ダンジョン都市と孤独な訓練






 俺が暮らす《ラグナ=ベルト》は、大陸最大のダンジョン都市だ。

 都市の中心には、果てを知らぬほど深く穿たれた大穴――《大迷宮アトラ》が口を開けている。


 百年以上前、突如として大地が崩れ落ち、その底から無尽蔵の魔物と鉱石が湧き出した。

 国は迷宮を封じるよりも「利用する」道を選び、周囲に城壁を築き、冒険者ギルドを置いた。

 それがいま、数十万の人々が暮らすこの都市の成り立ちだ。


 迷宮に潜り、魔物を狩り、資源を持ち帰る者は英雄と呼ばれる。

 そして英雄の卵たちは、冒険者育成学院へ入学し、それぞれの【職業】に目覚めてゆく。


 俺もまた、その一人だった。


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 学院時代、特に記憶に残る名前が三つある。


 一人は、**レオン・ヴァルディス**。

 火力特化のソードマスターで、剣を振るうたびに火炎が迸る“紅蓮剣”の異名を持つ。

 生まれながらの才能に加え、華やかな容姿とカリスマ性を兼ね備え、同級生の中心人物だった。


 二人目は、**セリナ・クローディア**。

 氷と雷を自在に操るメイジで、その魔力総量は学院歴代でも指折りと評された天才。

 常に冷静沈着で、レオンと共に学院最強のパーティを組み、多くの戦果を挙げていた。


 三人目は、**ガイル・ドーラン**。

 盾と鎧に身を固めたガーディアンで、攻撃を一切通さない“鉄壁”として知られていた。

 仲間を守ることを至上とする彼の戦い方は、学院の誰もが称賛した。


 ……そして俺、**カイル・アルディン**。

 回避特化のスカウト。

 攻撃は貧弱、防御力も皆無。

 誰かの陰に隠れることすら許されない「最弱」の立場だった。


 彼らが仲間に囲まれて大歓声を浴びるのを横目に、俺は一人、黙々と木人を相手に身を翻していた。


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 夜、灯りの少ない路地裏で、俺はひたすらに体を動かす。

 飛び込む、転がる、壁を蹴って跳ぶ。

 影と一体になるように息を潜め、迫る刃を想定して身を捻る。


 回避に振り切ったステータスは、鍛錬しなければ無駄同然だ。

 だが逆に言えば、鍛え抜けば誰よりも軽やかに、誰よりも速く動ける。


 ただの努力では埋まらない差があることは理解している。

 レオンの炎の剣に、俺の細腕は太刀打ちできない。

 セリナの大魔法を、俺一人で受け止めることなど不可能だ。

 ガイルの鋼鉄の壁を砕く力など、俺にはない。


 だが、それでも――


「当たらなければ……俺は生き残れる」


 いつか、その事実だけが俺を証明する。

 その未来を信じ、今日も汗で濡れた石畳の上に倒れ込みながら、俺は呼吸を整えた。


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 羨望と嫉妬、そして劣等感。

 それらが胸の奥に、ずっと澱のように積もっている。


 けれど同時に、心のどこかで炎が燻っていた。


 俺を“役立たず”と笑った教官、仲間に誘わず去っていった同級生たち、

 何より、自分を弱いと認めたくない俺自身に――負けたくなかった。


 強さとは何か。

 火力か、防御か、それとも……生き残り続けることか。


 答えはまだ出ない。

 だが俺は、迷宮の奥で探し続ける。


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『回避型特化』ですが、Sランクダンジョンを攻略します〜 @ikkyu33

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