処女航海
@Handa54
処女航海
私の家族は四人家族です.力持ちなお父さん.元気いっぱいなお母さん.何でも知ってるお兄ちゃん.
お父さんは家にいないことが多いです.それは私たちのためにお仕事をしているから.
お母さんも家にいないことが多いです.それも私たちのためにお仕事をしているから.
お兄ちゃんは「こうこう」というところに行っています.お医者さんになるために勉強を頑張っているんです.
私も幼稚園に行きます.来年は「しょうがっこう」に行くからいっぱいお勉強します.
今日もお兄ちゃんはいつも楽しそうにお勉強を教えてくれます.いつも賢いねって褒めてくれます.
しばらくお父さんとはあまりお話ししてないです.お父さんの周りには雲があるのが私は面白いです.あとお父さんがいる時にはお兄ちゃんもいるから楽しいです.
お母さんは毎日いっぱい話してくれます.ちょっとむずかしいことを言われてわからないことが多いです.でもあとでお兄ちゃんがお母さんの言っていたことを教えてくれます.
私はあんまり得意なことがないです.いつもやってもらってばかりなので,「しょうがっこう」に行くまでにはできることを多くしたいです.
------------------------------------------------------------------------------------------------------------
明日から「しょうがっこう」に行きます.お友達はできるかな.幼稚園のお友達と離れちゃうからちょっと不安です.寂しいです.
お父さんもお母さんも,家にいないです.だからもっと寂しいです.でもお兄ちゃんが「大丈夫」って言ってくれます.
「ぜんぶ,大丈夫.」
お兄ちゃんは「いってらっしゃい」も「おかえりなさい」も言ってくれます.だからしばらくお父さんとお母さんがお外でお仕事をしていても寂しくないです.「しょうがっこう」が少しだけ楽しみになりました.明日にならないかな.
------------------------------------------------------------------------------------------------------------
筆圧の薄い黒鉛の線は無邪気さを放っている.日記代わりのお絵かき帳にのたうち回る灰色の線は無知な私を現すには十分だった.兄はずっと私を支えてくれた.私は気づくのが遅かった.
私は今も得意なことがない.何もできない,何も与えられていない.今日も六限まであるから帰りは兄より遅くなる.晩御飯を用意して待っていることすらできない.兄にしてもらったことの全てが返せない.きっと彼は気にするなというだろう.きっと,どこにも影がない笑顔をしてくれる.あの頃の私,守られていた私,無知で無垢な私.今からでも返せるだろうか.フィルムを剥がしたばかりのリップをひと塗りした.
処女航海 @Handa54
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます