私が趣味をやめた理由

孝彩

私が趣味をやめた理由

 私の趣味はオカルトや心霊、都市伝説系の某動画配信サービスやテレビ番組を見ることだ。仕事が休みの今日も趣味を楽しんでいると、よくある『障り』がある系の動画にたどり着いた。私は『障り』というものを心から信じているわけではないが、ロマンに近いものを感じているためよく好んで見ている。それに知らない配信者だが声も良いし、イケメンで内容も面白そうなので見てみることにした。

 動画の内容は、“心霊現象が多発する廃墟で撮影し、寄せられた情報が本当かどうかを検証する”というもので、しかもライブ配信だった。まぁ、よくある内容だがそういう動画は配信者によって動画の作り方が異なるため似通った内容でも意外と楽しめるのだ。冒頭のあいさつ、配信者の自己紹介、企画の説明。滞りなく終わらせさっそく撮影に入る。建物は3階建て手で元はホテルだったらしい。各部屋を回ってみているようで、この配信者について少し調べてみるとどうやら3人組の配信者グループのようで、演者2人とカメラマンという構成で3人のうちカメラマンだけに少しだけ霊感があるようだった。

 撮影は順調で、所々で変な音が鳴ったりして演者の1人が騒ぎもう1人がその騒ぐ演者にツッコミをしたりしながらどんどん進む。ライブ配信の良いところは視聴者も一緒に探索しているかのような臨場感を味わえることだと思う。私も心霊ライブ配信にのめり込めるようにイヤホンで聞きながら視聴を続けていた。すると演者の一人が足音がすると騒ぎ出した。私はイヤホンから聞こえる音に一層集中する。すると…

―カツ、ズズッ、カツ、ズズッー

足音のような音と共に何かを引きずるような音が微かに聞こえる。すると、演者の一人が『うわーー!』と叫んだと思えば全速力で走り出し、カメラの画角から消えた。しかし、残った演者とカメラマンが彼を探すようなそぶりをするわけでも、慌てるわけでもなく探索を続行する。私は少しの不安とヤラセ?仕込み?という考えが浮かんだ。動画のコメント欄も“どうしたの?”、“探さないのか?”などのコメントで溢れてきた。配信者がコメントを気にしないという事が若干気になるが、先が気になり見続けていると気になるコメントがあった。“この場所、夢で見たことある”そのコメントを皮切りに数人から同じように夢でこの廃墟を見たというコメントが来るようになった。すると、カメラマンがボソッと小声で『俺、ココ見たことある気がする』そして残っていた演者も『俺も、見たことある気がする』…その後画面が10秒ほど真っ暗になると画面に映っていた演者は消え、一人称視点の画角で探索している映像が流れ始めた。いよいよコメント欄がざわついてきたところでなんの前触れもなくライブ配信が終了した。

「…っていう動画が前に少し流行ったんですよ!先輩知ってます?」

「んー。知らないなぁ。その配信者たちはどうなったの?」

「なんか、行方不明になってチャンネルもなくなったらしいですよ」

「ふーん」

「そのライブ配信を見た人たちが次々と夢で自分がその廃墟に行って探索したり、その夢での探索が終わったら死んじゃうとか、実際になんらかの心霊現象に悩ませられるとか。いろんな噂が回るようになったんですって!」

「そうなの?」

「でも、どうせただの噂ですし実際にそれが起きたとしても集団催眠的な事だと思いますよ。先輩もオカルト系好きなんですか?私大好きなんですよ」

「そう。私は全然。そいうのは好きじゃないかなぁ」

「えー、最近オカルトブームなんですよ?…その廃墟の夢の続き気になるなぁ。どうなるんだろう?」

 楽しそうに私に話す後輩。でも私は他人事のようには感じない。毎夜毎夜その廃墟を探索している私には…。もう少しで廃墟の探索が終わりそうだ。残りの部屋、あの最後の部屋を開けて探索が終わったら私はどうなるんだろう。

 -今夜も、しっかりと止めたはずのシャワーが勢いよく出て、私の耳元では何かを引きずりながら楽しそうに笑う少年の声が聞こえる―


『私はもう趣味をやめた。もう二度と怪異に関わりたくない、関わられたくない』

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私が趣味をやめた理由 孝彩 @ko_zai

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