第27話

「でも、手がかりが人相だけでどうやって広い渋谷から1人のおばあちゃんを見つけるの?」


珍しく素良には何の考えも無いようだった。


「あんたも鞠雄や美琴ちゃんに期待されてるぶん大変ねぇ。こういうのって、以外とキャプテンとかが見つけてきたりするものよ。」

「休憩がてらに、さっきの気になるアカウントの地図に載ってた星印行ってみない?正直1番気になるわ。」


素良は渋谷駅前広場の地図を見る。驚くことにそこにも星印が書き込まれていた。


「!あのアカウントは何がしたいのだろうか?積極的に人を招いているような、でも何重にも工程を経ないと辿り着けないし……」


「そうね。ちょっと矛盾してるわ。こんなにも手の込んだことをする目的は何だと思う?ますます気になってくるわよね。」


星印の所に向かうと土に怪しげな模様の茶色の箱が埋まっていた。


「まぁ予想はついている。本来ならここでパスワードの一部を手に入れて、他の星印も巡ってパスワードを完成させるのだろう。」


箱は持ち上がらないようになっており、箱を開けると、中には透明な樹脂でコーティングされた紙が入っていた。取り出されないようにされている。


内容は論理パズルだった。答えは数字になるらしい。


「私たち遊ばれてないわよね?」


「ああ、能力がなければ俺もここらでこのアカウントの持ち主と関わるのをやめただろう。だが、きちんとパスワードを完成させた先に用意があるということは、それなりの準備をして本気で取り組んでいることだと思う。」

「それに、罠にしては手が込みすぎている。目的は戦い以外の何かだと思うぞ。」


2人が箱に集中していると、突然その論理パズルの紙が影に覆われた。2人は急いで振り返る。


「へっ!ほんとに来やがったぜ。」


全身赤いジャージ姿の男が立っていた。男が口を開けて笑うと銀歯がズラっと見えた。


「何ですか?私はこの箱が土に埋まっていたので気になって触ってしまっただけです。」


「何だコイツらぷるウォって奴を持ってない?一般人が何で箱に気づいてんだよ!こりゃぷるウォのSNSでしか分からねえ仕掛けだぜ。」


鈿音が一瞬口を開きかけたが、素良が視線を送またことにより鈿音の口は固く閉ざされた。


素良が続ける。

「これはあなたが用意したものですか?」


「何で教えてやらなくちゃならねえ?」


「不法投棄だと思いますよ…。それにほら。」

素良は鈿音の方を指差した。鈿音は警察官を呼んでいた。


赤いジャージの男は頭を掻いた。

「ちっ!まぁパンピーなら関係ないしいっかぁ?

コイツはハロウィンの隠しイベントだよ。箱の暗号を元に商品化がもらえるんだとよ。俺は箱に近づく奴からイタズラされる役をしてんだ。」


「何かお困りですか?」

警察官が素良に向かって尋ねる。


「いえ…いえ。こちらの一方的な勘違いでした。僕らはこのままここから去りますから。」


素良と鈿音は渋谷駅前の広場に戻る。


「結局アイツは何者よ?」


「俺の予想ではあそこに立ってぷるウォ持ちに接触して、能力を食らうように言われているんだと思う。」


「駅前の地図は全く関係ない誰かが書き込んだ。それこそ、パスワードを手に入れたいのだろう。

やはり、このアカウントはそれなりに価値のある相手なのかも知れない。」


「一応さ、他の星印も行きましょうよ。」


他の星印でも同様に不良に絡まれた。残念なことに新しい情報は得られなかった。


「絡まれ損だったわね。」


「いや!そうでもないな。俺たちは星印を5カ所巡ったが、パスワードのケタは6ケタだ。1つ数字が足りない。」


2人は渋谷駅前の地図に戻ってきた。地図の星印には1から5までの番号がふってある。

パスワードの数字の打ち込む順番のようだ。

子供の無意識にやる遊びのように、鈿音が星印を指で順になぞってみた。

特殊な並びの1から5までの番号はそのまま6芒星を形作るように分布していたのだった。


「ほら!見てよ6芒星を描くよになぞったらこの建物にピッタリ最後の点が重なるわ。ここが最後のパスワードのありかよ。」


「ちょっと楽しくなってないか?」


鈿音が胸の辺りで腕を細かに振るので素良はほとんど分かっていたようにこの言葉が出た。

今の鈿音にマラカスを持たせたら良い演奏をしてくれるだろう。


最後のパスワードがある建物につくと、必死の形相で逃げる女性とすれ違った。

屋内駐車場で床がよく滑るようになっていたのか、すれ違いざまに女性は転んでそのまま3メートルほどスライディングした。


「大丈夫ですか?」


「ふわっ!ああ…ああ、大丈夫…ですっ!」


女性は後ろをビクビクと確認してしながら急いで立ち上がる。2人が手を貸す暇すら与えてくれない。


「あんたどうしてそんなに焦ってるのよ?」


「ちょっ!焦ってそうだと思うなら…そ…質問しないでくだふぁいよ!」


駐車場から車が出てきた。2人はあれが原因だと思い鈿音が確認を取ろうとしたが、既に女性は走り去っていた。


「うん?何もされてないってことは能力が戦い向きじゃないってことか?」


車から降りてきた男はこちらに一瞥した。

「車をお停めになったんですか?」


「ええ。今取りにきたところです。」


「この駐車場は関係者以外は使用禁止だ。この会社の人間は駐車場を利用するためにIDを首に下げて持ち歩いている。お前たち嘘をついたな?」


男が降りた車は瞬時に大量のミニ四駆に姿を変えて2人を拘束した。

「パスワードが目的だろう。戦ってみせろ!」


「残念だがぷるウォは持っていない。このまま身体検査をしてもいいぞ。」


素良は冷静な顔でT字のポーズで立った。

素良の体を隅から隅までミニ四駆が駆ける。


「何?本当にぷるウォを持ってない?どういうことだ?奪われたのか?」


「……とにかく俺とお前は戦えない。」


素良の体からミニ四駆が離れていく。鈿音の方のミニ四駆と合流して、また元の車に戻った。男は駐車場に車を停めて、2人の前に戻ってきた。


「いいよ。とにかくぷるウォも無しでパスワードを探しにきたなら戦いが目的じゃないんだろう。こっちだよ。」


駐車場の壁にスプレーで論理パズルが書かれていた。


「最後のパスワードは今までのパズルと違ってとりわけ難しいぞ。これを解くにはパターン分析をした場合には数十分はかかる……」


「じゃあ行きましょうか。」


「ああ。」


2人が駐車場を後にしようとしたので男は慌てて声をかける。


「もう解いたのか?お前たち、神童か何かか?」


「'童'って歳じゃないわ。」


「そうだ。このアカウントとあなたの関係は?」


「あるよ!あるからここを任されてるんだ。ハム食ってるそいつが指示を出してる。」


「そうか。ありがとう。」


去り際に男が別れの言葉を送る。

「俺に上手い論理パズルの解き方を教えてくれよなぁ〜〜」


2人は渋谷駅前に戻る。駅前の地図には先程の女性が立ちすくんでいた。


「あなた!さっきの」


「あぃい?あ、あ、あなたちは…あなた達は駐車場で会った?もしかしてお2人もパスワードを解いて?ぅうお願いです。どうか私にもあそこの数字を教えてくだしゃい。」


2人は顔を見合わせた。元々パスワードを解く必要もないので、論理パズルの答えなど知るわけがない。

女性はショックを受けて涙目で擦り寄ってきた。


「どうしても欲しい情報があるんですぅ。お願いですぅ。私の能力をあなた達に役に立てますからぁあ。」


鈿音は擦り寄ってきた手を掴んで女性の涙が高級コートにつかないようにしながら答えた。


「パスワードじゃないけどその先にある画像なら教えてあげるわ。これよ。」


素良はスマートフォンでぷるウォのスクリーンの写真を女性に見せた。


「大したものが載っていると思ったんでしょう?けどこんな意味不明な写真だけよ。」


女性は急に性格が豹変したように地団駄を踏んだ。


「嘘でしょ!ほんとに悪趣味だわ。ここの地図がそのまま投稿で使われてたからここの地図に印をつけてパスワードを探したのに!よりによってこんな!」


「何よどうしたの?」


素良にスマートフォンを返しながら女性は解説した。


「8枚のハムを食べる写真。8とハム……ハムは合体すれば"公"という漢字になります。ハチ公像ですよ!そこが入り口なんだ。」


女性がハチ公像の方に向かう。足取りは荒々しい。


「'灯台下暗し'のつもり?何よ!この地図からちょっと歩けば答えがあったなんて。」


「入り口てのはどういうことだ?」

並行して歩きながら素良が質問する。


「え?何でパスワード探してたんです?毎日ちょっとの時間しか表示されませんが、このアカウントは情報屋さんが運営してるって説明されてるんですよ。」


「そうか。俺たちも欲しい情報がある」


「ええ。ところでさっき言ってた約束ちゃんと守ってね♪」


「うひっ…。分かりましたぁ。」


ハチ公像の前に着くとそこには大きなサングラスで顔を隠す男が立っていた。


3人が声をかけても反応がない。

素良がハッとしてあの文言を使った。


「『鳥の調べで母がなく』だったか?」


男が手を差し出した。

「3人ともこれをつけろ。」


目隠しと耳栓を手渡された。ちょっとしてから3人は車に乗せられた。

鈿音はこの車が誰の持ち物なのかすぐに予測できた。

車が停まるとすぐに降ろされて目隠しを外された。

夕暮れの眩しさを感じながら見つめた先は定食屋だった。

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