第8章 血の教団と清浄騎士団

 パリ郊外。廃墟と化した修道院。


 夜の帳が下り、雨が冷たい石畳を叩く。

 私は、そこに集まった六人の“怪物”と肩を並べていた。


 吸血鬼カリオストロ。

 人造人間アダム。

 狼人間リア。

 透明人間セバスチャン。

 ミイラ王アナク・セト。

 深淵の守護者ギル。


 そして私――クロエ・ヴァンヘルシング。

 祖父の残した情報をもとに、私たちはこの修道院に集まった。


 ここには、かつて人間と怪物の間に結ばれた“中立条約”の記録が残されているという。

 それが破棄された時、世界は傾き始めた。



 私たちが地下書庫に到達したそのとき――


 爆音が鳴り響いた。


 天井が崩れ、無数の閃光弾が降り注ぐ。


 「伏せろ!」


 アダムが私を抱えて壁際に飛び込む。


 「包囲されてる。……奴らだ!」


 セバスチャンが低くつぶやいた。


 暗闇の中、黒い甲冑に身を包んだ人影が次々に現れる。

 彼らの胸元には、赤い十字の紋章。

 そして、その中心に刻まれた銀の剣――**“清浄騎士団”**の印。



 清浄騎士団。

 表向きは、古代から続く宗教的保護団体。

 だが実態は、“人間のために怪物を粛清する”ことを信条とする私兵組織だった。


 「怪物共に告ぐ!」


 その中から、一人の男が前に出た。

 鋼の面を外し、切り揃えられた銀髪と、冷たい蒼い目を持つ男。


 「我はユリウス・グレイ。第十代清浄騎士団総隊長。

 ヴァンヘルシングの娘よ、貴様が“怪物”を集めていると聞いた」


 「彼らは怪物じゃない!」


 私は叫んだ。


 「彼らは人類を救うために――」


 「黙れ。異端に耳を貸す者もまた異端。

 貴様もまた、“粛清対象”と見なす」



 アナク・セトが静かに前へ出た。


 「貴様らの信じる“清浄”とは何だ。血か。種か。信仰か」


 「“人間”であること。それだけが、我々にとっての唯一の証だ」


 「……ならば、己の心が獣であることすら認めずに、他者を裁くというのか」


 リアが低く唸った。


 「うるさい 何も知らないくせに、勝手に人を“もの”扱いして」


 ギルは一歩も動かず、静かに盾となって私の前に立った。



 交渉の余地はなかった。

 清浄騎士団はすでに、私たちを“殺すべきもの”と定めている。


 「……全員、構えろ」


 私の声に、仲間たちが応じた。


 「“最後の狩人”よ、命ずるがいい。

 我らは、今こそ牙をむく」


 カリオストロが微笑んだ。



 戦いが始まった。


 刃と爪、魔術と銃火器がぶつかり合う。

 清浄騎士団は訓練された戦士たちだったが、仲間たちもまた、神話に名を残す者たちだ。


 セバスチャンが影の中に紛れ、背後から敵を倒す。

 アダムの拳が地を砕き、リアの跳躍が兵の隊列を乱す。

 ギルは濡れた床を滑り、音もなく剣を折る。


 私は彼らの隙を縫いながら、地下に残された文書を探した。


 その中にあった――

 破かれた“条約書”。

 そこには、ある名が記されていた。



「血の教団――“アーク・サングレ”」

「清浄騎士団を影から操る、古の契約者たち」



 この戦いは、ただの粛清ではない。

 背後に、もっと大きな“意思”が動いている。


 人間による、人間のための“正義”が。

 それは、かつての怪物よりも、遥かに冷たく、恐ろしいものだった。


 そして私は確信した。


 この世界を救うには、

 “人間の中に潜む闇”と向き合わなければならないと。



 戦いの火が収まり、騎士団は撤退した。

 仲間たちは無事だったが、傷は深い。


 ギルが倒れた仲間の背を支えながら、静かに私を見た。


 その瞳が、こう告げていた。


「まだ、終わっていない。ここからが、本当の戦いだ」

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