第26話

「で?この子はほとんど置き物になったってわけね。」


鈿音の容赦のない言葉に鞠雄は涙目になっていた。


「いや!俺たちみんなの責任なんだ!」


「そうですよ。あの…僕たちがもっともっと工夫して動けていれば。あっもう一度このパソコンを開いてくれますか?」


「相手も老婆と紹介するにはとてつもない強さでした。動きが武道の達人に匹敵していました。」


鈿音は鞠雄を一斉に庇いだす他を、どうしようもない不安な気持ちで眺めた。


「そこまで言うならぁ!この状況の打開策を考えてくださいよ!あっパソコンありがとうございます。」


美琴は場が和むように鈿音に寄り添う。

「鈿音さんは、私たちの最終的な目標であるキツネを倒すことに大きな支障が出たので、本気で心配しているんです。」

「これはキャプテンさんも同様に考えたことだと思います。伝え方に差があるだけなんです。だから、責めないで。」


鞠雄が美琴に笑いかけて、感謝の意を述べた後。

そこには不穏な空気感は消し飛んでいた。鈿音を除いて。


「映画館の復旧の前に合流してもらったのは他でもない。今ちょうど話題に出た打倒キツネについてだ。計画を知っている美琴と鞠雄に真っ先に確認してもらいたかった。」


素良は自身のぷるウォのSNSを開き、その中のキツネのアイコンに向かってピッキング道具を差し込む。


鈿音以外の全員が、素良が自身のぷるウォにピッキング道具を使った事実に驚いていた。

さらに、浮かび上がるキツネの顔に言葉を失っていた。


「一体!これはなんなのだろうか!」


「そう。そこなんだ。これの意味するところから察するに、キツネの正体はAIなのかもしれない。」

鞠雄は興奮した目を素良に向ける。

「僕らの予想は正しかった!」


「AI…ですか?じゃあやっぱり……」


「類くんの話していたゲームにもAIを搭載する予定なんだろう。」

「あいつは類くんが作った可能性が高い。だが未来の類くんだ。類くんも多分キツネの原型に携わったにすぎないよ。気にしないで。」


素良が鈿音やキャプテンにも説明する。

だが、始めて見る興奮した様子だ。


「用はこれがキツネの設計図かもしれないということだ。コンピュータ言語は2進数だが、キツネは俺たち人間の使う10進数で出来ている。」

「おそらく、今の俺たちが知っている人工知能とは比べられない本物の知能を手にしているんだ。」


説明されているはずがより分からなくなった鈿音が素良に待ったをかける。

「もう!きちんと説明すべきよ!私たちはどうやってキツネを倒すの!?」


「そうだ。わるいな。こうなったらこの建物の映画館に向かうか。」


一行は綺麗に片付いた映画館に戻る。ポップコーン男も片付いていた。

営業再開に向けているのが一目でわかる。電灯がついていないためである。


閉まっているドアをピッキング道具でスムーズに開く。

そのまま1番近くの劇場に入る。幸運なことにスタッフは1人も姿がない。


素良がスタッフ専用の部屋に入るとすぐに劇場に光が満ちた。全員が座席に腰掛ける。


「僕らのやろうとしていることは、話しても混乱してしまうような無謀かつ予測不能な作戦なんだ。」

「でも、僕には可能性があると思う。何より確証が多い。きちんと準備すれば必ずキツネを倒せる!」


鞠雄は輝く目でひとりひとりの顔をしっかりと見た。


「作戦名は"ドッペルゲンガー作戦"だ。ドッペルゲンガーは'同じ個体同士が出会うと何らかの因果律で死に至る'という創作された都市伝説のようなものだ。」

「しかし、それがコンピュータ上の話なら?キツネと同じ精度のAIなら、キツネを消滅させることも可能だと思う。」


「私たちの予想ではキツネは未来から来たAIだと思うんです。鞠雄さんも私たち同様、初日に戦わない選択をして、キツネに声をかけられました。」

「その内容は私のものとは違っていたんです。でも、声をかけられたタイミングは全く一緒だったんです。人間が犯人だとして、チームで動いていても、無数にいる拉致被害者を管理するのは非常にミスしやすいと思います。でも、キツネにはそれがない。他にも色々な根拠からありますが、今は鞠雄さんに続きを話してもらいます。」


「同じ精度のAIを作るには設計図と設計者、そして設備が必要だ。なんとこのうち2つがすでに揃った。」

「幸運なことにキツネの設計図と思われる数字の羅列が素良さんの能力で手に入った。あとはこれを2進数に直して、現代のプログラミング制作の技術に落とし込む。設計者は僕だ。能力を使ってプログラムを組むよ。」


「じゃあ正確には1つね。」


「ああ。だから、最優先すべきは鞠雄のぷるウォを取り戻すことだ。その老婆についての情報が欲しい。」


類が顔を強張らせて固まった。ゆっくり口を開く。

「できる…と思いますか?もちろん僕はキツネを倒したいです。でも、未来からの未知の技術ですよ?僕たちは少なくともタイムマシンを作る必要がある!」


「いっそ!キツネのためのコピー機を作ればいいんじゃないか!」


楢紅が苦笑いする。

「キツネがコピー出来るのなら、それはもうキツネ以上の技術が必要になるよ。」


「いや!発想としては悪くないさ。完璧な複製を作れる能力があればいいんだ。素良さんのようにキツネ自身にも能力で干渉出来る例がある。」


「ぅうん。分かりました。僕は設備を探してみます。」

類は俯いて考えた後に、ノートパソコンで何やら調べ出した。


「手分けしてあのババアを探そう!鞠雄は類のそばに!」


「ええ。ここなら安全ですから、居れるだけ居てください。僕は彼と一緒に行動します。」


「一応、私も残ります。1番逃げるのに便利な能力ですから。」


「私たちもあんたのぷるウォを探すわよ。」


「ああ。老婆の特徴は?」


楢紅が説明した。キャプテンが大袈裟に頷いていた。

「髪先だけをカールさせて、髪は束ねて、赤紫色のガウン姿でした。中の服はぶどう柄に茶色のズボン。」


「あと!すごく、ものすごく酒くさかったぞ!」


「いいわ。これから街に出るの。これを預かっててもらえる?」

鈿音は美琴にぷるウォを渡した。


素良もアイコンを触った後、同様に美琴にぷるウォを渡し、ピッキング道具を胸ポケットに入れた。


「よし、4人の2チームだな。今度こそ午後8時に合流だ。」

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