復讐の熱冷めました
@ikiritatuken10
プロローグ 燃え上がる灯火、消えゆく熱
俺、ユージ・アラストルは表半球に位置する最大の大陸、ユグリス大陸その最東端に存在する村に生きていた。
年齢は5歳、農家の父と母の元へ生まれた平凡な子供。決して裕福な暮らしではないが、不幸でもない。そんな日々を過ごしていた。
今日も今日とて親父の畑作業を地べたに座り込みながら見届けていた。俺は成長すれば畑作業を手伝うことになりそのまま農家の仕事を継ぐだろう。
「お前、こんなのみて楽しいのかよ」
俺の横に金髪のショートヘアの子が座り込んできた。名はエマ・ネメシス、俺と同じくチンケな村の農民から生まれた平凡な女の子。一つ違うのは俺と違って容姿と愛嬌がいいと言うことだ。それだけで俺と比べれば彼女が立派であると分かるだろう。村では大人たちにサイコーケッサクなんて言われてる。
「楽しいとかそういうのじゃないんだよ」
俺は目を細めそう気だるげそうに答えた。ぶっちゃけた話、地べたに座り込んでる同い年に構ってくれる聖人に対して冷たい対応だ。
それでもエマは「他の奴らはつまんねーんだよ」と俺に構ってくれた。俺と話す方がつまらんだろというツッコミは置いといて
「いつか俺も畑仕事をやらなくちゃいけないんだ」
と呟いた。正直やりたくない。だって早起きしなきゃいけない、天候に気をつけなきゃいけない、作物を狙う野ウサギに気をつけなければいけない、水と肥料を適量に与えなければならない、形が歪だと売り物にならない。なんだこれ、誰が好き好んでやってるのだろう?
幼きながらも俺は確定した運命を嘆いた。ただ一つの利点はがっこう、というものに通わなくていいことだ。
どうやら街の奴らはがっこうという面倒くさいものに通ってるらしい。それをキッカケに色々学び、最終的にやりたい職に付くのが基本らしい。
アホらしいなと常々思う。
「アタシは応援してやるよ」
なんてくだらないことを考えていたらエマが俺にそう微笑んでくれた。こんなちんけな村に生まれた最大の利点がエマと言っても過言ではないくらい、可愛い笑顔だ。
この整った顔を利用して権力者と結ばせようとしてる村の連中が気色悪くて仕方がない。
と言ってもこの村は王都から派遣された警護隊が撤退してしまったのだ。どうやらワザワザ警護隊を割く利点がこの村には無いらしい。詳しい理由は知らん。
まぁこの近辺は魔物も少ないしそういうことなのだろう。それを危惧した村長が警護隊を派遣してもらう為に権力者とエマを結ばせようと策を巡らせているというわけだ。
─警護隊が消えたなら、せめてこの村を守ろうと誰かが剣を持てばいい話なのに。
けどそんな村でも俺が過ごしてる村だ。このまま平和が続けばいいなんて思ってるよ。別に村の連中を心底嫌いって訳ではないしね。
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何故それは甘い理想だということに気づかなかったのだろう。いや、気づくわけが無い、5年という月日しか生きていない俺の視野は狭くて、想定外なんてものを考える余裕がないから。
それは唐突に、なんの前触れもなく起きたことだった。
ある晩、魔族を名乗る者達がこの村を焼き払った。警護隊もいなければ冒険職に就いてるやつもいない。
この村の抵抗などほぼ無抵抗に等しい。妬ましく響たる悲鳴が怖かった。
俺は畑の土を掘り身を潜めていた。土の冷たい感触がひたすら俺の肌を撫でていた。
暗い土の中で俺は涙を流していた。それは家族を無残に殺された悲しみか、自分が死ぬかもという恐怖か。何よりも5歳という年齢では噛み砕けない程の感情の渦が俺を支配していた。
俺はそっと土の中から殺戮を覗いていた。小さい村だほぼ全員が顔見知りと言っていいだろう。
毎日作りすぎたとご飯を分けてくれる婆さん、父の仕事を眺めている時に昔話を聞かせてくれたおじいさん。外の世界を教えてくれたお兄さん、─そして、エマ。
魔族の中で印象に残ったのはグルグルの角が生えているやつだ、覚えたコイツだけは、俺の双眸がしっかりと捉えていた。────気持ち悪い、
───気持ち悪い。
─気持ち悪い
─気持ち悪い、気持ち悪い、気持ち悪い、気持ち悪い、なんでなんでなんで、
俺は胃が空になるまで土の中で吐き続けた。
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それから一晩で俺の村は灰になった。夜が明け、目を覚ました俺は土を掘り返し外へと出る。早朝に目が覚めたのか、外は暗い。
俺は村をトボトボと歩いた。絶叫した顔で死んだ両親と思われし死体を確認した。暗く、黒焦げになっている死体など誰が誰かと認識するのは難しいだろう。
それでも俺は識別した。確信に近かった。目立った装飾品をつけていた訳でもないが、本能が魂がこれは両親だと叫ぶように俺に訴えかけてきたのだ。
徐々に現実味を帯びてきた。悲しいという感情は冷めきった。そして新たな感情、怒り。俺は再び涙を流した。
今回はわかる。怒りによるものだ。全ての意識がもう復讐に移っていた。俺は叫んだ。こうも理不尽に全てを奪い去る。果たして奴らに人の心はあるのか、否、無いから出来るのだ。
俺は村を飛び出した。幸いにもこの村の近辺は魔物が少ない。生き方を学べ、どっかの冒険者に拾われて、そこで修行を積む。俺の理想だ。
冒険者とは街の人の依頼を解決したり魔物を討伐したりする職業。誰にでもなることが出来る。女子供関係なくなれる職業。各地を転々とする冒険者もいるらしく。俺の復讐を遂げるにあたって1番やりやすい職業だとこの時から確信していた。
冒険者というものを教えてくれた村のお兄ちゃんには感謝しかない。
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そこから何十年とただ復讐の為に生きた。冒険者に拾われるまでの3日間、川の水を飲みながらなんとか生を繋いでいた。
俺の生きる原動力は復讐、冒険者に拾われてからは俺は頭を下げ弟子入りした。愛嬌よくと言っていたが正直笑ってられる余裕など当時の俺にはなかった。
俺は強くなるために色々教わった、剣、魔法、体づくりまでしっかりと面倒を見てくれた。初めて魔物を討伐した時は嬉しかった。強くなっていると実感出来て復讐に近づいていると、そう思えて、そこからは師匠達の戦いを見たり、修行したり、魔物を倒したりの繰り返しだった。
ある時、俺を拾ってくれた冒険者、もとい師匠だ。学校に行くか?と聞かれた。正直行ってる暇なんてないと言おうとしたが、どうやら魔法や剣術のみ学ぶ冒険職に就きたい人のみが行く、専門学校があるらしい。
復讐を結構に必要なのは圧倒的力だ。勿論俺はそこで上位の成績を修めた。上位と言っても2番目だ。え?てっぺんじゃねぇのかよって?
ふざけた話だが俺の剣技が全く通用せず、指を弾くだけで空気弾を飛ばせる化物がいた。魔法に関しても、本来魔法は放つ前に詠唱を挟む。それを無詠唱で出来たりとか。
腹が立った。またしてもこんな理不尽に俺は負けたのだ。そいつはマサトとか変な名前してた。覚えた。次あった時は絶対に勝つ。
そうして学校を出た年齢は15歳、怒り沸騰厨だ、師匠に何度も怒られた。振り回されるなと、ここまで育ててくれた師匠だが、俺は離れた。今思えば、とんでもないことをしている。親不孝者といえるだろう。だがあの時はしっかりとこう考えていた。─この人たちといては復讐出来ない。
殺してやる、殺してやる、殺してやる。
鮮明で美しいとまで言える純粋な殺意が俺を支配する。殺す殺す確実に、強くなった今ならその臓物までもを引きちぎれるだろう。殺す殺す殺す。
まずは情報を集めようとした、文献を漁った。人と出会った、剣の腕を磨いた、魔法を研ぎ澄ませた。何年も時間をかけた、ゆっくり、それでも強く。強く、強く───────────────
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冷めていた。びっくりするぐらいに冷めていた。潮が満ちては引くように、燃え上がった復讐の熱はいつしか終わりを迎えていた。齢25にして俺はユグリス大陸最西端のはじまりの村というちんけな村の宿に住み着いていた。
なにか以前の村から逃げるように端から端まで移動していた。
いつから冷めたのだろう。思い返してもいつ冷めたのか分からない。長生きしたわけでも無いだろう、なんでなんで、──農家の父のせいで早起きの癖が付いてしまった。
貧弱な朝日に照らされた俺は深く考え再びベットにくるまったのだった。
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