第38話

「おー、やってるみたいだね」


 ハーナはグラス島を探索しながらそう呟いた。

 目で見たわけではないが、どこかでエミルと魔物が戦っているのを感知していた。


(エミルちゃんが戦ってる魔物は、あんまり強くないみたいだね。あれがSSランクってことはないだろうし、手下をゴロゴロ連れてきてるっぽいね。めんどくさいなぁー)


 軽くあくびをしながら、ハーナはそんなことを考えていた。


「ん?」


 前方から何者かが歩いてきた。

 人間かと一瞬思ったが、姿が見えた瞬間、違うと一瞬で悟る。

 腕が六本あったからだ。間違いなく魔物である。


「そこの人間。ケルビンを殺ったのはお前かぁ?」

「別の奴だね」


 ハーナは魔物と対峙しているのにも関わらず、臨戦体制を取らず、いつも通りの様子でそう返答した。


「そうかぁ。じゃ、てめぇにゃようはねぇか」

「待ちな。探し出してどうする気だい?」

「ん? そりゃ八つ裂きにすんに決まってんだろ」


「そうか。めんどいけど、だったらアンタを生かせるわけにはいかないねぇ。これでも冒険者なんでね」


 ハーナの言葉を聞いて、魔物はニヤリと笑みを浮かべる。


「止めるってんなら、てめぇも八つ裂きにするが良いか?」

「出来るもんならね」

「フハハ!! その言葉後悔すんなよ!!」


 魔物は大声で笑った。

 気づいたら魔物の六つある手は、刀を握っていた。最初は持っていなかったが、魔法で出したのだろう。

 その刀を振りかぶり、ハーナに襲い掛かる。


「やれやれ」


 ハーナは指をパチンと鳴らす。

 すると、地面に魔法陣が出現。

 ゆっくりと、真っ黒い巨大な鎌が地面から出てきた。


 それを手に取る。


 迫り来る刀を巨大な鎌一つで受け止めた。

 金属音が鳴り響く。


「闇弾(ダークバレット)」


 ハーナは手を銃のような形にして、魔法を使用。指先から、真っ黒い銃弾が放たれ、魔物の頭に当たる。


「ぐっ!」


 魔物はダメージを受けてよろめく。体勢を立て直した後、慌てて後ろに下がり距離を取った。


「やるじゃねぇか。本当にケルビンを殺したのはてめぇじゃねぇのか?」

「覚えがないね」

「どうだかなぁああ!」


 魔物は雄叫びをあげる。

 ハーナの実力を知り、本気を出すため力を解放していた。


「俺は六刀、ギルグゥ様だぁ! てめぇを斬り殺ぉす!!」

「アンタ中々強いみたいだね」


 強力な力を前にしてもなお、ハーナは冷静だった。


「でも、相手が悪かったね」


 ハーナは鎌に魔力を込める。

 目にも止まらぬスピードで、鎌を何度も振った。

 無数の斬撃が、ギルグゥに襲い掛かる。


「……は?」


 ギルグゥは何も分かっていなさそうな様子で声を漏らした。

 次の瞬間、ギルグゥの体が粉々に切り刻まれ、肉片がポトポトと地面に落ちていった。


「さて、ほか探すか」


 相変わらずマイペースな表情で、ハーナは探索を再開した。


 ○


 俺は島の海で釣りをしていた。

 珍しい魚がどんどん釣れる。


 ただ、味はあんまり良くなかった。

 青色で綺麗な魚を釣り上げて、食べてみたのだが、肉が少なすぎて、ほとんど骨だったのであんまり美味しくなかった。


 調理法次第では、美味しく食べられるかもしれない。

 いくら綺麗でも美味しくないなら、微妙に釣るモチベーション落ちる。


 ほかのところで釣りをしてみようと、一旦海で釣りするのもやめた。


 池があったのでそこで釣りをするため移動する。


 その途中。


「どこにいるか分かりましたか?」

「少々お待ちを……」


 何やらボソボソ言っている集団に出くわした。


 女王みたい見た目の女と、その他、地味な見た目の男女数人である。

 この女王みたいな見た目の女は見覚えがあった。

 確か冒険者である。ランクは確か2位だったはずだ。


 名前はアリアと言ったか。


 俺がレベル9999になる前から、冒険者として有名だったので知っていた。


 それなりに歳がいってるはずだが、見た目は若い。


 相当若作りしてるな。


 流石にSSランクの魔物が出たとなれば、アリアレベルの冒険者が動くことにはなるか。


「……ん?」


 アリアは俺に気づいた。


「あなた冒険者ですか?」

「違うが」

「……そうですか? どこかで見たような気が」


 アリアは近づいて来て、俺の顔をじっと見てきた。

 あったことは……ないはずだが、ないとも言い切れない。


 レベル9999になる前は魔王討伐しようとしていたが、冒険者にはなっていなかった。

 魔王討伐部隊を国が作っていたので、俺はそれに所属していた。

 基本は魔王配下の魔物を倒すしていくのが、仕事でほかの魔物は対峙しにはいかない。


 冒険者も魔王配下の魔物を倒しには来るので、そこで共闘していても不思議ではない。

 アリアは見た目が個性的なので、一緒に戦ったのなら覚えているだろう。記憶がないという事は、戦っていないはずだが……

 当時はもっと地味な格好だったかもしれないし、分からないな。


「勘違いだったかもしれませんわね。ここは危険なので民間人は今すぐ逃げてください」


 勘違いだったようだ。やっぱり会った事はないと思う。

 こいつらと一緒にいく必要はないし、言う通り逃げようとすると、


「待ってください。民間人の単独行動は非常に危険です。ここは一緒に来てもらったほうが逆に安全です」


 とメガネ男が余計なことを言った。

 こいつもどっかで見た気がするが、名前が思い出せない。


「シャープさんのいう事は一理ありますが、足手纏いを連れて戦えるほど余裕はないと思いますわ」

「しかし、民間人を見捨てるわけにはいきません。子供いますし」


 シーラを見ながらそう言った。シャープと呼ばれた冒険者は中々真面目で正義感の高い性格のようだ。

 ちなみに今のシーラは魔力を完全に隠している。見た目は元々幼女なので、魔物には見えないだろう。


「冒険者じゃないが腕には覚えはある。魔物に襲われてもガキを連れて逃げるくらいは出来るさ」


 同行するのは面倒なので俺はそう言った。


「この島にいるのはただの魔物ではありません。SSランクの魔物です。逃げることもできないでしょう。腕に覚えがあるなら、足手まといにはならないでしょうし、同行してもらったほうがいいです」

「……そうですわね。あなた一緒に来てくださいませ」

「いやだから……」


 何か同行する流れになりそうだ。

 どうする? いっそ逃げるか?


「発見!!」


 考えていると突然、女の叫び声が聞こえてきた。

 声が聞こえた方を見ると、武闘家のような格好の女が、仁王立ちしていた。

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