優しく抱きしめる王女は、どうやら1人の少年を救ったようで

「えっと……どうして?」

わたくしが、今凛音さんに膝枕をしたいと……そう感じたからです」

「うん。だから……それはどうして?」

「……?どうしてと聞かれましても、そうしたいからとしか言いようが……?」


 当然でしょと言わんばかりに、凛音を不思議そうに見つめながら小首を傾げたルリア。


 今から本心と話をするという言葉だけでも意味が分からないのに、それに加えて膝枕をしようと言い出す彼女。理解し難いその言動に、凛音はじゃっかん怪訝な表情を浮かべて、


「膝枕は……大丈夫。それに、さっきの話はもう一区切りついたからさ。俺はルリアに、夢を諦める事を否定してもらおう何て思って無いし、むしろきっぱり諦めたいっていうのが正真正銘の本心だから……」


 首を横に振って、はっきりと彼女の提案を断った凛音。


 しかしルリアは、そんな彼の反応に「ふ~ん」と喉を鳴らすと、


「私……殿方に膝枕をすると進言したの何て、生まれて初めてでしたのに……ごめんなさい。そうですよね……私なんかに膝枕、されたくないですよね……」


 凛音は、急に叱られた子犬のような仕草で落ち込む彼女に、込み上げてくる罪悪感から反射で「ちがっ!」と、言葉が口を衝いて出てしまった。


「そんな事無いから!」

「……そんな事って?」

「だから、えっと……ルリアの膝枕が嫌とか、そういう事じゃ無いっていう……」


 少し慌ててそう言った凛音。


 しかし、それを聞いたルリアは、彼には気付かれないよう密かにちょこっと口端を上げて、


「それなら……ここ、頭のせて下さいっ!」

「う、うん……うん?」

「ほらっ!早く早く!」


 ルリアにかされて、いまいち釈然としないものの、言われるままソファーに寝転がって、そのまま凛音は自身の頭を彼女の膝にそっと置いた。


 布越しでも分かる、その柔らかさ。そして、絶妙なフィット感。


 膝枕など人生で初めてされた為他と比較できるはずも無いのだが、それでもこの子にされる膝枕は、最上級に極上で贅沢の極みだという事が、本能を通じて理解出来てしまう。


 少しの間、初めて頭を置く女の子の膝を堪能していた凛音だったが、上から覗き込むように顔を下に向けたルリアと不意に視線が交わり、恥ずかしさから頬を赤く染めて居た堪れない表情を浮かべた。


 そんな彼を見つめて、くすっと柔らかな微笑を漏らすルリア。そのまま彼女は、凛音の前髪辺りを擽るように軽く撫でて、


「ふふっ、どうでしょうか?」

「何か……小さい子供みたいで恥ずかしい……」

「そうですねぇ……今の凛音さん、赤ちゃんみたいで可愛いです」

「う……っ。やめて……客観的に見ちゃって、恥ずかしくて死にそうになる……」

「たまには、そういう日があっても……良いではありませんか。それに、何よりも……凄く落ち着きませんか?」

「それは……うん。落ち着く……凄く」


 目を瞑って、ルリアの膝と撫でられている頭の──五感でいう触角だけに神経を集中して、軽く頷いた凛音。心なしか、ずっとザワザワとしていた心の中が、段々と静かになっていくような感覚を覚えた。まるで、嵐が過ぎ去った次の日かのように。


「ですよね。とっても分かります。お母様のように上手くは出来ないですが……」

「いや……十分だよ。ううん、最高……かな」

「あら、嬉しい事を言って下さりますね。そんな事を言われてしまったら、もっと献身的にしたくなってしまうではありませんか」

「献身的……?それはどういう……わぷっ!」

「こういう事ですっ!」


 凛音の頭部を包み込むように、彼の顔に胸を寄せて優しく抱きかかえたルリア。彼女の豊満な左胸によって、凛音の口元はむぎゅっと弾力を感じながら潰されてしまった。


 視覚を遮断しているからこそ、更に敏感になる触角と──それと聴覚。


 静寂に包まれている部屋で、凛音の鼓膜を揺らすのは絹が擦れる音と、トクントクンと一定の心拍を奏でるルリアの心音だけ。


 心地の良い彼女の心音と、頭部を包む温かな人肌に身を委ねていると、胸の奥底に仕舞い込んでいた何かの感情が唐突に込み上げて来て、その熱が自身の目元に集中したのが分かった。


 そして、さっき無理矢理栓をした涙腺がもう一度開き、じんわりと目尻を濡らすそれが、一滴、また一滴と重力に引っ張れていく。しかし、同じ涙でも、これは辛さとか心身的な痛みから守る防衛反応では無い。安堵から来る、暖かみを帯びた涙であり……


「うぅ……ぐすっ。ごめん……せっかく買った服、濡らしちゃって……ごめん」

「いえ、凛音さんに買って頂いたお洋服ですから、存分に濡らして下さい。もし、そうじゃ無かったとしても……満足するまで、濡らして下さい」


 柔らかく、そして何よりも優しく。凛音の耳元で囁くようにそう言ったルリア。


 そんな彼女の声音、眼差し、表情。どれを取ったとしても、我が子をいつくしむ、優しい母親そのものであった。


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