1-2 死に戻り



 。』






「?」


 聴き慣れない声に、俺は足を止めた。


 男性的とも、女性的とも言いがたい。


 人間味がない、とでも表現しようか。


「どうしたリド」クライズさんも停止する。夕飯を食べた店から出て、俺たちは宿を探していた。


「いや、何でもないっす」


 俺は返しながら、その言葉の意味を考える。


 


 


 蘇生ということは、それまで死んでいたということ。なぜ死んでいた? それは分からない。そしてなぜ蘇生された? それも分からない。声はクライズさんには聴こえていないようだから、俺に対しての『報告』なのか?


 今まで死んでいて、今生き返ったのか――それなら、クライズさんの態度がおかしい。彼の反応から推すに、俺が死んでいたことを彼は知らない。つまり、俺は死ぬ――?


 流石にくだらない。俺は首を振った。


「お、あの宿いいんじゃねえか。いい感じに古くて安そうだ」


 クライズさんはいい感じ、というか強度が心配になるくらいには古びた建物を指差す。


「ちょっと行ってくる」彼は先行して、走って宿まで行った。俺はゆっくりとその後をついていく。




 その時――背後から。嫌な気配と視線。

 俺は剣の柄に手を遣りながら振り向く。




 見えたのは――空に浮かぶ、色白の月。


 ……気のせいか。鳥か野良犬だったかも知れない。俺はほっと息を吐いて、宿に向かって歩き出した。




「あ、オレ適性審査明日だからさ、朝早いぜ。日の出前までに集合だったよな」


 クライズは早速ベッドに身体を預けながら言った。


「そうすね」リドークは、敷布団の皺を伸ばしながら応える。安宿のせいか、部屋はあまり整えられていなかった。


「ちょっとこの辺り見てくる。朝飯食べるトコ探さなきゃな」クライズはベッドから立ち上がる。「リドも来るか?」


「いや、俺はいいっす」


「そうか」クライズは言って、すぐに独りで出ていった。


 リドークは、腰の剣を外しベッドに倒れ込む。


 新しい街。新しい出会い。まだ若い彼にとっては何もかも新鮮で、夜になって、どっと疲れが出てきた。


 身体を起こし、荷物の中身の確認をし始めようとした時、こんこんと、扉を叩く音が聞こえた。


 クライズだろうか。あるいはこの宿の主か。リドークはベッドから降り、






 ――






 俺は先程感じた、何かを思い出す。考え過ぎかとも思うが――クライズさんは、扉を叩いて中にいる俺に確認を取る必要がない。宿の主だったら、声かけくらいするだろう。何も言わず、戸を叩く音のみ。もう一度、こんこんと、音が聞こえた。


 相手がクライズさんでも、宿の主でも、後で謝ればいい。


 しかしそれ以外だったら――




 俺は剣を掴んで、寝台の下に隠れた。




 もう一度、こんこんと音が聞こえた。


 俺は息を押し殺し、場をやり過ごす。




 四度目は――なかった。




「リドーク! 大丈夫か」




 その声は――知っていた。


 俺は姿を現す。


 暗闇から現れたクライズさんは、俺を見つけると抜いていた剣をしまい、俺に手を伸べた。それに摑まり立ち上がらせると、「あいつら、けてたんだな」と背後を顎で示す。


 扉の向こうに。倒れている男が二人。


 それらの顔には何となく見憶えがあった。「……殺したんすか?」


「いや。眠らせた」彼は言う。「まあ、警察に引き渡せばいいだろ。明日は早いっつってんのに」仕方のないことを呟いて、二人の男を引きずって出ていった。




 死んでいたのかも知れない、と。


 知らない声による報告について考える。あれは結局何だったのか、誰によるものだったのか、誰のためのものだったのか。


 生き返ったらしいが、死んだ時の記憶が全くない。ただ、蘇生成功、とだけ。


 これがなのかどうかもまだ判然としない。死んでも生き返る、つまり《 》のスキルというなら使えそうではあるが、それを実験しようとは思えない。条件を誤れば命を落とす。


 何が起こっているのかは不明のままだが、とりあえず今日は寝よう。クライズさんは明日。俺は明後日に適性審査がある。合格しなければ、故郷くにに帰るしかない。

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