第47話 フィーファの慟哭
レスティーナの王都に向けシェイン、フィーファ、レイラ達が乗る馬車は道なりに走る。
イノセントの女王ラミュアから支給された馬車を引き続き利用しているが現在はアルフィダがいないため馬車の御者席にはマグラーナの大臣ロンドが専任として御者を用意してくれた。
そんな馬車の中でシェインはアルフィダから言われたアングリッタに気をつけろという言葉の意味を早速2人に聞いてみる事にした。
「アルフィダからアングリッタが黒幕って言われてるんだけどどういう意味かわかるか?」
「アルフィダがどういう意味を込めてシェインにそんな事を行ったのかは解りかねるがアングリッタは列国の一つに数えられる大国の一つだ。」
「そのアングリッタが怪しいって言った根拠…皆は思い当たる所とかあるか?」
列国5大国家の一つ。
アングリッタ…正直聞いた事がない。
知らない事を元現代人だからといって棚上げは出来ない。
中身が別の世界のおっさんだったとしてもこの世界で14年間生きて来たのはそのおっさん……俺自身だし、フィーファやレイラでも知ってるなら知らないは通らない。
「この際ですし、おさらいです。
列国五大国家と言われているようにこの大陸にはそれぞれ5つの大国があります、ここまではオーケーですよね」
「耳にタコが出来るくらい聞いてるからな…そこは大丈夫だ。」
「では5つの国の名前はご存知で?」
「えぇと…、レスティーナだろ、マグラーナだろ、ラティクスにイノセント、…とアングリッタってわけか…。」
「そういう事ですね」
「で、アルフィダはそのアングリッタの何を気を付けろって言ったんだろう…?」
「……、」
黙り込むフィーファに代わってレイラが話だす
「アングリッタは確かに列国の一つに数えられる大国だが今から10年程前はその立場も危ぶまれていたと聞く」
「危ぶまれていた?」
「あぁ、なんでも列国五大国家の名から除名する所まで行ったらしく、その時のアングリッタ国は瀬戸際だったらしい。」
「そんな状態からよくまた五大国家に返り咲けたもんだな、」
「あぁ、私も詳しくは知らんが余程の努力なくしてなせない偉業だろうな。」
「…………、」
「どうしたんだよ、さっきから大人しいな?」
シェインとレイラの話に割り込んで来る事なくフィーファはずっと黙り込んでおり、何かを考え込んでいる様子だったが何か自分の中で決心が付いたのか顔を上げ語りだす。
「アングリッタには私の腹違いの姉か妹がいるという噂があるんですよ。」
「はぁ!?」
「えっ!?」
フィーファのとんでもない発言に驚き戸惑うシェインとレイラ
「前にも話しましたよね、私の両親の話」
「え?あっ、あぁ、軽く聞いたっけかな……」
「父が母に虐待してただとか、母が父を刺殺しただとか、ろくでもない噂がありますが噂の一つにはこういったものがあります。」
いったん話を区切りフィーファはすぅーと息を吸い込むと一気にソレを吐き出すように言った。
「政略結婚の末、母は同じ列国加盟国の王子と無理やり結ばされました。その子供が私なんです。
その後アングリッタの王子…私の父親はどういう経緯かは知りませんが私を捨てて帰国…その後、自国で作っていた妾の子供と平和に暮らしている…って噂ですね……」
「その国がアングリッタ……、という事ですか?」
「えぇ、そうです。……もっとも私は事の真実を全くもって知らない…噂を継ぎ接ぎしただけなので本当か嘘かも定かじゃないんです。」
「そんな…」
なんて親だ…。
フィーファの語った話が真実なら救いようがない…平和な世界で生まれ育った前世の価値観がそんな馬鹿なと彼女の話を拒否する。
しかしここは異世界…それも人の手によって作り出された秩序や法律が不十分な中世的な世界。
そんな未発達な時代の世界ではこんな事が当たり前に起こるのかも知れない…。
しかし無理もない…この異世界よりも遥かに文明が進んだ…かつての俺がいた現代社会でもこんな胸糞悪い話が完全に無かった訳じゃない。
一時の快楽から子供を作ったは良いもののお金が無いとかネグレクトで育てられず施設に押し付けられたり里親に出される子供は多いと聞く。
シェインはフィーファの置かれている境遇に何も声をかけれずにいた、それはレイラも同じ。
馬車内には重苦しい空気が充満していて冗談など言った日には半目で睨まれる運命が容易に想像出来た。
「アングリッタが一時期衰退していたのも時期が被ります。レスティーナとアングリッタの間で何かがあったんでしょう、それには私も間接的にしろ直接にしろ関わっていると見て間違いないと思ってます。私はその真相が知りたい、でも城の中の人達は私には何も教えてはくれない、恐らくはお祖父様が口封じしてるんでしょうね。」
フィーファの母親は確かに実在する、それはフィーファという存在が実在している以上確かな事実だ。
ではその母親は何処に行ったのだろうか?
フィーファはその事実を誰からも教えられていない、ガノッサからも国王の宰相からも、そしてその国王である祖父からも。
その上、王はまるでフィーファをペットのように檻に入れて閉じ込めようとする。
そのおこないはまるで自分の大事なペットが誰かに取られないように必死になっている様ですらあった。
それはまるで二度と同じ過ちを繰り返さないための防護行動にも思えてしまう。
だからこそフィーファは思ってしまう。
祖父は娘を失った過失を二度と繰り返さない為に私を閉じ込めているんじゃないか…と。
冗談じゃない。
私は祖父のペットでも玩具でもない。
過去に何があったかなんて知らないしどうでもいい!
話もしないでわかってもらえると思っているならそれほど馬鹿らしい話もない。
「勘違いしないで下さいね、二人共、私は顔も覚えてない両親や顔も知らない姉妹に未練も執着も一切ありません、ただそんなものの為に束縛されたくないだけです。」
「……、強いですね、フィーファ様は…、」
「レイラ…?」
「私は孤児です、親がいない事には慣れているつもりですが何処かで強がっていたのも事実です、寂しかったのも否定できない、貴方の様に強く有りたいです…」
「強く…ですか、私は強いんでしょうか、」
「強いと思うぜ、虚勢でもなんでも強がれるのは強さだ。」
「……、虚勢じゃありませんし!本当に何とも思ってませんし!」
「え?そうなん?あっ、うん、ゴメン」
「何がゴメンなんですか?気持ちが籠もってないですよ!」
「ふぇ?ひたいひだい〜」
シェインの頬をつねってグニグニと引っ張ったりするフィーファにシェインは涙目で痛い痛いとされるがまま。
口では強がってみせても親がいなくて平気な子供などいるはずはない、その事を理解出来るからこそシェインもそしてレイラも下手な慰めなど口にはしない。
それが相手を傷つけると自分が1番理解しているから。
シェインは母親から託された剣を見る。
平和な現代世界で家族に守られ生まれ育った前世の俺にはこんな過酷な世界があると想像できなかった…。
しかしこの異世界でシェインとして生まれ育ち今の意識や記憶に過去の記憶は上書きされ、俺は今の俺となった。
幼くして父親に捨てられた俺と母さん。
父親の顔は思い出せない、前世の意識が昔からあったなら幼児であっても覚えていたかもしれないが生憎と意識が覚醒したのはここ最近の話だ。
だから父親なる存在が母を愛してたのか、それとも行きずりの女を手籠めにしたのか…俺にはわからない。
ただ…シェインの記憶が俺に語りかける。
奴を許しちゃ駄目だ。
奴は俺がぶん殴る…母さんの分まで…と…。
俺は母さんがシェインに託したこの剣を強く握る。
「しかし、結局アルフィダは何をもって黒幕とか言ったんでしょうか、言葉が抽象的過ぎてわかりかねますね」
レイラが話の切っ掛けになった話題に改めて振り返る
「ここでアングリッタの名前を出すと言う事はアルフィダはアングリッタと交流がある、もしくは何かしらの情報を手にしたか、だろうな。」
「その情報が気掛かりですね、正直嫌な気がしてならないです、マグラーナの一件にアングリッタが絡んでるなら………」
「言葉通りに受け取るならこの一件の黒幕がアングリッタと言うことになりますね」
フィーファの言葉をレイラが繋ぐ
黒幕がアングリッタなら2年もの歳月をかけてフィーファを精神的に苦しめてきたのはマグラーナではなくアングリという事となる。
「あり得ないなんて言うつもりはないですがもし本当にアングリッタが裏で何かしら動いてるならこの一件には列国全てが関わってる事になります、こんな事本来あってはならない事ですよ。」
「どうなるってんだよ?」
「列国が無くなってしまうかも知れません…」
「ははは、それこそ大げさだろ」
「だと良いんですけどね……。」
シェイン達が生きるこのハイゼンテール大陸の治安はその大陸にある5つの大国、列国五大国家によってなされている。
中小諸国の諍い…戦力バランスや治安の維持は全て列国5大国家が存在するからこそ守られている。
もしこの国家郡が互いに争い潰し合えば五国のバランスは崩れ列国はその機能を失う。
ただでさえその一つであるマグラーナは機能していない現状においてその先に待つのは何か…?
そんな物は考えたくもないだろう
約一週間以上に渡る馬車での旅を終え3人はレスティーナへの帰還を果たす。
もっともシェインは辺境の村育ちの田舎者だ。
同じ王国とは言えマグラーナとは活気が違う。
色々と不安な事が先の未来に待ち受けていたとしても取り敢えずは目先の初めて見る町並みや景観に心躍らせるのも無理の無い話。
しかしそんなシェインの心境に水を差す出来事はいつだって唐突にやってくる。
コチラに急いで走り寄ってくる数人の騎士達はフィーファを目視で確認すると大人とは思えないみっともない顔でそれでも恥を捨てて懇願してくる。
「フィーファざま!よくぞ!よくぞお帰りになられました!」
「団長を!どうか団長を!!」
大の大人達が半べそでまくし立ててくる。
奇しくも凄まじい圧にたじろぐフィーファ。
「落ち着いて下さい皆さん!何が、何があったんですか?」
そう確認を取るフィーファにたいして騎士達は涙と鼻水を流しながら訴えた。
「団長が!ガノッサ団長が今日!処刑されるんです!」
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