諦観
ナナシリア
第1話
『そんなもんだろ』と自分に言い聞かせる俺は、格好悪いだろうか。
「まあ、書いたことに意味があるよ」
彼女はそう言った。
まるで定型文のような言葉。
そう、だよな。
ただ、今回も届かなかったというだけ。少しずつ少しずつ、近づいている、はず。
そんなもんだろ。
そんな簡単なことじゃない。
そんなすぐに受賞できるなら、誰の夢も叶う。
そんな……。
否。
書いただけじゃ意味がない。
届かなければ意味はない。少しずつ近づいているのかすらもわからないまま、また届かないものに魂を込め続ける。
そろそろ認められてもいいじゃないか。
俺は、そんなに簡単にやってきていない。
自分の望みと魂と、願いと過去と現在と未来と、時間と手間と苦しみと、思い浮かぶ限りでは表しきれないようなすべてを賭けてきた。
まだ足りない。でも、これ以上は好きでいられないような気がして、どうしても手が出せない。本気になりきれない。好きでいたい。
『そんなもんだろ』と妥協する自分は、格好悪いから嫌い。でも、だからといって本気になりきれない自分もいる。そんな自分が嫌いだ。
もし俺に才能があったら、こんな思いはせずに済んだのだろうか。
ずっと、才能があると思っていた。でも、そんなことなかった。
荒削りな技術と、足りない経験と、養いきれないセンスと、知らない感情と、出会ったこともない知識。
どれも届かない。弱い。
未来がわかる。
きっといつかは、そう言い続けて腐って、徐々にこの夏のことも忘れて、ただ冷めていく。
こんなに熱い気持ちだって、いつか冷めゆくならそれは冷たいのと同じ。
俺が熱いのは、今が夏だから。それだけ。
諦観 ナナシリア @nanasi20090127
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