異世界の王女は、どうやらお姉ちゃんを守りたいらしい
堪え切れず彼女の口から漏れ出てしまった、激しい怒りを含んだ栞の本音。
その声が空気に消え入ったと同時に、あれだけ騒がしかったこの場は瞬間的な静寂に襲われた。
──ヤバッ
一瞬、我を忘れて言葉を吐いてしまった彼女。だが、この静けさで少しだけ頭が冷やされた彼女は、途端に大きな後悔で覆われた。押さえ付けられて動かない右手がピクッと微動したのは、災いの元を反射で塞ごうとしたからなのだろう。
今までの一連を見ているのだから、考えなくても分かる。
目の前にいるのは、意味不明な言動で簡単に人を殴るような人間なのだ。理性では無く、本能で生きる野生動物のような人間なのだ。
だからこそ、刺激してはいけない。冷静に現状を打開する何かを模索しなければならなかった。そうでなければ、また
──ッ!これじゃ……私もコイツ等と一緒じゃない……ッ!
しかし、どれだけ口にした一言に後悔を募らせようと、それはもう既に後の祭り。
銀髪男の表情からは、あれだけ取り繕うのに必死だった柔らかな表情は完全に消え失せて、その代わりに敵を威嚇する為の険のある顔付きを浮かべて口を開く。
「このクソアマァッ!!人が
犬が吠えるかのように大声で、品性の欠片も無い言葉を並べて言い放ったその男。
『逆上』という言葉を辞書で調べたら、例文として載っていそうな程に明らかな逆上を見せている。
栞が考えていた予想が、必然的な最悪の形で的中してしまった。
だが、こんな最悪の状態でも、彼女にとって唯一の救いは逆上して怒り狂っている男が、自分の方向に歩き出そうとしている事である。自身の失言の矛先が、もう一度好きな人に向いていたら、それこそ心が壊れてしまうから。
──良かった……暴力振るわれるのが私で……きっと痛いけど、南君が殴られるよりは我慢できる……
妙にゆっくりと瞳に映し出される、彼女に向かって一歩を踏み出した男の姿。それを眺めながら、場違いな安堵感と理不尽な痛みへの覚悟が栞の胸の中を渦巻く。
「待──ッ!!」
男の行動に危機感を覚えた凛音が、咄嗟にその動きを止める為腕を掴もうとするが、その手が握ったのは虚しいくらい空気だけ。
「少し有名だから優しくしてやってたけど、一回痛い目見ねぇと分かんねーみてぇだなクソアマァ!!」
喉が擦り切れんばかりに叫びながら、猛烈な勢いで栞に近付いていく銀髪の男。
先程凛音を殴った時同様──否、それ以上に力を込めて、勢い良く右腕を振りかぶった。どちらにせよ、身動きの取れない相手に向けるそれでは無い。
そして、もう今にも彼女の顔面を殴り飛ばそうとした
痛みを覚悟した栞がギュッと力強く両目を瞑る。
だが、そのブラックアウトしていく視界数ミリに、動く何かが飛び込んできた。その何かは、男と自分の間を阻むように割り込んできて──
「……ウッ!!」
自分では無い誰かが漏らした苦悶の声音に、驚いてすぐ目を見開いた栞。
その眼前にいたのは、地に伏しているメイド服を着用した金髪の──今日知り合ったばかりのはずであるルリアであった。
この光景を見れば、考える必要も無く
「あ……あ……」
衝撃とショックで、唇を震わせながら唖然とする栞。
ルリアは、凛音以上に強烈な一撃を受けたのにも関わらず、すぐに伏していた地面から自分の足でフラフラと立ち上がり、栞の方に体を向けた。そのまま、雪のように白い肌によって際立つ真っ赤な血を数か所から垂れ流しながら、にこっと柔らかな笑顔を浮かべて、
「良かったです……お姉ちゃんに怪我が無くて……」
「な……な……」
「……?」
「な、何で……?」
無意識に栞の目尻から溢れ出る無数の涙。
申し訳無さ、感謝、驚き、心配、など。ぐっちゃぐちゃに混濁する彼女の脳と胸の内。その中で、真っ先に込み上げてきたものが純粋過ぎる疑問であった。
彼女の何とか言葉として形にしたそれに、きょとんと首を傾げるルリア。
「何で……というのは?」
「何で……私を……」
「あぁ……そういう事ですか!」
栞が全てを言わずとも、途切れ途切れの文脈でその意味を汲み取った彼女。
ルリアは、柔らかい笑顔の口端を更に上げて、優しい屈託の無い笑みのままその口を開く。
「当然です。凛音さんが大切にしている方なので……」
彼女は、「それに……」と少しだけ照れ臭そうに頬を赤らめて、
「それに
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トゥクン……///る、るりあ君……イケメン……!
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