7. お前ら本気で言ってんの?

再びレイが消え入りそうな声で言った。

「けど、それが上部に知られてしまったの」


レイの一言で、なんか空気、ズシッと重くなった気がした。


「知られた?」

「多分だけど、ボクらがここに来たために、歴史上にパラドックスが生じて、ばれちゃったんだ」

「歴史が変わった? 何がどういうふうに」


「さぁ? でも、追っ手が来た。あんたがここにいるのはそういう事」

「それだよ! そんな学校好きがどうしてオレになるんだよ」


 後から続きそうな二人の文句を適当に制してオレはたずねた。

 レイはタクトと顔を見合わせた。それから、二人同時にうなずいてオレの方を見る。

「な、なんだよ」

 何か仕掛けてきそうな仕草に、思わず身構えた。


「時間移動者は、許可がない限り、その時間から動いちゃいけないんだ。様々なパラドックスが生じるからね」

「ぱ、ぱらどっくす?」

「矛盾のこと」

 レイが答える。


「例えば、キミが今、テーブルにあったチョコを食べたとするよね?」

「甘いもんは好きじゃねーけど、まぁいいや。で?」

「そこは、チョコでも肉でも何でもいいんだけど……食べた後に時間移動者が、キミがチョコを食べる寸前の時間に戻って、先にチョコを隠したらどうなる?」


 待てよ、わけがわからなくなってきた。とりあえず、オレの食う前の時間にチョコが消えるってことは……。

「……オレは、チョコを食えなくなる、か?」

「でも、実際は一度食べたんだから、チョコを食べたキミもどこかにいないとおかしいよね?」


 ……あ、そうなるのか?


「じゃあ、ゲームのセーブをしたとして」

「うん」

「セーブ前に戻った時間移動者が、電源コードを抜いちゃったら?」

「……え、データ飛ぶだろ。やり直しじゃん」

「でも、キミの中では、セーブした記憶はあるよね?」

「あ……」

「なのに、データは残ってない。そういう矛盾。それがパラドックスだよ」


 一回セーブしてはいるけど、セーブしなかった事になるなら、セーブした記憶そのものはどこにいくんだ? ……なんかずるくね?

 頭を抱えて考え込むオレに、タクトは言った。

「セーブした記憶は残ってるけど、事実がなくなる。キミがセーブしたことを誰も信じないだろうね」


 セーブ完了のメッセージを見て記憶に残ってても、最初からないことになって、思い違いとして流されちまう、ってことかよ。

 これまでの勘違いにも、そんなものが紛れてんじゃ、なんてつい想像して、首筋の辺りが寒くなった。


「じゃあ、もしそんな現象が、歴史に関わるようなものを巻込んじゃったらどうなると思う?」

 そっか、セーブしても、セーブができなかった事にされちまうんだから。同じように……。

「歴史も、変わっちまうんだ」

「そう。生まれるはずの人が生まれなかった事になったり、本来は存在しない事件が起きたり。でもそれが本当の歴史とズレてるかどうかなんて、普通の人には測れない。

 そんなパラドックスを防ぐために、時間移動者は、無許可で力を使うことを禁じられているんだ」


「仮に、その力とやらを使っちまったら?」

「移動者がどの時代に行ったのか居所を突き止めて、歴史に影響がなければ連れ戻すし、歴史を変えてしまった後なら……」

 タクトはそこで口を閉じた。レイに訊こうとそっちを向いたら、目を伏せられちまった。

 しばらくして、タクトは口を開いた。

「……それまでの記憶を、消されるんだ」

 

 ホント、毎回理解が追いつかないの、何なんだ。

 記憶、消される? 


 自分が誰だかわからない。考えただけで、背中が薄ら寒くなる。

 消すって、何されんだ。脳みそを直接突つかれてる感じがして、思わず頭に手が伸びた。

 

「消されるって、どうして?」

「歴史って、人の行動を集めて編み上げられた網みたいなものなんだ。移動者は、時間の中で何かと接触すれば、簡単にその歴史に組み込まれてしまうのさ。

 一度編み込まれた糸は互いがしっかりしていて容易に取れない。下手に引っ張ればそこに穴があいて、それ以降の歴史が本来のものと全く別物になる……だから、一度歴史に組み込まれてしまった時間移動者は

——その時代の住人として生きていかなきゃならないんだ

その際に僕らの時代の記憶があるとなにかと不便だから、記憶操作者がその時代に合った記憶を作って書き換えるわけ」


 タクトは暗唱みたいに一気に言った。

 レイが、タクトの袖を引っ張って止めてなきゃ、まだ続いてた。


 わかったような、わからないような。……オレの理解力の問題か、これ。


「タクト、ギブ。もう少し簡単に、ゆっくり頼む」

 メモ。ラスボス攻略なんか目じゃない複雑っぷり。


ーーー

パラドクス攻略

基本

 ゲームをセーブ

 →セーブ前の時間で電源引っこ抜く

 →データ飛ぶ でもオレにはセーブした記憶が残る。 


応用編

 1時間移動者(ショースケ)がモブAに干渉する。→歴史ちょっと変わる 歴史Aになる

 2歴史A←モブA←ショースケいなくなると、バランス壊れる

 3ショースケが歴史Aから出ていかないように調整

ーーー


 で、ショースケは、時代に合った記憶に書き換えられた上に過去記憶消滅? 

 ……エグっ。 

 ってか、チート能力、普通に活用されてんのかよ。……今の時代で良かった。


「要するに、一度この時代に関わっちゃった人は、その時代で普通に暮らしてる人として生きていくしかない、ってことだよ」

「最初っからそう言えよ」


 ……が、何か腑に落ちねぇ。

「そこはわかった。……でも、そうじゃなくて」

 記憶操作ってのが本当にできるんだとしたら、わざわざこっちの時代に合わせて記憶を作るなんて面倒な事しなくても、接触したモブAの記憶を消せば済むことなんじゃねーか? 


 映画でよくあるじゃん。「お前には忘れてもらう」、って。


 オレが渋った顔でそれを訊いたら、タクトはまた、得意げに話し始めた。


「その方が簡単なのは確かなんだけど、人のいた痕跡って、必ずどこかに残っちゃうものなんだよ。

 人の記憶部を消すことはできる。だけど、いくら記憶操作能力者でも、その人の深層心理に入り込んだイメージまでは操作できない。

 その時代から存在を『消す』よりも、周りに同化させて『隠す』方が確実にうまくいくんだ。記憶を消された能力者にとっても、現地で接触した人にとっても、ね」


 ……こいつ、絶対わかりやすく話す気、ねーだろ。むしろわかりづらくして誤魔化そうとしてんじゃ。


同化攻略

ーーー

モブA←モブAにあるショースケの記憶消す← モブAの深層心理でショースケが残って不都合←痕跡消せねー

 こういう事?


 同化させて、隠す。 


 それが本当にできるとしたら。元のショースケの記憶は潰されて、モブAもショースケも、違和感が出ないように、勝手に記憶を弄られて、何も知らずに生活してる……。

 

 ……嫌な予感がした。心臓うるせぇ。落ち着け。


「それって、作り替えられた奴は何も覚えてないわけ?」

「……そうみたいだね」

 タクトは苦笑いでこっちを見る。


 ……なんでオレを確認するんだよ。


 それに……。

 どうしてお前ら、そんな落ち着いていられるんだよ? 

 記憶がすげ替えられる? ……ふざけんな!

 オレは、最初からオレ、だよな?


「とにかくショウは、追っ手に見つかって、記憶を……消された」

 ……後ろになるに連れて小さくなっていくタクトの声を聞いていて、オレはふと気になった。こいつらの話が、オレをかつぐためじゃなく、もしも本当だとしたら。

「おまえら、自分たちがどうなるか知ってんのか?」

「……さぁね。……ショースケみたいに消されるかもだし、連れ戻されるかも……そこは、あまり考えたくない」

 沈んだ声で、タクトが言う。

「それでいいのかよ?」

「わたしはゼロ行き、決まってたし」

 良くはねぇ。……けど呑み込むしかねぇ。そんな納得のいっていない顔だった。

「もう、捕まるのが早いか遅いか、……それだけかもしれない」


「なら、もう一人のショースケと会って、また別の時間に逃げるってダメなのか?」

「それは、もう無理」

「どうして?」

 レイは、オレの顔をじっと見つめてから答えた。

「……あなたがいるから」

「オレがいるから?」

 ……またそれか。

「……こっちの時間のショウが、すでに以前の記憶を消されているからさ」

 見兼ねたようにタクトが口を挟んだ。

 これ以上、聞きたくねぇ。けど……。

「はっきり言えよ」

「仮にショウの記憶が消されずに済んだら……キミは最初からこの世界にいなかったことになっちゃうんだよ?」


 ショースケの記憶の書き換えがなければ、オレは最初からいなかった。


 死ぬことなんかよりゾッとした。

 普通に死ぬなら、思い出してもらえる。誰かがオレを知っている。

 でも、こっちは、存在そのものがない。


 ……なんとなくあった嫌な予感は、これか。


___________


ここまで読んで下さった方、

読むのに時間使ってくれてありがとうございます。

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貴方の声で、ストーリーが変わることもあるかもしれません。

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