クーデレ銀髪美女は、どうやら好きな人を貶されるのが1番憤るらしい
真夜中と呼べる時間帯に差し掛かった薄暗い路地裏に響き渡る、喉が張り裂けんばかりの凛音の声音。
そこにいた誰もが、彼の行動に驚きながらピタッと固まって、この場は人が複数人存在するとは思えない異様な静かさに包まれた。
だが、銀髪の男は、凛音の唐突な叫び声で一瞬呆気に取られたものの、不快感を煽る人を小馬鹿にしたような笑みはそのまま、吹き出すように声を出しながら
「……っぷ、あははは!そんな声高らかに宣言しなくても……くくっ。あーおもろい」
「…………大事な事だからな」
完全に馬鹿にしたその男の態度に、先程からの憤りを更に募らせる凛音。しかし、それで分かりやすく怒りを表に出してしまっては相手の思うツボでしか無い為、奥歯をグッと噛み締めて今だけは煮え渡る感情を押し込める。
「ふーん……やっぱお前、Shioちゃんの彼氏なんだ。ふーん……」
銀髪の男は、さっきまでと違い感情の機微が読みづらくなった彼の表情を、つまらなそうな目で見つめてそう口にする。それから、何も言葉を発さずに凛音の頭の先から爪先までを、まるで美術品を品定めするかのようにじっくりと瞳に映して、
「お前がShioちゃんの……ねぇ。うんうん……なるほどなるほど……」
顎を撫でながら独り言を呟き、何かに対して勝手に納得するその男。
取り巻き二人を含めた周囲がその言動に疑問を感じていると、急に踵を返した銀髪の男は、眼前に位置する栞に向けて口を開いた。
「なぁShioちゃんさ、アレが彼氏とかマジで言ってんの?さすがに冗談だよな?あ、もしかしてアレ?彼氏って事にしておいて、実はただの金づるとか?」
「……は?何言ってんのアンタ?」
「いやいやいや、え……何言ってんのは俺のセリフなんですけど?もしマジでアレが彼氏なら、Shioちゃん相当男の趣味悪くね?大丈夫?周りにイケてる男いないの?」
口を開けば栞の琴線に触れる、さながら
これまでも、銀髪の男は栞の地雷を的確に踏み抜いて、彼女は不快感たっぷりのコミュニケーションを強いられてきた。それ自体は今も変わっていない。そう、何も変わっていないのだ。ただ一つ、圧倒的に大きな地雷を踏んだ事を除いては──
「──……は?」
普段なら想像も付かない低い声で、文字通り一言だけ言葉を返した栞。
それに対して、銀髪の男が何か言おうとしていたが、彼女はそれを遮って、まるで外の冷たい空気を纏っているかのような、物理的に鼓膜を底冷えさせる声音そのまま口を開く。
「アンタに、南君の何が分かんの?」
「何って、彼氏クンの顔がイマイチの所とか……後は背も高くねーし、着てる服がダサい事とか?てか、Shioちゃんと付き合ってんのに、メイド服着た変な女連れてんのも結構ヤバくね?」
凛音の後ろで佇んでいるルリアを指差して、取り巻き二人とゲラゲラ下品な笑い声を上げる三人衆。揃いも揃って汚い笑い方なのは、きっと類が友を呼んでしまった結果なのだろう。
自らを指差されて嘲笑されようとも、栞の安全を考えて変に刺激しないよう耐えて押し黙るルリア。そんな彼女の意図を汲む凛音も同様である。
目的は、栞の安全を確保する事。その為なら、自分達がどれだけコケにされようと聞き流すしかない。それが分かっているからこそ、何も言い返さないのを良い事に男達がツケ上がろうが、二人は沈黙という選択肢を取り続けているのだ。
「もうさ、早くあんなのと別れて俺等と遊ぼうよ~。アレと付き合ってたら、Shioちゃんのステータスまで下がっちゃうよ?」
「……──れ」
「てかてか、アレと付き合う位だし男なら誰でも良いんしょ?なら俺と付き合お!そしたらさ、お洒落カップルとしてフォロワーの数も爆伸びするし、変な虫が寄って来てもボコってあげるし!メリットしか無いべ!」
「……──やまれ」
「え?何て──?」
「謝れ!!!今すぐあの二人に謝れ!!!」
何も言い返す事が出来ない二人の怒りを代弁するように、喉が擦り切れんばかりの叫び声を銀髪の男に突き刺す栞。
彼女の歪んだ表情には、怒りや嫌悪を超えた憎しみに近しい色が滲み出ており、充血した目で睨み付けるその眼光には、男達にある種の威圧感のようなものを感じさせた。
「謝れ……?何で?俺はShioちゃんのメリットになる話しかしてないのに?」
「メリットなんて一つも無い!!アンタ等の薄っぺらい価値観で、私の大切なものを勝手に推し測んなッ!!」
「薄っぺらい?いやでも実際、俺の方がイケメンだし筋肉あるし……」
「それが薄っぺらいって言ってんのよ!外見とかステータスとかどうでも良いッ!ていうか南君はすっごいイケメンだしッ!!」
「い、一条!?」
怒りに任せて言葉を並べていたら、その勢い余って言う必要の無い本音をつい吐露してしまった栞。凛音の口からも、この場に似つかわしくない腑抜けた声が漏れ出てしまう。
「はぁ、こんな奴が良い……ねぇ」
一瞬だけ形成された両片想い同士の甘酸っぱい空気を傍らに、再度凛音の方に
そして、不吉な足取りで彼の元にゆっくりと近付きながら、もう一度口を開く。
「どんな方法で騙したんだか。騙されてるShioちゃんの目……覚まさせねーとな」
「何を……」
全くもって話が通じない銀髪の男は、本気で訳が分からず困惑している凛音の真ん前に仁王立ちして、そっと軽く両腕の袖を捲くる。そのまま、
「お前の情けない姿でも見りゃ目が覚めんだろ。ほら、かかってこい」
「だから何を言って──」
「来ないならコッチからいくからな」
言い終わるや否や、凛音の顔面目掛けて拳を掲げたその男。
次の瞬間、鈍い殴打の音と共に、強烈な痛みが走った彼の左頬。そして、脳が揺れる衝撃と一緒に、刹那的だが途切れた意識の細い糸。
もう一度その糸が繋ぎ止められた時、気付けば凛音の体は、固く冷たいアスファルトの上に放り投げられていた。
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