第1章 第9話:異能対決 ― 理と力の激突


 「……ですが、あなたでは――私に勝てませんよ」


 静かに語ったその声に、訓練生の一人が叫んだ。


 「バカな!ここにいるのは十大マスター、ゴウマさんだぞ!」


 訓練場に緊張が走る中、グリエドはただ淡々と答えた。


 「……そうですか」



 そして――指先が、わずかに動いた。


 シュッ……!


 何もなかった空間に、一振りの剣が出現。


 即座に、それを投げる。


 空を裂く音とともに、次々と湧き出る剣。

 右手から、左手から、無尽蔵に現れ、次々に放たれる。


 それはまるで、“欲望がそのまま刃と化して飛んでくる”ようだった。


 ■ ゴウマの静寂

 一方、フィストマスター・ゴウマは、無数の剣をただ粉砕していく。


 拳をわずかに振り、飛来する剣を壊す。砕く。打ち払う。


 「……それが、お前の戦い方か」


 低く、静かに問うゴウマ。


 グリエドは口元に笑みを浮かべる。


 「いえいえ。これは――準備運動ですよ」


 ■ 欲の大質量

 グリエドが、指を鳴らした。


 ズズゥゥン……ッ!


 空間がねじれ、軋むような音を立て――


 そこに、現れた。


 錆びついた廃工場の鉄骨構造。


 高さ10メートル、重量数十トン。

 明らかに、“この場所に存在するはずのない異物”。


 それが、ゴウマの頭上へとゆっくりと傾く。


 「これは“廃棄物”です。所有者不在。問題ありませんよね?」


 無表情に言いながら、グリエドは指先を下ろす。


 そして、鉄塊が――落ちる。


 ■ 拳、咆哮す

 「……ふッ」


 ゴウマの喉から、低く、地を揺らすような音が漏れた瞬間――


 ガァァン!!


 拳が、鉄塊を砕いた。


 粉々に砕け散る鉄骨。


 爆音。金属の残骸が四散し、地を揺らす。


 その中心で、ゴウマの拳は赤く染まっていた。


 「……くっ……!」


 それは――“力”で押し切った代償。

 裂けた皮膚から血が滴る。


 ■ 異能の真実

 グリエドは、悠然と歩き出す。


 「私の異能は――欲望具現デザイア・マテリアル


 「“欲しい”と思えば、それを現実世界から引き寄せ、具現化できるのです」


 「ただし――他人の“所有物”は引き寄せられません。

 それは叶わぬ夢。“実現しない欲望”ですから」


 そして、静かに笑みを浮かべた。


 「理論上、火山だって投げられますよ。

 ……無人島の噴火口を“所有していない”限りは、ね」


 ■ ゴウマの応答

 拳を軽く振り、地面に血を散らす。


 「……なるほど。理屈はわかった」


 その眼差しは鋼のように鋭く、静かに語る。


 「だが――“ないもの”は、奪えないんだろ?」


 グリエドの目が、一瞬だけ揺らいだ。


 「お前の“欲”は、すでに存在しているものにしか届かない」


 「お前の中に、“本当に欲しいもの”は……何一つ、ない」


 「空っぽの欲望じゃ、俺には、いや、、ここにいる者たちには強い心を持っている。よって、、ここにいる者たちにはお前の魂は届かん。」


 異能の核心を突く言葉。


 しばしの沈黙――

 やがて、グリエドは皮肉げに笑い、肩をすくめる。


 「……鋭いですね。ええ、その通り。“存在しないもの”は、欲しがれません」


 「人間の欲は、常に――現実の延長にすぎない」


 「ですが……あなたの“所有していない空間”なら、いくらでも壊してみせましょう」


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