「――お客様、次は新宿でございます」

クロスは目を開けた。

目の前には、光る案内板。耳には無機質な車内アナウンス。そして、全方位から押し寄せる人、人、人……。

「……ここは……どこだ……？」

彼は見たことのない鏡に映る自分の姿を確認した。

スーツ。ネクタイ。革靴。

異世界で見たこともない“社畜戦闘服”をまとい、満員電車に揺られていた。

「貴様ら……魔族か？いや、人間か？この密集は尋常ではないぞ……！」

混乱する頭の中に、断片的な記憶が流れ込む。

・株式会社セイレーン営業三課

・社員番号1782

・名前：クロス真男（まお）

・年収：320万円（税込）

「……320万……？我が軍の末端兵よりも下ではないか……！」

彼の悲鳴は、満員の通勤電車の中、誰にも届くことはなかった。

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