恋する乙女、奈緒ちゃん
家に帰ると、冷蔵庫の中に鉄分ドリンクが入ってた。
父親の雑な字でチホ、と書かれている。
一応気にはしてるんだ……。
無神経でがさつだけど、千穂を嫌ってる訳じゃないのは知ってる。
知ってるけど、無神経過ぎる。
千穂は父親を交えて夕食をとったあと、ドリンクのお礼を言った。
明日からゴールデンウィークだけど。
なんか忙しくて、誰とも約束してないな。
ピロン♪
グループRAINが賑わってるみたい。
▷ねね、明後日皆で映画観に行こ🎵
▷いいけどタカミオ避難終わったん?
▷大丈夫だよ。もう荷物も片したし。
▷やったーーー❗️
▷おー、ならいいけど千穂は?
千穂も返事をすることにした。
▷行けるよ
話はまだ続いていたが、千穂は貧血のせいかちょっとだるかったので、ベッドでゴロゴロしながらスタンプだけ押して、会話に参加……。
────いいか、ばあやの言うことをよく聞いて
"私"は女の子に言い聞かせている。
女の子は浴衣とはちょっと違う感じの、厚手の着物姿。
⎯⎯⎯⎯まず、ばあやの村に逃げるんですよ、決して爺さまの居る、母の村には行かぬように
頷く女の子。
隣には老婆に背負われた、三歳くらいの子。
────ほとぼりが冷めたら、みさわの、おかんの所に行くんですよ、さ、早く逃げて……
"私"は遠ざかる老婆と子供に、手を合わせる。
────ばあや、頼みますよ……
ピロン♪
「んあ?」
寝てたみたい。
ばあやって誰?オカンって?
なんだっけ、みさわの
ピロン♪
みさわのオカン?
これ……?誰のオカンの話……?
みさわのオカンって、あのばあや?の?
ばあや何者?子供は?
ピロン♪
「んもー、なに」
奈緒ちゃんの個人RAINだ。
未読17って!?
千穂は恐る恐るRAIN画面を開いた。
▷ちーちゃん、お願いがあるの
▷おーい
▷ちーちゃーん
▷寝ちゃった?
▷ちーちゃん、寝たの??
(中略)
▷ちーちゃん寝れた?おはよう🎵
▷あれ、まだ起きてない?
▷おおーい
▷もう8時だよぉー
ピロン♪
▷やっと既読ついた!おはようちーちゃん
いっぱいRAINしちゃってごめんね
▷おはよう、寝ちゃってたみたい。ごめんね
▷ごめん、ちょっとしつこかった、ごめん
あのね、明日の映画なんだけど
▷映画、うん。覚えてるよ
▷あのね、明日の映画とランチ木下君の隣に座りたいの!一生のお願いだよ~
千穂は鼻からプヒッと変な音を響かせ、笑いを堪えた。
一生のお願い!何回目かなぁ。
▷うまく行くよう頑張るけど、絶対は無理かも
▷いいの!ありがとうちーちゃん!
あ、タカミオからも個人RAIN来てる……
▷起きたらRAIN下さい。奈緒ちゃんと木下の件です
▷おはよう、寝ちゃってた。
▷おはよう、奈緒ちゃんさ、木下の隣に座りたいよね、きっと。
千穂は携帯を落とすくらい、取り乱した。
なんでいきなり?
▷ええ!?なんで
▷転校生の俺にもわかるくらいなんだが?
▷奈緒ちゃん、私しか知らないと思ってるから、言わないであげてー!
そうなのだ。
奈緒ちゃんは、私しか知らないと思っている。
クラス全員どころか、先生も知ってるけど。
──好き、をあんなに出せるのは羨ましい。
奈緒ちゃんは、いいなぁ。
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