クーデレ美少女は、どうやら意外にも文学を嗜むようで
メイド服を試着した後、結局何着か店員に衣装を見繕ってもらい、それらを購入していた凛音達。
退店する前、彼と店員が連絡先を交換していたように見えたが、その実は全く分からない。
そして、意気揚々とコスプレ専門店を去った二人。店を出るや否や、彼等は再び仲睦まじ気に手を繋いで、ウィンドウショッピングの続きを始めていた。
恐らく、栞の存在はバレていない……と思う。一瞬凛音と目が合ったような気もするが、彼の性格ならたまたま知り合いがいたら、すぐに声を掛けて来そうなものだし。
ストーカー行為がバレていないという事は、つまりまだ継続できるという事。いや、決して犯罪行為を助長させている訳では無いが、意味合いとしては──まぁ分かるだろう。
しかし栞は、フロアの更に奥へと歩いていく彼等の背中を、少し距離を置いた所で立ち止まりながら見つめ、肩を落としながら重苦しい溜息を吐いた。
「はぁ……何やってるんだろ。私。だって、こんなのもう……」
──確定じゃん。
初めは、親戚かもとか、妹は有り得なくても親族の子かもとか、そんな淡い期待も少しは持っていた栞。だが、コスプレ衣装専門店でのあの二人の距離感や、お互いに見せている表情で確信してしまった。凛音の彼女かどうか定かでは無いが、絶対に何かしらの関係性は持っているだろう。男女の──心か、もしくは体の繋がりが。
傷付くのも覚悟して後を付けた訳だが、ここに来て高波のような後悔が、彼女の心を襲いそして濡らしてしまう。知らなければ良かった、あのまま人違いで納得しておけば良かったと、本気でそう思ってしまう。
「何で……嘘吐いたの……」
栞は、様々な意味を含めて、一言だけそう呟く。しかし、そんな事を彼女が考えた所でどうしよも無いのも、また事実であり。
だから、他人に想いを寄せるのも、期待するのも嫌なのだ。相手の知らない所で、勝手にこっちは心がグチャグチャにされてしまう。それを、言葉を介さず相手に伝える手段ももちろん無い。
──まぁ……勝手に期待したのは、私なんだけどさぁ……
心にのしかかる虚無感と、ほんの少しばかりの寂寥感。そして孤独感。
栞は、胸の中を埋め尽くす様々なネガティブな感情に、もう一度、更に大きく大袈裟に長い溜息を吐いた。
「ほんとに私……バカみたい……」
二十年弱の年月をかけて、学んできた事なのに。今なら、今の私ならって、また抱く必要の無い期待を感じて、また勝手に裏切られたような気持になって。
そんな事を考えていると、彼女の目頭がじんわりと熱を帯びてくる。そして、目尻から涙が零れ落ちそうになった所で、それが頬を伝る前にサッと服の袖で拭き取った。
「…………行こ」
ゆっくりと、踵を返した栞。もう姿の見えなくなったあの二人の背中に、彼女は背を向ける。
そのまま、さっきは乗り損ねたエスカレーターに、今度は立ち止まる事無く足を掛けて、本来の目的である三階へと向かって行った。
*
「──すぅ…………はぁ。やっぱこの匂い、落ち着くなぁ……」
鼻から肺いっぱいに空気を吸い込んだ栞は、鼻腔を
彼女が今いるのは、本来の目的地であるショッピングモールの本屋さん。
特段大きくて広いわけでは無いが、周辺であれば(以下略)ここの本屋。持ち運びが楽な為、本を読む際は紙より電子派の栞だが、この空間に漂う紙の匂いが好きで、時々自分自身で書店に足を運ぶのだ。
元々は、活字などもちろん、柚葉から勧められた漫画以外、ほとんど書物に触れてこなかった彼女。最近──それこそ、大学に入ってから活字の本を読み始めて、面白さに気が付き、今では趣味の一つと呼べる身近なものとなった。ただまぁ、本を読み始めるきっかけというのは……
──南君……なんだけどねぇ。
少しでも彼と話を合わせたくて、本を読み始めた栞。それがたまたま、彼女の『面白い』に合致して趣味になっただけの事。元を辿れば、凛音がいなければ本を読む事すら無かったのだろう。
「失恋した直後に、初恋の相手と趣味を合わせる為の物を買いに来るとか……本当に何やってるんだか……」
誰へ届けるでもない独り言を、そっと空気に置くように呟いた栞。
だが、だからと言って帰るつもりは毛頭無い。きっかけは凛音だったかもしれないが、本の面白さに気付いた以上、失恋とは関係無く今後も続けていきたい趣味なのだ。むしろ、失恋したからこそ、少しでもそれを忘れる為に読みたいまである。じゃないと、無意識に涙が溢れてしまいそうだから。
「あ、この作家さん新作出したんだ。前にこの人の本読んだ時は、夜更かししちゃって次の日の一限飛ばしちゃったんだよねぇ……」
棚から一冊を手に取りながら、懐かしい思い出に栞はくすっと笑みを零した。
彼女の中で、お目当ての本はもちろん決まっている。本にハマったきっかけと言える大好きな作家が、新刊を出したようなのでそれを買いに来た。
だが、店の中をぷらぷらと歩いて、思わぬ出会いを楽しめるのも、実店舗である書店の良い所でもあったりする訳で。電子では、基本的に自分の趣味趣向に合わせた本を、勝手にAIが算出してお勧めしてくる。だからこそ、奇想天外な本との出会いが少なく、新たな興味の開拓という面では、遥かに書店に劣っていたりもするのだ。
栞の体感では数分だが、スマホの液晶に映る時計を見る限り、大分長い時間この場所に滞在していたらしい。
ある程度散策し終わった彼女は、足の疲れも相まって、そろそろ目当ての本を買って帰宅しようと考え、お店の入口付近に設けられた単行本の特集しているコーナーへと体の向きを変えた。
目当ての一冊がそこに置かれているのは、入店した際にもう確認済みである。
至福の時間を過ごし、段々頭の中から失恋した事実が薄れかけていた頃。
運命の
警戒心など完全に消えていた為、驚きで一瞬固まってしまう栞。
しかし、こういう時に限って、何故ここまで勘が良いというか──間が悪いのだろう。
何かを感じ取った凛音が、完璧に栞の方へ視線を向けたのだ。目が合わないよう、すぐに顔を背けて彼等と反対の方へと逃げた彼女だが、仮に目は合っていなくても姿は間違い無く見られただろう。
凛音がいた位置の死角へと潜り込んだ栞。そして、荒い呼吸と震える唇そのまま、彼女は口を開いた。
「南君に見られた……絶対……絶対に見られた!!」
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前のお話にある、凛音達の視点も読み返してみると、凛音達と栞のすれ違いにまた違った面白さを発見できるかもしれませんね!
近況ノートにも書いたのですが、GA文庫のweb小説コンテストにこの作品を出します!!
これからも、変わらぬ応援よろしくお願いします!!
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