い切りライラを蹴った。


「あがっ!!!!」

 ものすごいスピードでライラは吹き飛び、遠くに消えていった。

 そういえば、冒険者のアリアは魔法がほとんど使えない代わりに、接近戦では最強として有名だったな。


「死にましたかね?」

「さあ。まあ、どっちでもいいですわ」


 ライラは見えないところまで吹き飛んだので、生死は不明である。

 無事ではないだろうな。


 ……つい様子見してしまったが、連中の視線がライラが吹き飛んだ方向に向いている。

 このままだと同行する羽目になりそうだ。今のうちに逃げよう。


 俺はシーラを連れて、その場から離れた。



 数分移動して距離を取った。追ってきている感じはない。

 何とか撒けたようだ。


 しかし、結構な数の冒険者が来ているようだな。

 この姿で戦うと、いろんな奴らに目撃されて面倒なことになりそうだ。

 俺は仮面を持ってきたので、それを被った。

 いつも街中で戦ったりするときは、これを被っている。


「お兄ちゃんなにそれ~変なの~」


 シーラが笑っている。この仮面そんなに変か!?

 少なくとも今までそんな指摘を受けたことはない。狼なのでかっこいいと思うのだが……


 ま、まあ、シーラは感性が独特だしな。

 そういえば、シーラは冒険者たちに見られてしまっていたな。

 一緒にいたら正体がバレるかもしれない。

 彼女は創造の力で、仮面を作ったり着ぐるみを作ったり変装は自由に出来るだろう。


「シーラ、ちょっと姿を変えられるか?」

「なんでー?」

「なるべく正体を隠したいんだ」

「ん?? まあ、お兄ちゃんが言うなら、言うとおりにする!」


 よく分かっていないようだが、姿を変えるというのには納得したようだ。


「えい!」


 シーラの体が黒い靄で覆われる。

 靄が晴れると、大人の女性が現れた。

 シーラと同じく黒髪。服のデザインも同じだが、20歳くらい成長している。

 出るとこと出ていて、顔も整っていて物凄い美人である。


「言うとおりしたよ!」


 大人の声で無邪気にそう言ってきた。

 こ、これシーラなのか。

 変装用の衣装とか何かで姿を変えると思ったが、まさかそんな方法で来るとは。

 魔物なのでそういうことも出来るだろうから、おかしなことではないが……


「お兄ちゃん、次はどこ行くの~」


 と無邪気にシーラは俺の腕をつかんできた。

 胸が肘に当たり、柔らかい感触が伝わってくる。


「お、おい……」

「どうしたの?」

「い、いや……なんでもない」


 中身は子供っぽいままなので、胸を当てることの意味を全く理解していないようだった。

 離れろというのも突き放すようで心苦しいし、そのまま歩くことにした。

 ちなみに胸の感触を味わいたいとか、そういう理由ではない。決して。

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