斎藤のおばちゃん


放課後、千穂は『斎藤商店』に制服のまま向かった。

帰宅ルート上ではないけれど、遠回りになるほどでもない。


斎藤商店は、村にある唯一といっていいお店だ。

地元の野菜とか、ちょっとした食品や雑貨を扱っている。

元々はお豆腐屋さんで、村からどんどん店がなくなってから、雑貨店になった……と祖母が言っていた気がする。


「──千穂」


斎藤のおばちゃんは、千穂を見るなり顔をひきつらせた。


「え、なに」


千穂もおばちゃんの形相に、たじろいだ。


「あんた、裏山の石碑に行ったね?」


「裏山なんていってないよ?幼稚園の時に、道が細くなるとこまでは行ったことあるけど──」


「じゃあ、最近石碑に行ったヤツが──ああ、澤田の坊主か……だけど、あの子は亡くなってるだろう?」


「ええ?普通に二日前から、学校に来てるよ?」


驚いたのは千穂なのに、おばちゃんがもっと驚いた声を上げた。


「ええ!?」


いったい、なんだと言うのか。


おばちゃんは、千穂に家に入るように言った。


(まだ買い物もしてないのに……)


「とりあえず、風呂入りな」


おばちゃんは、祖母のように逆らってはいけない雰囲気だった。

キッチンでなにかを刻んで、袋に入れている。


「これを湯の中で揉むんだよ。ちょっと匂うけど、魔除けだからね」


「くさっ!ちょっとこれなに──」


「悪いもんじゃないさ。ただのドクダミの葉っぱだからね」


話は風呂に入ってからだよ、とおばちゃんは千穂を脱衣所に押し込んだ。

千穂は諦めて、素直に入浴した。

ドクダミ葉の強烈な青臭さには閉口したが、斎藤家のお風呂は最新式で、いいお風呂だった。


湯上がりには新品の下着(お店の在庫品)と、浴衣が用意されており、着替えて茶の間に行くとハーブティーを渡されて座らされた。


「よっちゃんから、昔話は聞いたね?」


「ご先祖様とか家系図の話?」


「そう。それも関係してくる話だから。昔、この一帯で色々起きたんだよ。あの裏山。あそこには地獄の口って呼ばれてる穴があって」


──初耳だ。


「人が居なくなったりね、良くないものがいると言われていたんだけど……地主だった伊藤家が、竜神の加護があるって評判だった山奥の村娘に目を付けて娶ったわけだよ」


「それが、伊藤家に伝わってる『雪子様』なんだけど──村では雨を降らせたり、色々出来ていたけどこっちに来てからは何も奇跡は起こらない。業を煮やした亭主が、地獄の口を封印するって言って雪子様を人柱にしたってね」


「まあ……私もよっちゃんと一緒に、曾祖母から聞いただけだがね。裏山には、竜神さまが間違った道を通らぬように石を積んで目印にしてたものもあった、とね」


「目印……?」


「ここは人里だから、潰さないでねって目印だよ。迷信みたいなものさ」


「おばちゃんの、ひいお婆ちゃん?」


「ん?ああ、あんたのお婆ちゃんと私の曾祖母は、一緒だよ?ハトコだけど家も近所だし──姉妹みたいなもんさ」


おばちゃんの話は続く。


「よっちゃんも一緒に聞いてたはずなんだけどねぇ……地主、つまりあんたのご先祖様が、その目印と封印を一緒くたにして、人柱をやったもんだから」


おばちゃんは溜め息を付いた。


「そこから、石碑には絶対触っちゃいけないって決まりが出来たんだよ。触ったら呪われてしまうってね」


「誰に?」


「うーん、曾祖母は地獄の口に目を付けられるって言ってたけど……近隣の村では人柱の怨念とか噂もあるねぇ」


おばちゃんの顔が、いっそう真面目になった。


「地獄の口が開いた時、必ず蛇が大量に出てくるんだよ」


「じゃあ、この前の蛇の事件は──」


おばちゃんは、頷いた。


「間違いなく地獄の口が開いた、と思うよ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る