新たに魔王となった俺が、国々の姫から女神の力を手に入れて世界を滅ぼすまで。
@46pwmph
第1話:信じていたのに……
「悪に堕ちた勇者!」
「民を陥れようとしたならず者!」
「テロの主犯!」
「「「死ね、死ね、死ね!」」」
両手両足を縛られ、民衆の前で跪かされた俺へ、市民らが罵声を浴びせかけてくる。
俺はつい先月まで勇者だった。
世界を滅ぼそうとする魔王を打ち倒し、凱旋したばかり。
けれども危機が去れば、人間なんてこんなもの。
俺の知らぬところで非道な事件が起きたと知った時には、その犯人は俺ということになってしまっていた。
だけど俺は信じていたのだ。それは極一部の悪人の手によるもので、すぐに真実が暴かれるだろうと。
しかし、そうはならなかった。
勇者の戦力と人気を邪魔に思って排除に動いたのは、国の首脳全体だったのだ。
民も、つい先日までは勇者様勇者様と俺のことを持て囃していたくせに、今では俺の潔白を信じる者なんて1人としていない。
失望した。
そして、絶望した。
これまで勇者として、人間と世界を救うべく努力してきた人生が無駄だったことに。
「勇者カイを処刑する!」
俺の生まれ育ったオルワンズ王国の国王が、厳かに命令した。
最早怒りも沸かない。
ただ、こんなゴミどもに殺されてやる気もなかった。
勇者として持っていた光の力が、俺の絶望によって裏返る。
ドガン、と俺を戒めていた拘束具が吹き飛んだ。
「うわあ!」
「勇者が暴れ出したぞ!」
「逃げろ!」
愚かな民衆が我先にと逃げ出していく。
悪魔と化し、光の力と相反する性質を得たことで、俺の視界はまるきり変化した。
「……なるほど」
魔王が、世界を滅ぼしたいと思うわけだ。
この世界には女神の光の力が満ちている。そしてそれは、悪魔の身には不愉快でたまらない。
「あ、あの悪魔を討て!」
国王が俺を指差して兵たちに命令するが、彼らは俺の発している闇のオーラに当てられて動けないでいる。
「サーナ、出てこい」
俺の声は広く届いた。
「カイ……貴方は本当に、悪魔だったというの?」
現れたのは、可憐なドレスに身を包んだこの国の姫。
サーナ・アイン・オルワンズ。姫の身でありながら、その優れた剣技で勇者であった俺の旅に仲間として同行していた。
「俺の正体なんてどうでもいい。お前ら人間の愚かさが俺を悪魔にしたなどと、わざわざ強調するつもりはない」
サーナが、少しも俺を庇う素振りを見せなかったことも、気にしていない。
「お前の血が必要だ」
この世界を滅ぼすには、女神の力に匹敵するエネルギーが必要だ。
聞いたことがある。世界の国々の王族は、遥か昔に女神から直々に力を賜った者の一族なのだと。
悪魔の視界になって、確信した。
王族の体には、この世界を覆っている光の力の源泉、神力が眠っていると。
この神力を奪い、俺のものとさせてもらおう。
「ふざけないで。悪魔だというのなら、例え貴方でも私が倒すわ」
サーナは佩いていた剣をすらりと抜き、斬りかかってきた。
魔王の腕を飛ばし、その命に王手をかけるきっかけとなった斬撃だ。
「ウート」
俺は悪魔となったことで獲得した力を発動する。
その1つ、肉体の超強化。
刃を腕で防ぐ。俺の肌は切り裂かれていなかった。
「なっ、なんですって……!?」
「光が反転した反動で、得た闇の力は途方もなく大きいものとなった。もうお前では俺を殺せない」
ぐいと腕を引っ張って、サーナの体を抱える。
「また魔王の城へ行くぞ。あそこは、今の俺には居心地がいい」
魔王の城は闇の瘴気に包まれていて、光の力に溢れていた頃の俺を強く拒絶した。
けれど今は、歓迎するが如く受け入れてくれるだろう。
「嫌よ!」
「抵抗するな。痛めつけられたいか」
「くっ」
敵わないことをやっと理解したサーナが、暴れることを止めた。
俺は宙へ浮く。
「おい、儂の娘を助け出せ!」
オルワンズ王の命令に応えて、魔法兵たちが王城の外壁に並び、俺に向かって拘束の魔法を放ってきた。
「フォールハイト」
悪魔の力の1つ。魔力の超強化。
俺が腕を振るうのに合わせて吹き荒れた魔力の風が、魔法兵たちの放った魔法を悉く薙ぎ払った。
「さあ、行くぞ」
◆◆◆
魔王城があるのは、人間の済んでいない闇大陸。
俺が行くと、数えきれないほどの魔物たちが待ち構えていた。
「勇者カイ! 魔王様を倒したというのに、どうしてまたやってきたのだ!」
俺にそう叫んでいるのは、1人の少女。見覚えはないが、面影から、魔王の娘か何かだと分かる。
「俺を見て分からないか」
「……はっ、その力は、闇の……!」
「俺も悪魔に堕ちたのさ」
手を眼下の魔物たちへ伸ばし、その先に漆黒のエネルギー球を作り出す。
「な、何をする気だ!?」
「お前たちなんて不要だから、まとめて始末するのさ」
そう言うと、少女の顔が青ざめる。
「ま、待て! 降伏する! 私が貴様の言いなりとなろう! だからこいつらの命は見逃してやってほしい」
都合のいい言葉だ。魔王軍の魔物は大勢の人間を殺した。
「なっ、お嬢様、それはいけません!」
「そうです! そんなことになるくらいでしたら、全員で……」
少女の部下らしき魔物たちが諫めているようだが、俺には関係ない。
「いいだろう。来い」
「ああ」
少女は背中に大きな翼を広げ、空を飛んで俺の下までやってくる。
対して俺は、魔法の鎖を召喚して彼女の腕をぐるぐるに拘束した。
「な、何を──」
「お前との約束を守る必要がない。あの魔物どもは邪魔だ」
「まさか、待て、止めろ──」
暗黒の球体が、魔物たちの中心へ向けて落ちていく。
地面に触れた途端に何十倍にも膨れ上がった暗黒球は、魔物たちを残さず吞み込んだ。
「おっ、お前らーッ!!」
「なんて残虐な……」
少女が悲痛な叫び声を上げ、サーナが顔を青くしているが、今の俺はどうとも感じない。
「貴様ぁ! どうしてこんなことを! いや、ならばどうして私だけ生かした!?」
その質問に、俺は少女の背中から腕を回し、その大きな胸を掴んで抱き寄せた。
「性欲を発散する道具にするだめだが」
俺の手に胸を揉まれて、少女は心底嫌そうな顔をして暴れるが、鎖の拘束からは逃れられない。
「闇の力に染まったことで、欲望が肥大化し理性が減退した。ああ、そう言えば闇大陸は食料が手に入りにくかったな」
俺は2人の女を抱えて、踵を返した。
「なら、やっぱりここはいいか。人間の大陸に、新しく闇の領域を作ろう」
「なっ、貴様、それでは、お前が殺した魔王軍と私の部下たちは……」
「ああ、まったくの無駄死にになったな」
「貴様ぁ……ッ! 許さん! いつか絶対に殺してやる!」
「そんな戯言をほざく暇があったら、俺に殺されないように機嫌を取るセリフでも言ってみたらどうだ」
そう言って俺は、中央大陸の端へ飛んで行った。
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